表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
完璧人間の弟に彼女も未来も全て奪われた俺は、過去に戻って青春をやり直す。  作者: 松竹梅竹松
第4章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/63

第4章 最終話 正直者

「おつかれさまです、光輝様」

「ああ……エージェント……」



 記憶が戻ったのであろう。池の中からエージェントが声をかけてくる。



「斧ありがとな……助かった」

「いえ……。それより少し顔色が悪いようですが」


「ああ……少しつかれた」

「そうですね……何と言えばいいのかわかりませんが、おめでとうございます」



 そう。俺は大樹に勝った。生まれて初めての勝利だ。ずっと望んで叶わなくて、それでも諦められなかった夢。それをようやく掴むことができた。でも……あいつは俺が勝ちたかった大樹ではない。



「エージェント、未来に帰してくれ。この先の未来じゃない。元の……俺が咲に振られた、あの夜に」

「……いいんですか。あの未来では光輝様は……」

「いいんだよ。結局俺は大樹に勝ててない。俺の敵は……あの未来にしか存在しないんだ」



 こんな勝利じゃ満足できない。気持ちよくない。そうすることでしか生きられないのだ。五十嵐光輝という人間は。



「いつまでも過去にこだわっても仕方ない。だから……」

「光輝くんっ」



 完全に油断していた。転がっている大樹や咲を見て敵はいないと安心していた。俺自身が裏切りをしていたことも忘れて。



「……忍」



 見られてしまった。池の中から身体を出している女神と話している姿を。この時間の彼女に。



「ちが……こいつは……泳ぐのが大好きで……」

「……光ちゃんから聞いたよ。エージェントさん、って人……ううん、女神型ロボ……なんだよね……?」

「なんで……」



 なんでなんて、聞く必要もない。自分もタイムリープをしているんだ。光が自分から明かすことはないだろう。つまりこれは……。



「……エージェント。お前が光に言わせたな」

「……私は別に光輝様の言いつけを聞く都合のいい存在ではありません。どうしようもない言い訳好きのあなたの……友人ですから。友人の幸せを願うのは当然でしょう?」



 それは確かに……当然のことだ。でもこれが……。



「今の光輝くんは……10年後の未来から来てるんだよね……?」



 俺の幸せに繋がっているとは、到底思えない。



「……ごめん。今まで騙してた。忍が好きになったのは未来の俺で……本当の俺じゃない。そして俺はもう未来に帰る。だから……ごめん。別れよう」



 こうなっては仕方がなかった。何も言い訳できない。ひどい裏切りをしていた。同じ時間を歩めないのに……一緒に生きようとは思っていないのに、付き合おうなんて言ってしまった。まるで大樹のように、軽々しく。



「俺のことは気にしないでくれ。俺は一人でも……」

「……それは光輝くんの都合だよね」



 忍の顔が見れない。ただ怒りの滲んだ声だけが俺の心に突き刺さる。だがその怒りは。



「光輝くんだからいいの……。光輝くんと、付き合いたいの……!」



 俺の裏切りには向けられていなかった。



「たった10年違うだけでしょ……? 光輝くんは光輝くんなんでしょ……? だったら何の問題もない……その程度の覚悟で! 光輝くんと付き合ったわけじゃない!」



 その目を見ることができない俺の身体に無理矢理抱きつく忍。こうなると直視せざるを得ない。涙で揺らぎながらも、俺を見ることをやめない忍の顔を。



「光輝くんが私を見てないことなんかわかってた……それでも付き合いたいと思ったの。いつか好きだって言ってほしいから付き合おうと思ったの。たったの10年で、そんな想いは冷めない。どんな光輝くんでも好きでいられるから私は……!」

「……エージェント。逃げてもいいか」



 これだけ強い想いを浴びながらも、忍の顔から目を逸らしてしまう。



「やっぱり俺は……忍と生きたい……!」



 この気持ちを隠していられるほど、大人じゃなかったから。



「大樹なんてどうでもいい……咲なんてどうでもいい……。忍といられる未来にいたい……。でも、俺は……」

「それを決めるのは私ではありません。自分が生きたい未来を自分で決める。それが人生でしょう?」



 この27年間。俺は大樹しか見てこなかった。それでもこの先も続く長い人生は、忍のことを見ていたいと思ってしまった。それは逃げなのだろうか。現実逃避なのだろうか。わからない。わからないけれど。



「一つだけ確かなのは、この今は。あなたがやり直して勝ち取った人生です。未来に戻り、この先どう進むか。何もかもが自由です。そしてどんな未来でも、誰と付き合おうとも、誰と結婚しようとも。私はあなたと一緒にいますよ」



 ……そうか。そうだな。



「エージェント……ごめん、言い訳に使わせてくれ」

「あなたは正直者ですね。そんなあなたには、友人からの祝福がありますよ」



 そして俺は未来へと帰り。



「……ただいま。好きだよ、忍」

「うん。知ってるよ」



 新たな未来を歩き始めるのだった。

本来の最終回がこのエピソードの予定でした。ですが光輝くんと付き合ってきて、きっとこれでは満足できないだろうと思いました。やはりきちんと決着はつけさせてあげたいです。なので最終章となる次章では、大樹くんや咲ちゃん。そして両親と決着をつけさせます。もしよろしければもう少々お付き合いください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 戻らず残った。 前回の振りだと戻ると疑わなかったけど、お話としてはこうあるべきなんですよね。 いつまでも大樹だ家族だ咲だと拘ってる方がおかしいので。 大樹に勝つより忍さんの方が大事だと思える…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ