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第5章 第1話 未来にて

「光輝く~ん、急がないと電車出ちゃうよ~!」

「……わかってる」



 信じられないくらいボロく人のいない駅のホームを忍が躍るように跳ねていく。時刻表では既に発車してもおかしくないが、どうやら俺たちが電車に乗り込むのを待ってくれているようだ。……余計なことを……。



「や~、間に合ってよかったね~」

「……そうだな」



 ホームと同じく人気のない電車のボックス席に腰かけ、忍が笑う。その隣に俺も座ったが、どうにも憂鬱だ。



「大丈夫~? 電車酔い~?」

「いや……」


「も~。光輝くんが自分で決めたんでしょ~? 嫌なら帰ろっか~?」

「行くよ……行くって……」



 窓の外に田園風景が広がってくると、より鬱々とした気持ちになってしまう。はぁ……なんでこんなところに……。



「たのしみだな~。光輝くんのご両親へのご挨拶~」



 なんでこんなところに引っ越したんだあいつらは……。



「なんだかんだ会ったことなかったもんね~。ご両親ってどんな人~?」

「言っただろ。プライドや世間体第一の、普通の大人だよ」



 俺が変わった未来へと帰ってから数日後。動画撮影が休みだったので、両親が移住した田舎へと忍と二人旅することにした。そう。俺が決めたんだ。両親に会うって。でもいざ会うってなるとな……めんどくさいし嫌だな……。



「……やっぱ帰ろっか。光輝くんからしたら、両親に捨てられたのって数ヶ月前の出来事だもんね」



 忍は俺の全てを知っている。俺が過去に戻って歴史を改変したことも、ほんの少し前に帰ってきたことも。10年前から知っていた。



「……大丈夫だよ。それについては本当に」



 一応この世界線の俺の経験はエージェントに頼んで俺の頭に入れてもらった。だから俺の認識としては、やはりあの出来事は10年前で。あの過去での生活は夢を見ていたかのようだ。



「元の歴史でも別に仲良くなかったしな……いや、それはいいや」



 そう。今までの全ては夢だったんだ。頭の中では間違いなく経験しているけれど、現実には起こっていない夢。だから考えても仕方ない。



「忍と一緒にいる今が、俺にとって最高の現実だからな」

「~~~~! 好き好き大好……」

「ほら、この駅だぞ」



 抱きついてこようとした忍を華麗にかわし、ちょうどよく到着した駅へと降りる。慣れないことへの照れというのもあるが、この世界線での俺は元からそんな感じだったらしい。そう思うとやはり変わらないのだろう。大物配信者だろうが、底辺サラリーマンだろうが、根本の性格は。結局は行動次第。人間性は変わらなくても、ほんの些細な行動一つで人生のレールは変わっていく。



「結構歩くんだっけ~?」

「ああ。光が頼んでくれた興信所の情報によるとな。タクシーでも拾えたらいいんだけど……」


「だったら車で来ればよかったね~」

「……俺に左ハンドルは無理だ」



 元の世界ではレンタカーしか運転したことのなかった俺だが、この世界では税金対策のために元の年収数年分の外車を購入していた。記憶はあるから運転自体はできるだろうが、それでも怖かった。俺だけならまだしも、忍を隣に乗せるってなるとな……。変わることもいいことばかりではない。



「そうだ」

「フィーーーーーーーーバーーーーーーーー!」



 水が張ってある田んぼに折り紙で作った斧を投げ、エージェントを呼び出す。



「エージェント、俺の両親の家までテレポート頼む」

「別にいいですけど……人使い荒くありません? あ、女神使い」


「いいんだよ。俺とエージェントの仲だろ?」

「はぁ……。しょうがないですねぇ……」



 変わったと言えば、俺とエージェントの関係性もだ。エージェント自身はずっと俺と一緒にいる個体だが、素直に頼ることができるようになった。これがいいことなのか悪いことなのかはわからないが、変にかっこつけて呼び出さないくらいなら、いつでも会える方がずっといい。



「……ここか」



 エージェントに頼んだ次の瞬間、俺と忍はとあるアパートの前にいた。田舎で土地は余っているはずなのに、都会のそれとそう大きさは変わらない。だがその質は俺の知っているものより大きく劣っており、半分腐った木の外壁には虫が這っている。



「……行こう」



 インターホンもない一階の一室の扉を叩き、出てきた見覚えのない老人に向けて、言う。



「俺の婚約者の忍さんだ」



 そして。



「今日はあんたらと縁を切りにきた」

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