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異世界で銃を構えながらティーチ&ビルド【塹壕戦の猛者は転生先で育成に励みます】  作者: 稲村某(@inamurabow)
一章

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⑫地下の隠れ家



 バスの内部から地下施設に出入りするのは多少目立たないものの、もう少しカモフラージュしておきたい。そう思ったリチャードは一旦外に出ると、バスの周囲に散乱している瓦礫の中から木材や板を集め、出入口が直接見えなくなるように配置して衝立て状に重ねた。


 「……これでバスの中を覗き込んでも、奥に出入口が有るのは見えなくなったな。そのうち扉か何か見つけて来るまでは……これで何とかなるか」


 作業の出来映えに満足し、地下施設に戻ると明るい室内にモルフとミリオの笑い声が響く。まさか、化け物が徘徊する【迷宮】の只中で、こんな場所が手に入るとは思ってもみなかった。そう思いながらリチャードは二人の元へと戻って行く。



 (……あ、リチャードさん、おかえりなさい!)


 戻って来たリチャードに気付き、モルフはテーブルの上に広げた糧食の袋を開けながら声を掛ける。


 (……私とミリオは先に支度しておきますから、リチャードさんも直ぐ来て下さいね?)


 言われて二人を見てみると、モルフの埃まみれだった顔も、いつの間にか綺麗になっている。どうやら清潔な水とタオルが手に入ったからか、拭き清めでもしたのだろう。


 「ああ、判った。それじゃ宜しくな」


 そう言い残すとリチャードは部屋を出ると大広間(一番最初に辿り着いた広い空間)を抜け、水が出る部屋に向かった。



 「……確かに綺麗な水だな、臭いも何も無い……」


 そこは給湯室として作られたらしく、小さなシンクと銀色の蛇口、そして湯を沸かす四角い板がコンパクトに配置されていた。壁の棚には両開きのガラス扉が付いていて、中には白い樹脂製の皿やコップが整然と並んでいた。リチャードが試しに蛇口を捻ると、浄化された水が静かに落ち、それをコップに注いで飲んでみても無味無臭の水で問題は特になさそうだ。


 着ていたコートを脱いで壁のフックに掛け、積み重ねられた真っ白なタオル(これも貴重品かもしれない)を水で濡らし、下着姿になって全身を拭く。シャワーが欲しい所だが、流石に排水設備が無い限り地下に作る事は無理だろう。それでも今は、ここまで出来れば十分有難い。


 そんな風に先の事を考えながら元の衣服を身に付けていると、視界の中に馴染みの無い箱が有るのに気付き、随分と低い棚だなと思いながら正面の蓋を開けてみる。中には円柱形の筒状で無数の穴が開いていて、どうやらグルグルと回る仕組みらしい。果たして何に使う道具なのだろうか。だが、リチャードには他にやる事が有る。調査はまた後にして、彼は待たせているモルフ達の居る部屋へ戻った。



 「待たせたね、それじゃ席に着こうか」


 コートを壁のフックに掛けたリチャードは、そう声を掛けながらモルフとミリオが座る席の向かい側に腰掛けた。


 (……今夜は、ちょっと変わった夕食に、なるかもしれません……)

 「あぁ、えっと……開けてみます?」


 二人の様子に何かあるのか、とリチャードは思いながら彼等の前に置かれた糧食を見てみると、確かに今までの糧食とは少し違うようだ。何が違うかと言うと……


 「……おっ!? これは……チャイニーズじゃないか!」


 リチャードは、その糧食のパッケージに書かれた【Chinese food】の単語を読み、華僑の料理だと理解する。彼の母国でも華僑の料理はハズレは無く、その味は辛さ以外は誰にでも受け入れられる……


 (……あ、あの……私が何かしましたか?)


 モルフはリチャードの視線を感じ、少しモジモジしながら問い掛けるが、彼の懸念は遠からず的中する事になる。


 「さて、それじゃ開けてみよう!」


 リチャードの宣言に、モルフとミリオの二人は上回る期待を堪えつつ、中身をじっと注視する。


 「……おっ、缶詰めは無くて、例の袋詰めが殆どだなぁ」


 彼はそう言いながら中身を取り出すと、三人分で三つの包装から出てきた密閉袋を選り分けて、同じ物同士を机の上に並べていく。


 今回はクラッカーやパンの類いは見当たらず、色と大きさで分けられた密閉袋で占められていた。赤や茶色、それに黄色や白の各々はほぼ同じ大きさで、ずしりと重い物とやや軽い物で区別は出来る。但し、リチャードもその密閉袋に書かれた文字を読んでも、全てが判る訳では無さそうだ。


 「これは……ふむ、ライスかな」


 赤い密閉袋には、【Chinese flyd rice】と記されている。これはリチャードが以前食べた、中華料理の炒飯が入っていそうだ。


 「こちらは……ポークソテーかなぁ……」


 次の茶色の袋には【boild poke】と記されていて、袋越しに触ると大きな塊が幾つか入っているようである。少し湯煎すれば分けやすくなりそうだが、とにかく今は出してみるのが先決だろう。


 「おお、これは……何だろう、全く判らんな」


 黄色の大きな袋には【Shrimp chiri】と記されていたが、リチャードはチリの意味は良く判らなかった。そして、白い袋には【rice】とだけ記されていた為、そちらはシンプルにライスしか入っていないのだろう。


 「さて、これはまた温めた方がよさそうだが……おっ、これにも例の加熱袋が入っているようだな」

 (……でしたら、向こうで水を汲んできますね)


 今回も以前使った真水を熱湯に変えるヒートパックが同封されているようで、リチャードとモルフはいそいそと準備に余念が無い。だが、まだそれを未体験だったミリオは事態を良く理解出来ず、


 「……? 温めるのに火を興さなくていいの?」


 と、至極当然な反応を示して二人の視線を浴びる。だが、まさか冷たい水が熱湯に変わるとは、いくら言われようと信じられる訳も無い。実際に、その目で見るまでは……


 「……ほ、本当に魔導じゃないのか?」

 (……しつこいですね、魔導ではありません……)


 そう言葉を交わす二人だったが、リチャードはその会話に紛れた耳慣れない単語が気になってくる。


 「なあ、モルフさん。その魔導ってのは何なんだい?」

 (……えっ? あ、魔導ですか? それはこの世界に存在する、こうした不思議な物を同じように作ったり、自分や他人の力を増やしたり出来る能力です……)


 モルフの簡単な説明によると、魔導は一部の女性だけが保有している能力で、物に様々な力を付与させたり、自らの肉体に物理法則を超越する程の能力を与える事が出来るそうだ。


 そんな話をしている内に、密閉袋は十分加熱されていた。指先をヤケドしないよう気を付けながら外袋から取り出し、備品棚から拝借した綺麗な白い皿に次々と出していく。



 【Chineses flyd rice】


 パラパラとほぐれる黄色い粒の米は、芯まで火が通り固さは皆無である。その米と様々な微塵切りの具材は程好く混ざり、しっとりと脂を吸っているのかとても香ばしい。初めて食べるモルフとミリオはともかく、以前華僑の店で食した事のあるリチャードも、出来立ての物と比べても遜色無い事に驚いた。


 【boild poke】


 煮豚、と訳せば水煮の豚肉と勘違いしそうだが、その中身は香辛料の八角(スターアニス)丁子(クローブ)を効かせた甘辛い味付けで、やや濃い味に三人は一瞬戸惑ったが、味付け抜きの【rice】と共に食べてみた結果、汁の一滴も残さず全員が完食してしまった。


 【Shrimp chiri】


 エビのチリ煮と呼べばよいのだろうか、とリチャードは赤く染まったエビを眺めながら考えてみたが、実際に口に運ぶと煮るというよりも、和えるに近い調理法だと気付く。しかも細かく刻んだタマネギがシャキシャキと良い歯応えでアクセントになり、大振りなエビの弾けるような食感と相まって【rice】が止まらなくなる。


 だが、やはりモルフには辛さが少し酷なようで、しきりに水を口に含んだり、顔を手で扇いだりしている。やはり若い女性には辛い料理は耐え難いか、と少しだけ同情した。しかし、旨い物には変わり無いようで、彼女も自分の分は完食したようだ。




 「……いや、これは……全部旨いな」

 (……えっ、もう終わりなんですか……?)

 「……すげぇ、すげぇなぁ……こんな旨いもん食った事無いぞ……っ!!」


 三人は気がついた時には既に、温めた物を即座に完食していた。何とも残念と思いながらふと傍らを見ると、小振りな袋がまだ幾つか残っている。その中身は【dry fruits】【dry bread】【ice sugar】の計三品。各々は乾燥果物、乾パンそして氷砂糖で、先程の糧食とは又違う楽しみが得られた。



 こうして【Chinese food】を堪能した三人は、その魅力に虜となった。そしてもし似たような密閉袋を発見したら、何に換えても必ず手に入れるべき、とそう心に刻んだ。



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