第4章 第8話 それぞれ 2
〇未来
「ただいま」
「おかえり光輝くぅぅぅぅぅぅぅぅんっ!」
フェニックス本社での用事を終え自宅兼撮影スタジオに帰ると、大人忍……いや、忍が俺にすごい勢いで抱きついてきた。
「過去に行ってたんじゃなかったっけ……?」
「光ちゃんに帰らされた~めんどくさいからって~」
「光輝先輩の記憶はエージェントさんがある程度整合性を取っているとはいえあまりにも存在がバグ過ぎますから。確か女神ロボ2体と一緒に帰らせたはずです。まぁ高校生とはいえ大人の記憶を持ったわたしがいるから何とかなりますよ」
なるほど……そうなると家ではひとりぼっちか。光がいるとはいえ少し不安だ。ちゃんとやれてるのだろうか、高校生の俺は。
「ていうかエージェントもこっちいんの?」
「はい!」
「元の時代に帰ってきました!」
「私は40年後からですが!」
「この時代も中々悪くないです!」
うわ……なんか水槽から4人のエージェントが身体出してる……気持ち悪。えーと、俺とずっと一緒にいたエージェントと、元々この時間にいたエージェント。それから40年後から来て今この時代に来たエーと、元々のエーか……ややこしいな。しかも光のメイクからか全然ボロボロじゃないから本当に見分けがつかない。
「さぁ問題です! あなたとずっと一緒にいたエージェントはどれでしょうか!」
「えー……? もしかしてここにいない……?」
「「「「「おおあたりーーーーー!!!!!」」」」」
うわ、なんかまた別のエージェントが出てきた……そういう生き物……? ていうか何となくでわかっちゃった俺も怖い……ん?
「じゃあもう一人誰だよ!?」
「別の時代から来た私です。それではさよなら」
「この一くだりのために来たの!?」
左から二番目のエージェントが水の中に消えていく。ほんとに何なんだこいつら……。
「ちなみに普通になん人って呼んでますけど私機械ですからね」
「いや俺にとっては人間だよ……友だちだ」
「「「「「もう……光輝様ったら……」」」」」
「全員で照れるな。そんで別の時代から来た奴帰ってくんな」
本当に疲れる……。ただでさえお偉いさんとの取引で疲労困憊だってのに。
「先輩、フェニックスとの契約は上手くいったんですか?」
「たぶんな。俺がミスしてなければだけど……相手は大企業のトップだからな……穴はありそう」
だが一応契約内容としては誰にとっても損のない内容。あえて向こうが破ってくることはない……と信じたい。
「それで光輝くん、いつ頃過去にいっちゃうの~?」
「どれくらいだろうな。フェニックス次第ではあるんだけど、最低でも1週間くらいはかかりそう」
「じゃあそれまでラブラブできるね~!」
「んなことより動画撮りたいんですけど! 忍先輩過去にいっちゃったからここ最近ずっと2人の動画になっちゃったんですからね!」
どうやら色んな理由で過去に戻るのには時間がかかりそうだ。動画は置いておいても、契約は必須条件。それが済まないことには動き出せない。
「でも急がなきゃだね~。大樹くんこの隙に攻めてくるでしょ~?」
「いや。どの時間に戻るかは自由に決められるからそこは問題ない」
「でも先輩が戻ってくるの結構かかったような……あんま覚えてないですけど」
そういえば光は俺の行動を全て体験済みか。一応忍も同じ時間を過ごしたはずだけど、俺たちが未来人だってことは知らないからな。
「帰る時間についてはエージェントに決めてもらった。確かに少し時間置くな」
「なんで~? 大樹くんに嵌められた直後にすればいいのに~」
確かにその通り。そっちの方が効率的で、大樹の作戦を妨害できるだろう。でも、だ。
「俺はいつまでも過去にいるつもりはないからな。高校生の俺にもがんばってもらわないと困る」
光は未来から過去に来て、そのままの状態で過ごしている。それは光の目的……普通の人生を送りつつ、人気者になるという目的からして当然だ。
でも俺は違う。咲に裏切られ、大樹に嵌められ、偶発的に過去に飛んだ。そして未来は変わった。だからこれ以上過去にいる理由もない。ただ二つ……咲と大樹への勝利を除けば。それさえ済めば、過去にこだわる理由は一つもない。
「これから10年間……人生を生きていくのは当時の俺だ。それなのに未来の俺が全部解決したら……たぶん俺は、幸せな未来に辿り着けない」
だから過去の俺が……本来の俺がやるしかないのだ。別に金持ちになりたいわけじゃない。ただ生きていくために。大樹に勝ち、咲を見返し。屈辱に満ちた未来に進まないためには、高校生の俺がやるしかない。
「だから俺が過去に戻るタイミングは、本来の俺が一度でも大樹に勝った後でだ。そこで俺が過去に戻って、大樹にとどめを刺す。それが終わったら……俺の物語は終わり。いや、始まりだ」
そのタイミングはエージェントに教えてもらっている。後は……。
「……ん?」
気のせいだろうか。家のドアが開き、誰かが歩いてくるような音がする。でも鍵はちゃんと閉めたはず……。だがその記憶とは裏腹にリビングの扉が開いた。
「お……お前は……!」
そこにいたのは……!