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異世界で銃を構えながらティーチ&ビルド【塹壕戦の猛者は転生先で育成に励みます】  作者: 稲村某(@inamurabow)
一章

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19/64

⑱交易所の主



 「……そう言えば、アンさんはいつ向こうの使う言葉を覚えたんだい?」


 帰路半ばでリチャードは不意に思い出し、周辺を警戒しながらアンに尋ねてみる。


 「貴方達が探索者と呼ぶ人々から、幾つかの語彙を収集したわ。後は暗号解析より容易かったけど……ただ、彼等は医薬品を使う前に死んでしまったけれどね」


 さらりとそう言われ、リチャードは自分の努力が足りない事を痛感させられる。だが、相手は機械人形で自分とは違う。しかも……いや、待て。


 「……医薬品? 君はその使い方を知ってるのか?」

 「……リチャード、その問いは軽率よ。私は、都市の防衛に特化した自動人形。その過程で負傷者が出れば可能な限り延命及び治療に尽力し、それが銃創による負傷なら体内に残った弾丸の摘出から縫合まで、全て独力で行う事可能な制御ソフトウェア及び実施プログラムが内蔵されているわ」


 「……そりゃ、良かった。まあ、それを使う事が訪れないのを祈っておこう」


 リチャードはアンの難解且つ先時代的な言葉に面食らいながら、彼なりに率直な意見を述べると彼女もそうね、撃たれたら痛いでしょうからと軽く肯定した。




 時系列で説明すると、リチャード達は朝食もそこそこに到来したデルベトポリ国の派兵を退け、その後【迷宮】を離れて久々にジルデアンタ村にやって来た。つまり彼等は、朝御飯抜きで動き回っていたのである。


 「……リチャードさん、腹減ったよ…」

 (……あの、えっと……ミリオも疲れてみたいです……)


 当然だが、若い二人のモルフとミリオは村の入り口に辿り着くと同時に荷を降ろし、くたりと膝を衝いてリチャードにすがったのだ。無論、アンはともかくリチャードは何も荷物を背負っていない。理由は明白、単純にモルフとミリオが自分から願い出たからなのだが。


 「心配するなって……二人で先にマーシュの所に行っときな」


 リチャードがマーシュと発した瞬間、モルフとミリオは背筋を正し、さっきまでのへばり具合を微塵も見せない勢いで立ち上がると彼の前から居なくなってしまう。


 「リチャードさん、マーシュとは誰の事ですか?」


 アンの問い掛けにリチャードは、


 「……ああ、マーシュか。彼女は俺達の守護天使なんだが、それも気分次第でね。ただ、居てくれんと面倒なのは確かさ」


 と、少しだけ曖昧な答えを口にする。無論、アンの求める解答には程遠い。


 「なら、そのマーシュという方は、ジルデアンタ村の官吏かんりか何かですか?」

 「官吏? いや、全く違うよ」


 続けてリチャードの発した答えは、実に端的で明確だった。


 「……交易所のぬしさ」




 リチャード達から先行して交易所に到着したモルフとミリオは、木戸で遮られた入り口脇に【 商い中 】と素っ気無い木札が下げられているのを確認し、中へと踏み込む。


 明り取りの窓が壁面や屋根の至る所に設けられ、朝の弱い光でも室内は暗くない。横長の建物は通路の両側に商いをするカウンターが据えられて、そこに売り買いや物々交換をする者が陣取って客を待つ。しかし、週に一度の周回馬車が頼りの僻地にあり、果たして木札通りに誰か居るかと言われれば、


 「……ああ!! モールーフゥーッ!!! あんた一月も顔出さなかったでしょ!? まあ、あの()()()()()とミリオ相手じゃ子作りにも至りゃしないだろうけど……」

 (……マーシュさんっ!! ……ミリオ、居るんですよ……!?)


 勢い良く交易所のカウンターを跳ね上げながらモルフを抱き締め、心底心配していたように頭を撫でながらとんでも無い事をさらりと言いのける彼女が、マーシュである。


 「そんなの知っててわざと言ってるに決まってるでしょ? ミーリーオぉ……あんた本当に男なのかい? こんな可憐で華奢で甲斐甲斐しい娘と一つ屋根の下で暮らしてたのに、浮いた話も何も無しなんて役立たずもいいとこ……あら? モルフ! あんたちょっと胸張ってきたんじゃない!?」

 「ままままマーシュさぁん!!?」

 「……モルフって、デカい声出せたのかよ……?」


 現れると同時に矢継ぎ早に捲し立てながら、モルフを愛でつつミリオに檄を飛ばしその勢いを削がず直ぐに朝早いからお腹空いてないかいと気を回す彼女こそ、モルフの唯一の親族、叔母のマーシュである。彼女はモルフの母親の妹で、モルフの両親が相次いで病で他界した後、彼女の事を何かにつけては心配し、様子はどうだ男は居るかとお節介焼きに終始している。だが、村唯一の物資買い取り先として金儲けに精を出す傍ら、モルフを娘のように可愛がっているのだ。




 「……で、リチャードは相変わらず言葉が判らないのに、こんな美人をどこからさらってこれるんだい? 木のうろ覗いたってキツネも居ないような【迷宮】だってのにね……」


 終始喋り続けながら、モルフとミリオに酢漬けの塩魚を挟んだ薄焼きパンを渡しつつ、リチャードとアンを見比べて首を振る。


 マーシュは交易所の主だ、とリチャードは言ったが、その言葉に嘘は無い。元々、交易所は村で採れた物や作られた物を周回馬車に乗ってやって来る商人に売る為に作られた場所である。無論、馬車が来ない時は誰も居ないのが普通だが、マーシュだけは別である。今は亡き夫と共に探索者相手に物を売り、彼等から様々な物資を引き取って商人に売った初めての村人である。当然ながら彼女の存在は貴重且つ重要であり、有る意味村長より権力的には上である。彼女が首を横に振れば余所者の探索者は飢え、物資の引き取り先も無くなってしまうからだ。


 「マーシュさん、私は自分の意思でリチャードさんと共に行動しています。だから彼が何かしようと……」

 「判ってる、判ってるって! あんたが誰と暮らそうが自由なんだし、相手が棒ニンゲンのリチャードだろうと気にしやしないよ!」


 そう気さくに話すマーシュだが、アンの説明も微妙に歪曲して受け取っているのは、誰の目にも明らかである。但し、本人に悪気は全く無いのだが。



 マーシュはリチャードを事有る毎に棒ニンゲンと揶揄するが、それはモルフを介さないと意志疎通が交わせないからである。しかし、だからと言って気に入らない探索者を邪険に扱う時とは違い、彼等の持ち込む物資を当然のように生鮮品等と交換(しかも通り値より優遇的扱いで)する所は、姪の心配をする彼女なりの思い遣りのようなものだろう。


 「……で、モルフだけじゃなくてあんたまで一緒に来たってのは、何か理由が有っての事なんだろ?」


 と、マーシュはそう言いながらそれまでの威勢良い言葉遣いを潜めさせると、自分達以外に誰も居ない交易所の隅々を見回してから、


 「……デルベトポリの連中が、【迷宮】に来たんだね?」


 まるで見てきたかのように勘を冴えさせながら、切れ長の目元を更に細めさせた。




 「……そいつら、きっと先遣隊だね。連中は前の戦争でも必ず送り込んで相手の力量を計ってたって噂だし……間違いないね」


 マーシュはそう言いながらリチャードが差し出したタバコを受け取ると、掌の中で点けたライターから火を借りて吸い込み、細く長い煙を吐き出した。


 「……この三ヶ月の間、あんた達は【迷宮】に籠って何かしてたんだろ?」

 (……マーシュさん、どうして知ってるんですか……?)

 「あのねぇ……ここ以外で生鮮品を手に入れる方法が無い僻地なのよ? なのに、待てど暮らせどずーっと来やしない。そりゃあ何かあるって判るに決まってるでしょ」


 案外鋭いな、とアンを介しながら二人の会話を聞いていたリチャードは思い、この機を逃さずモルフに説明するよう促した。


 (……ええ、私達は【迷宮】を利用して……デルベトポリの派兵を撃退するつもりです)


 「……本気なのかい?」


 姪の心配をする実直さを見せるマーシュに、モルフは安心させるように繰り返した。


 (……はい、デルベトポリを討ちます……)





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