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異世界で銃を構えながらティーチ&ビルド【塹壕戦の猛者は転生先で育成に励みます】  作者: 稲村某(@inamurabow)
一章

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戦争と言う名の巨大な歯車



 冷雨、泥土。濃霧、硝煙。人が暮らすには余りにも過酷な場所で、数多(あまた)の兵士達が息を潜めてその瞬間を待つ。



 ……阻止砲撃着弾の地響きが木霊(こだま)し、腹に響く震動が次第に近付いてくる。そして飛来した大径砲弾が雨のように落下して泥でぬかるんだ地面に突き刺さると、遅延信管が起爆し激しく炸裂する。塹壕に身を隠していた兵士達を、目に見えない運命の巨人達が選別するかのように次々とほふっていく。


 多くの者は信奉する神に我が身の無事を祈り、数少ない無神論者はひたすら頭を低くし泥に頬を浸す。その最中、堪え切れなくなった兵士が叫びながら塹壕から飛び出し、ライフルを天に向けて構える。


 「こんなに祈っているのに貴方は何故私を救わないのですか!? 答えてくだ


 彼の声は半ばで途切れ、顎を頸椎もろとも撃ち抜かれながら崩れ伏す。そして一時的に止んだ阻止砲火の切れ目を掻い潜り、ライフル銃の音が遅れて鳴り響いた。






 1917年、某月。ワイン醸造に欠かせない葡萄畑だった其処は、既にその面影を失っていた。斜面に植えられていた葡萄は砲弾の爆風で散り散りにされ、蔓を支える棚は踏み砕かれて跡形も無い。その畑を耕してワイン醸造を行っていた農家が、果たして無事に逃げ延びたのか、誰も知る由も無い。


 名誉と剣劇の誉れ高き中世の戦いは、血も涙も無い大量虐殺の近代戦へと変貌した。歩兵達は長槍をライフル銃に持ち換え、戦場の花形だった騎馬兵達も馬から降りて塹壕を掘り、個と個だった戦いから一転、欧州を発端とした世界の戦場は、その様相を大きく変えていった。

 

 手探りで未知の近代戦を模索しながら、人類は様々な発明を繰り返し新たな戦法を確立させた。過去には集弾率の低い前籠め(マスケット)銃を効率的に運用する為、歩幅を合わせ一定間隔を維持する陣形は、射たれて倒れた兵士と後続者が入れ替わる。その非情な陣形はまるでサメの歯が次々と入れ換わるように、生きた人間を消耗品として扱った。無論、主流の武器が変わればまた、戦術戦略も変わっていった。


 薬莢使用銃から機関銃、騎馬から車両、そして戦車や飛行機……戦場に新たな武器が次々と登場した二十世紀初頭、ヨーロッパの小さな紛争が火種となり、やがて大きな唸りとなって全世界を駆け巡った。





 文字通りの泥沼と化した戦場に一瞬の静寂が訪れたその時。気の早い兵士の一人が頭を塹壕から出した瞬間、敵陣から放たれた銃弾が彼の額を撃ち抜き、鼻から上をザクロのように引き裂く。だがその姿を見た者は誰一人として衛生兵を呼ばず、至極当然のように彼の死を受け入れ、各々の銃に刺突槍(バヨネット)を取り付ける。


 やがて砲弾の炸裂音が遠ざかると、入れ替わるように前方の敵陣から軍靴で泥を跳ね飛ばしながら、髭面の男達が絶叫と共に塹壕から飛び出した。


 上側の開いた照準の中心と、走り寄る敵の姿を重ね、引き金を絞る。充分に引き付けて放たれた銃弾は、狙い通りに敵の胴体を捉えて赤い血飛沫(しぶき)を花開かせる。そのままもう一度、更にもう一度と装填と発射を繰り返した直後、怒りに濁る瞳に映る恐怖の気配が汲み取れる程、敵の兵士が間近の距離まで迫る。


 「……肉弾戦闘開始!! 各個撃滅しろ!!」

 「うおおおおおぉーーッ!!」


 前線指揮官が絶叫しながら短機関銃を構え、弾倉が空になるまで引き金を絞る。その背後から友軍の兵士達が刺突槍を着けた銃を構えながら両脇を抜け、勢いを付けて敵兵に深々と突き刺した。




 死者の血と肉を踏み締め、互いに入り乱れながら至近距離で戦う。刺突槍を着けた銃、幅広のナイフ、そして薪割り用の手斧や塹壕掘りのスコップに、果ては有刺鉄線を巻き付けた手製の棍棒まで使い、男達は互いの命を奪い合う。


 その最中、リチャード・ハイマンが最後の銃弾を放った後、空になった薬莢を排出させて新しい弾を腰のポーチから取り出そうとしたが、不幸にも彼は直下で遅れて炸裂した不発砲弾の破片、そして燃焼ガスと爆発炎に巻き込まれた。肌は一瞬で気化し筋肉は弾け、表面の体液を沸騰させながら砲弾の破片で全身を切り刻まれ、彼はこの世から消え去った。


 しかし、彼は絶命する寸前、何処か違う場所に吸い寄せられていくような気がしたが、膨張する熱波と衝撃波に翻弄されて、遠退く意識を保ち続ける事は出来なかった。






 ……死後の世界を信じる勇敢な戦士は、今際の時、魂が雲上の霊界に導かれるか、それとも地下の地獄に引き込まれるかを裁かれると伝えられている。ならば、近代戦で無神論者に死が訪れた時、彼の魂は果たして何処に向かうのか。




 (……くそ、不発砲弾が炸裂……それとも地雷でも踏んだか?)


 リチャードは次第に朧気だった意識を取り戻すと共に、痛みの無い身体と失神する寸前の奇妙な浮遊感を思い出し、そしてその全てに言い知れぬ違和感を覚えながら目を開いた。


 彼の視界にまず最初に飛び込んで来たのは、薄暗い洞穴らしき岩肌と、何者かが往来して磨かれた足元の岩盤だった。しかし、日の光から縁遠い穴蔵にも関わらず、折れ曲がる端々にカンテラに似た光源が下がり、最低限の視界だけは確保されていた。


 と、暗がりの隅で白い何かが動き、彼の意識は一気に現実へと引き戻される。それと同時に指先が馴染み深い銃の木製ストックに触れると、身に付けていた衣服やトレンチコートもそのままだと知って安堵した。


 だが、果たして動いたのは一体何か。それが判らなければ、逃げるか戦うのかも決められない。それなら先ず、後手に回らぬよう備えておかねば。


 手に持った銃、七連装のショットガンを操作し、装填動作(ポンプアクション)させて弾倉内の威力重視で中距離対応の単装填(スラッグ)弾を抜き、近距離対応の複装填(バックショット)弾に換える。だが、そこでふと考える。もし、ここが戦場から離れた町の中ならば、弾を籠めた銃を持ち歩いていたら不審がられはしないか? 場合によっては警察若しくは憲兵に捕縛されるかもしれない。


 だが、何よりも優先すべきは身の安全。もし敵陣に踏み込んでいたら、のこのこ現れた彼を黙って通す訳も無いし、抵抗する手段位は確保しておくべきだ。そう思い直し、遮蔽物の無い洞穴でせめて身を守る為に、膝をついて中腰になりながら、ショットガンを構えた。


 ……と、暗闇の隅で暫くじっとしていた何かは、リチャードが動いて姿勢を低くしたのを察したか、ゆっくりと歩を進めて近付いて来た。


 (……子供、いや……女性か?)


 リチャードはハッキリと姿が見える所まで近付いた相手が、背の低い小柄な娘と気付く。だが、闇に溶け込むような濃茶色の長い髪は粗く束ねられてボサボサで、見るからに粗末な灰色の衣服も薄汚れてみすぼらしい。だが、何よりも彼の眼を引いたのは、表情に乏しい顔で最も目立つ、左右で異なる鮮やかな色彩の瞳だった。


 「……君、その眼は……?」


 思わず口にしてから、彼女の手の中に光る小さな人差し指程度の刃渡りのナイフに気付き、ゆっくりと後退りする。


 「……判った、判った……近付かないよ。だから、それは仕舞ってくれ。俺は敵じゃないから」


 敵意の無い証明だとばかりにショットガンを片手で挙げ、もう片方の腕も上にすると彼女は安堵したようで、持っていた小さなナイフを鞘に戻した。そして、再び相手を安心させようと口を開きかけた彼に向かって、


 (……あなたは、デルベトポリの人じゃなさそうですね)


 と、聞き取り難い小さな声で囁いた。





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