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異世界で銃を構えながらティーチ&ビルド【塹壕戦の猛者は転生先で育成に励みます】  作者: 稲村某(@inamurabow)
一章

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⑭同じ立場



 新たに現れた未知の兵士は、グールと化したリチャードと同じ英国軍兵士の亡き骸に近付くと、サイレンサーの付いた短機関銃の先で死体に触れて動く気配が無いのを確認し、手早く死体をひっくり返すと背負っていたリュックサックの中身を確認する。だが、目当ての品が無かったのか、何も取らずに死体から離れると、再び周囲を警戒するように四方へ銃口を向けながら確認した後、来た方向に背中を向けたままゆっくりと後退していく。


 (……用心深いな、しかも隙が無い……)


 ミリオを従えるリチャードは彼の肩に手を乗せて抑えながら、相手の慎重な行動に注目する。じり、じりと焦らず後退しながら、しかし銃口を常に左右へと向けていつでも発砲出来るように備えている。表情の窺えない偏光バイザー越しに、きっと鋭い眼光で辺りを警戒しているのだろう。


 だが、これは千載一遇のチャンスなのかもしれない。リチャードはそう思い、相手と接触を試みようと決心した。


 「……撃つな! ……俺は、敵じゃない!!」


 彼はショットガンを見え易いように掲げながらそう叫びつつ、廃墟の陰から身を現した。直ぐに兵士の銃口がリチャードを捉え、更に彼の腹部から胸部、そして額を赤いレーザーサイトの光が目まぐるしく動き回り、ピタリと停止した。


 「……驚かせて悪かった……俺はリチャード、たぶん……あんたと()()()()()()だ」


 相手を落ち着かせる為に、わざと大きな声でゆっくりと喋りながらそう言った後、リチャードはショットガンを足元に置いてから両手を掲げた。


 未知の兵士は彼の行動に敵意が無い事を確認すると、銃口をリチャードから外すかと思われたのだが、決して銃口を彼から外さないまま、意外にも女性の声でこう言ったのだ。


 「……あなたに敵意が無いのは判ったわ。でも……陰に隠れてる坊や、それと離れた所に居る狙撃手の二人はまだ、銃を構えてるわよ?」





 「……モルフ、直ぐにここまで来て合流してくれ、でもくれぐれも注意を怠るなよ?」

 (……了解しました、リチャードさんも気をつけて……)


 インカムを通してリチャードがモルフに伝えると、その兵士は漸く警戒を解く気になったのか、銃口を上に向けながら銃のセーフティを掛け、バイザーを跳ね上げた。


 「……初めて、まともに英語を喋る人間に出会えたわ。で、あなたは何処から来たの?」


 バイザーの下から現れたのは、端整な顔立ちの女性らしさを備えた美貌。だが、リチャードは言い表せぬ何かを相手から感じ取る。そして彼女の顔に見惚れるミリオと見比べてから、


 「……君は、人間なのか?」


 思わずそう吐露してしまった彼に、相手は感情の籠らない声で答える。


 「いえ、違うわ。私は高機能型ミリタリーモデル、平たく言えば軍用の機械人形(アンドロイド)……よ」




 自らを機械人形と名乗った彼女は、この【迷宮】が廃墟になる以前の世界から来た、と説明する。無論、リチャードが居た1917年当時の世界には全く存在しない上、どうして彼女だけが此処に居るのかは判らなかった。


 「あなた達は此処で何をしているの?」

 「俺達は、此処で様々な物資を集めている。いずれ、此処から出る時の為に備蓄しているんだ」


 モルフが合流するまで、互いの情報交換をしようとリチャードは彼女アン(便宜的にアンドロイド=アンと呼ぶ事に決めた)にそう説明する。


 「……そうだったのね。私は……この街に警備用として配備されていたわ。以前は、沢山の人々で賑わう美しい街だったけれど……今は只の廃墟よ」


 アンはそう言いながら様々な建物を指差し、あれは警察署、あれは郵便局だったわ、とリチャードに説明する。彼女の記憶によれば、街が廃墟になる前は多くの人々が平穏に暮らす大きな都市だったと言う。だが、それはある日突然覆ってしまったそうだ。


 「……1997年の5月21日、ここに現れた【ゲート】が世界各国に波及し、同時多発的な壊滅を与えたのよ。その【ゲート】対策に使われたのが……核兵器だったの」

 「……核兵器?」


 リチャードの質問にアンは手短に、その核兵器とはウランと呼ばれる原子の猛烈な分裂時に放出されるエネルギーを利用した、究極の破壊兵器だと説明した。


 「……その核兵器を使い、世界の国々は【ゲート】を消し去る事に成功したわ。でも……【ゲート】は消える直前に、周辺のあらゆる物を飲み込んでいったの」


 各国は【ゲート】による壊滅的破壊を止める為、核兵器を用いて消去する方法を手に入れた。だが、それは引き換えに周辺の膨大な空間を犠牲にする事だった。各国はそのジレンマに苦しみながら押し寄せる【ゲート】に依る破壊を受け入れるか、それとも国土を犠牲にして消去するかを、強制的に選択させられたのだ。


 アンの説明を聞いたリチャードは、あの飛行機で発見した手記の内容と彼女の説明が一致し、何故この【迷宮】が発生したのか僅かながら理解出来た気がする。だが、それが彼を取り巻く状況に変化を与える事は無かった。何故、リチャードの身に死後の転移が起きたのか、どうして【ゲート】が発生し巻き込まれた都市が【迷宮】として異界に現れたのかは、全く判らないのだ。


 「ところでリチャード、あなた達は此処で物資を集めていると言っていたけれど、それは何処にあるの?」

 「ここから離れた所に地下施設を見つけてね、そこに備蓄してある。そこには発電機もあるんだが、流石に毎日は使えなくてね……」


 アンが敵でない事が判ったリチャードは、自分達の拠点についてそう説明する。すると彼女は概ねの場所が理解出来ると、こう切り出したのだ。


 「地下施設……? そこにはもしかして重機やフォークリフトが有るかしら」

 「……重機……ああ、確かにそんな物があったかもしれない。但し、使いたくても電気を節約しているから、動かした事は無いな」


 アンの発言にリチャードが答えると、彼女は表情に乏しい機械人形らしからぬ笑顔を見せながら、こう言ったのだ。


 「……だったら、もっと効率的に運用出来るかもしれないわ。私が知っている施設と同じならね」




 合流したモルフは、全身を武装で固めたアンの姿を見て顔を強張らせたが、相手が敵でないと判ると安心したようだった。だが、もし彼女が機械仕掛けの人間(もど)きだと知ったらどんな反応をするのか、そう思うとリチャードは妙な気分になる。


 (……アンさんは、いつから此処に?)

 「私は49日前から滞在してる。その間、加害対象の駆除と治安維持を行ってきました。あなたはどうして此処に?」


 そんな会話を交わすアンとモルフに、リチャードは不要な心配だったかと安堵した。但し、ミリオだけはアンの方をちらちらと見て、何か言いたげに口を開いては閉じるとこちらも雲行きが怪しい。


 「……ミリオ、君はアンの事が気になるのか?」

 「……うあっ!? き、気にしてない!!」


 どうやら、ミリオは年の離れた異性が珍しいらしいと勘繰るリチャードに、彼は慌てて否定する。だが、どう見てもおかしいミリオの挙動に、それもそうかとリチャードは納得した。




 機械人形のアンと共に戻ってきたリチャード達は、彼女を地下施設の入り口まで案内する。帰路の途中で二体のオオカミ男もどきと遭遇したが、逸早く接近を察知したアンの正確な射撃で、即座に撃ち倒されてしまった。そして先程のグールと同様に所持品を確認する彼女にリチャードが、


 「あなたは何を探しているんだい?」


 と、アンに質問する。だが、彼女は大した事ではない、と答えなかった。



 朽ち果てたバスの中を抜け、その車内から狭い横穴(一ヶ月の間で三人が出入りし続けて多少は広がっていたが)を通り、四人に増えた一行は地下施設の拠点に戻って来た。


 「それで、ここは君の知っている所なのかい?」


 帰還するとモルフとミリオは身を浄める為(無論モルフがいつも先だが)、先に浄水が使える部屋へと向かい、残されたリチャードは中央の大広間で四方を見回すアンに尋ねてみる。


 「ええ、ここは私の記憶(メモリー)内に残された場所と一致します。以前は都市防衛を司る機械人形アンドロイドの整備や機能保全を行う施設として機能していた所です。但し、担当技師が居ない今は……ただの補給基地としか機能しませんが」


 アンはそう言うと壁際に設置された大型発電機に近付き、パネルを操作し自己診断モードを起動させた後、リチャードに向かって意外な事を告げる。


 「やはり、これは非常用発動機ですね。通常使用時の太陽光発電パネルに異常は無かったので、直ぐに電力供給が行えますよ」




 「……なぁ、まだなのぉ? ……俺も汗だらけだから早く拭きたいんだからぁ!」

 (……あなたにしては、珍しくないですか? いつも身体を拭かずに食卓に来て、リチャードさんに怒られているのに……)


 風呂代わりの給湯室で身を浄めるモルフに、隣の部屋で待つミリオがつい愚痴をこぼすと、何かを悟ってか彼女も皮肉混じりに問い掛ける。


 「ばっ、バカな事を言うなよ……俺は気持ち悪いから直ぐ綺麗にしたいだけだって!」

 (……本当にですか? 気持ち悪いって、アンさんに思われたくないから……では?)

 「そんな事……ないってば……」


 次第に意気消沈していくミリオに、モルフも意地悪が過ぎたかと思ってしまう。だが、そう言っても彼女も同性(あくまで見た目では)のアンに接する二人の対応振りに、多少のジェラシーを感じていたのか、


 (……ミリオさん、そんなにアンさんは……気になりますか?)


 部屋の壁越しにそう言って、彼の反応を窺う。


 「……気になるかって? ……そんなの、良く判んねぇよ……まだ、会って少ししか経ってないし……」

 (……では、私はどうですか?)

 「……はぁ!? 何言ってんだよ!」


 モルフの唐突な問いに面食らったミリオは、そう言われてしまうと急に彼女の事を異性として意識してしまう。年上のリチャードと共に現れた彼女は、確かに同郷人だったが深い間柄ではなかった。村の中で顔を合わせた事も数回程度で、それまで名前は知っていても呼び掛けた事もなかった。


 だが、三人で暮らすようになってから、ミリオとモルフは同じ地下施設の中で寝食を共にし、今ではこうして裸の彼女と壁一枚隔てながら会話をする間柄となった。


 (……最初の頃は、見た目はあんまり俺と変わんなかったけど……)


 だが、モルフの食糧事情も大いに改善された結果、胸回りや腰の辺りに女性らしさを表す肉付きの良さも現れるようになり、徐々にミリオも彼女の変化に気付き始めていたのも事実である。つまり、モルフの性的成長がミリオにも波及し、今では彼の中に異性を意識する兆しが芽生えていた。


 「……そんなの、決まってんだろ……モルフは、俺の命の恩人だから……」


 しかし、ミリオは急場凌ぎとはいえ至極全うな答えを思い付き、彼女の際どい質問を誤魔化した。そのつもりだった。


 (……なら、命の恩人の言う事なら、何でも聞きますか?)


 だが、不意に部屋を隔てる壁の切れ目から姿を現したモルフは、お気に入りの水色のショートパンツのみを穿き、上半身を白いタオルで前のみ隠したままでミリオの前に立ったのだ。



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