第5章 第5話 変身成功
「ただいま~」
「ただいま」
「おかえりなさーい」
ほとんど移動だけで終わった旅が終わり自宅に帰ると、パソコンに向き合っていた光がメガネを外して出迎えてくれた。どうやら俺の家は撮影スタジオを兼ねているらしく、光に限らず毎日誰かしらがいる。ほとんどが記憶にあるだけの知らない人や、元の世界で画面越しに見ていた人なので非常に心臓に悪い。
「どうでした? ちゃんと両親に会えました?」
「会えた。悪いな、興信所なんて使わせて」
「いえいえ。んなことよりちゃんと動画撮ってきました? 電車とか田舎とか」
「あー……ごめん忘れた」
「はぁっ!? 配信者として! どっか行ったらとりあえず動画回すのは基本でしょ!?」
「んな無茶な……いやこれは俺が悪いのか……ごめん」
一応過去でも数ヶ月配信者をやったが慣れないことが多い。昔は配信者とか遊んで金もらえてうらやましいと思っていたが、実際なってみると上から下ろされた仕事をこなすだけのサラリーマンの方が性に合っていたような気もする。まぁ隣の芝生だろうが。
「とりあえずお土産買ってきたから許してくれ」
「……ちゃんとご当地ものなんでしょうね」
「あぁうんそれは」
「ナイスです! サブチャン撮りますよサブチャン!」
サブチャン……ああサブチャンネルか……日常的なやつ。ほんと24時間ずっとカメラ回してんな……。
「なぁ、光」
「はい? あ、先輩メモリーカード交換! 照明位置変えてください! それと今日まだSNS動かしてないでしょ? 今の内に更新しといてくださいね!」
「それはいいけど……昔普通の女の子になりたいって言ってたよな。その夢は……叶ったのか?」
「なんですか急に。なんか嫌なことでもありました?」
「まぁ……ちょっとな。咲に会った」
「はぁっ!?」
この抜けている10年分の記憶は間違いなく俺に存在する。だがそれはあくまで受動的なもの。訊きたいことを訊けたわけではない。
「ちゃんと夢を叶えられたならいいんだけどさ……俺の面倒も見なきゃだっただろうし、俺のために夢諦めさせてたら申し訳ないなって……」
人は成長する生き物だ。歳をとればそれだけ様々な経験をし、学んでいく。でも咲は変わっていなかった。悪い意味で、変化がなかった。だが良い意味で変化しない方がいいこともある。それが夢や目標、望む未来。それらが俺のせいで失われていたとしたら……。
「馬鹿にしないでくださいよ普通の生活なんて送れなかったに決まってるじゃないですか!」
そして返ってきた答えはガチギレだった。
「配信者なんて遊んでるだけだと思ってましたクッソ楽に金稼げて人気集められると思ってました日常と仕事の両立くらい簡単だと思ってました! でも蓋を開けてみれば毎日毎日撮影編集SNS! ちょっと本音言ったら炎上するし、全部自分でやんなきゃいけないし、プライベートは気を遣うし! 思ってた未来と違ってましたよまったく!」
ぷんぷん怒りながら撮影の準備を進めていく光。だがその表情はどこか満足気にも見えた。
「でもね、世の中全部そんなもんでしょ。思っていた未来と違う。上手くいかない。たとえやり直したって全部が全部よくなることなんてありません。そんな辛い日常の中で、それでも幸せだって感じられる瞬間があるから。わたしはこの未来に辿り着けて良かったと思ってますよ」
照明を持っているせいで光の表情が眩しくて見えない。でも見えなくてもいいと思った。
「俺も同じだよ」
その顔はきっといつも、見ているはずだから。
「あぁそれと今度同窓会やるって言ったじゃないですか。バイトメンバーで。その連絡とってた時なんですけど」
「あれ? そうだっけ?」
俺も撮影の準備を手伝っていると、藪から棒に光は言った。
「パーさんが大樹くん見つけたって言ってましたよ」