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異世界で銃を構えながらティーチ&ビルド【塹壕戦の猛者は転生先で育成に励みます】  作者: 稲村某(@inamurabow)
一章

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⑰拠点の朝



 「……【ビックベン】? 聞いた事もないわ。それは何か重要な物なの?」


 アンの答えにリチャードは落胆し、しかし同時に納得した。やはり、彼女は自分の知っている世界が辿った未来とは違う世界から来た存在なのだ、と。


 「そうだ……俺の生まれた国の国会議事堂にあった、象徴的な時計塔さ」

 「……そうだったの。悪い気分にさせてしまったら、謝るわ。ブリティッシュ王国の国会議事堂には時計塔は無かったし、国の象徴的な建物は私が居た時には全て壊滅していたから」


 アンの言葉にリチャードは頷きながら、彼女の説明を脳裏に刻み込む。自分とは違う世界なのに、英語や文化は似ている未来の環境から来た機械人形のアン。死してこの世界にやって来た、自分。多数の未来の遺物が点在する廃墟に、蔓延る人外の化け物。そして、同じ世界から迷い込んで来る、正気を失った死者達。これらに何か共通点が有り、その何かに答えがある。


 「……つまり、この世界には……生きたままやって来た者は一人も居ないって事か……」


 だが、その法則には抜け穴が有る。リチャードは死を経由して現れたにも関わらず、自我が有った。アンは人間ではないが、過去の記憶が保たれている。きっとそこに何らかの答えがあり、その答えを見出だす事が出来れば元の世界に戻れるかもしれない。



 ……元の世界に、戻る?



 リチャードは自分が導き出した一つの選択肢に、朝早くまだ目覚めていないモルフの顔を思い出す。


 初めて会った時、彼女は埃と土に汚れ、不安と諦観に押し潰されかけていた。その顔は表情に乏しく、食糧事情もあってか若い娘特有の張りとつやも乏しく、活力に欠け死人と紙一重だった。それが、今はどうだろうか。


 あれからリチャードと生活を共にし、まあそれなりに水を使う事も日常的に増え、毎日シャワーを浴びる程ではないにせよ汚れた身体でそのまま寝る事は減った。お陰で裂いた羊皮紙のようにゴワゴワとした指触りだった髪も……そう言えば洗髪剤は無かったか? 日々の食って寝るだけの暮らしで忘れていたが、物資を探してみよう。きっと一つ位は有る筈だ。もっと良くなる。


 ……ああ、それより改善したと言えば、すっかり食糧事情も変わって体重も増えたようだ。最初の頃は飢餓と隣り合わせに近い生活のせいか、路上生活の戦災孤児みたいに痩せこけていたが、時折銃の分解清掃をしながらクラッカーにジャムやチョコスプレットを塗って頬張る暮らし……いや、食べながらは止めさせよう。だが、ともかく顔立ちから体型まで、あの頃の面影は最早、何処にも見当たらない。ちょっとふくよかになった感すら、ある。


 「……と、そう言えばそろそろ食料が無くなる頃合いだな。ジルデアンタ村に行って交換しに行くか」


 モルフを経由して食べ物の事を思い出してしまい、やや気まずさを感じるリチャードだったが、アンは彼の心境が判る筈もない。そして、彼の発した言葉に強く興味を覚えたようで、直ぐに質問を飛ばす。


 「ジルデアンタ? ……そこには皆さん以外の人が住んでいるの?」

 「ああ、勿論だ。モルフさんやミリオ君の郷里だし、ここから一番近くにある村がジルデアンタさ」


 なら、私も行こうとアンが座っていた椅子から腰を浮かせかけた直後、彼女は動きを停める。そのまま暫しじっとしていたが、


 「……()()()が近付いて来る。生憎、モーニングサービスには間に合わなかったけど、おもてなししましょうか?」

 「ああ、どんな連中か見ておこう。探索者なら少人数だから、違うと思うが」


 皮肉混じりにリチャードへ告げると、彼もその提案に同意した。


 「……モルフさん! ミリオ! 偵察に行こう! 直ぐ支度してくれ!!」


 リチャードの声に隣の部屋から出てきた二人は顔を見合わせると、【迷宮】に行く衣服に着替える為、別々の部屋へと向かった。



 

 リチャードとアン、そしてモルフとミリオの二手に別れ、地下施設から外に出た一行はアンを先頭に進んでいく。先導する彼女によれば、相手は概ね十人程度でジルデアンタ村とは反対側から近付いて来るらしい。


 【迷宮】の中心にある、アンテナ塔の立つ象徴的な建造物(アンは元電話局だと言っていた)に登って相手の進行方向を確かめた四人は、遭遇時に化け物が乱入してこない事を祈りながら待った。そして、タイミングを計りながら大通りを見張っていると、


 (……やはり、デルベトポリの派遣兵みたいです……)


 倍率スコープを覗いて監視していたモルフから、緊張感を帯びた声で報告が来る。最近は彼等の動きは無かったが、ここに来て次第に活発化し始めたのか。何にせよ、相手は目的があって来ているに違いない。


 「……なら、選択肢は二つだ。相手の要求に従うか、口封じするか、だな」


 リチャードがそう言うと、アンは小さく頷いてから短機関銃の安全装置を外した。




 移動を考慮した軽装の騎士達は、前に立ち塞がるリチャード達を認めると足を停めた。互いの距離はかなり離れたままだが、いつでも剣が抜ける間合いを保っているからか、立ち居振る舞いに隙は見られない。


 「……我々が、デルベトポリの兵だと知って行く手を遮るのか?」


 部隊の指揮官らしき男が声を掛けると、意外にもアンが彼等と同じ言葉で返答する。


 「貴方達が何処の誰かは構いません、但し此処を通るなら、武器を捨ててこちらに従いなさい」


 不意に投げ掛けられた強気な発言に、相手は一瞬言葉に詰まったようだが、


 「……やれやれ、我が国が戦勝国だと知っても従わぬ連中ばかりだな。何故、負けたのか判っていないなら……身を以て理解させるしかないか」


 その言葉と共に抜刀し、数に優る有利を活かそうと間隔を広げてリチャード達を包囲しようと動き始める。だが、アンの動きは彼等を更に上回っていた。


 ガチャッ、と短機関銃の装填レバーを引くと同時に伸縮式ストックを肩に当て、単発セミオートのままトリガーを引く。ポシュッ、と気の抜けたような発砲音と共に弾丸が先頭の男に吸い込まれ、飛来した弾を二発頭部に受けて派手に血飛沫が宙に舞う。


 両脇に居た男達が異常を察し、何か叫びながら盾を掲げて上半身を守ろうと身構えるが、その隙を衝いて四発で二人の両足を撃ち抜き、瞬時に戦闘不能に陥らせる。たった六発の弾丸で三人を倒しながら、アンは立射姿勢から膝を衝いて安定性を確保しつつ、展開しようと動いていた左翼側の兵士を冷静に捉え、一人また一人と二射を続ける。彼女が撃つ度に薬莢が落下し、キンキンと小さな音が二回上がる。


 そのまま片側三人、そしてもう片側三人を撃ち終わるとアンはしゃがんだまま、


 「……装填中(リロード)ッ!!」


 と発声しながらマガジン交換を終え、撃ち漏らした最後の一人に銃口を向けた。


 だが、こちらに背中を向けて走り出した男の後頭部が突然真っ赤に染まり、そして足をもつれさせながら力を失って倒れた。


 (……あ、アンさんが撃ったので、私も撃ちました……)


 やや遅れてインカム越しにモルフの声が聞こえ、息を詰めて見守っていたリチャードは、


 「いや、それで良いよ。死体はグールが片付けてくれるだろう。それじゃ村に行こうか」


 三人にそう言うと踵を返し、拠点へと戻るよう促した。


 

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