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第4章 第2話 ハーレム

「……どうなってる」



 文化祭が終わって1週間。つまり大樹が未来からやってきて1週間が経ったが、あいつが姿を見せることはあれ以来一度もなかった。家に帰ってこないどころか学校周辺でも見かけない。本当に俺と戦う気があるのかどうか不安になるほどだ。



 大樹が何を仕掛けてこようが、正面から叩き潰すつもりだった。だが勝負を仕掛けてこないことには何も始まらない。何より怖いのが、俺の知らない40年の知識から繰り出される未知の策。対策のとりようがないから本当にどうしようもない。



 いや、それよりも。ここまで大樹のことを考えてしまうことが恐ろしい。集中力が削がれるし、何よりも。こっちはもう一つ問題を抱えてるってのに……。



「光輝くん……ちゅーしたい……。ちゅーしよ? ね?」

「さっきしたばっかだろ……」



 同じく交際を始めて1週間の忍。俺への愛情というか……性欲が止まってくれない。恐るべき10代の体力。いや俺も身体は10代なんだけど……そこまで元気ではいられない。まぁ大人忍もこんな調子だから、そもそも忍がやばいって話か。忍と付き合うのだって俺にとっては初めての経験なんだぞ……。不安だし、当然緊張もする。忍を大切にしたい気持ちと、大樹への意識で二重苦。こんな精神的に辛い展開になるとは思わなかった。



「ちゅー……ちゅー……」

「はいはい。バイトあるからちょっとな」



 まぁ考えても仕方ないことを考えることほど無駄なことはない。学校からバイト先に向かう間にある路地裏に入り、忍の背中に手を回す。そして俺が口を近づけるより早く、忍が口を開いた。



「もしかして光輝くん、私のこと好きじゃない?」



 それは嫉妬が入り混じった、痛いところを突く一言だった。



「私と一緒にいるのに別のことを考えてるよね。もしかして……咲さん?」

「いや、咲じゃない。それに女でもないよ」



 これは正直に言うべきなのだろうか。いや、言わなくてもわかってしまうだろう。忍さんなら。



「じゃあ大樹くんだ」

「……ごめん」



 正直。正直に言えば、俺の中では。忍よりも、大樹への比重の方が大きい。本当に申し訳ないが、どうしてもそうなのだ。それでも。



「でも一番大切な女性は忍だよ。それだけは信じてほしい」



 忍のことをまだ愛しているとは言い切れないし、大樹への意識は薄れはしない。だが俺の彼女は忍だ。俺には忍を幸せにする義務がある。かつて結婚を考えた咲でも、いつか結ばれる大人忍でもない。今この瞬間の忍を幸せにしたい。それは嘘偽りない俺の想いだ。



「……大丈夫だよ、光輝くん」



 少し寂しそうにしながらも。それでも忍は笑う。



「光輝くんのことは誰よりわかってる自信あるもん。光輝くんは私を裏切らない。だから光輝くんは光輝くんのやりたいことをやってほしいな。それで……最後に帰ってきてくれたら。私のことを愛してくれるなら、それだけで……」

「光輝さまぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」



 ……めちゃくちゃいい感じだったのに。ちょうどキスするのに一番な空気感になっていたのに。



「うぇーい!」



 未来エージェント……エーが、俺に抱きついてきた。



「こ、光輝くん……? 誰その女……」



 そしてこうなるとさっきまでのやり取りが全て意味のないものに変わる。俺を信じてくれた忍はさっそくの裏切りに眉をピクピクとし、俺も何も言い訳できずただ冷や汗を流すことしかできない。……でもとりあえず。



「お前……その顔どうしたんだよ」



 俺の浮気疑惑より大事な事実。ボロボロだった肌が雪のような白覆われ、水から出ていなければどちらが今のエージェントかわからないくらい綺麗になったエーに訊ねる。



「顔ですか? これ光様にメイクしてもらったんです」

「んな馬鹿な……」


「それに光輝様! 私が会いに来るのは当然のこと! 久しぶりに見る若い奥様のお姿……そして何より、忍様にはフェニックスに就職してもらわなければ困るんです!」

「お、奥様だなんてそんな……まだ気が早いよぉ~……」



 未来から来たことを全く隠そうともしないエーや、奥様というワードにだけ反応して照れている忍。そんな2人に呆れながら、俺は何かを感じていた。時空が歪むというか……薄気味悪い風を浴びたというか。とにかくいつもと違う空気が俺を包む。それはきっと、エージェントが完璧にこなしていた宇宙の力の余波なのだろう。そしてそれが不完全で俺にまで伝わったということはつまり。



「……仕掛けてくるか」



 ようやく俺と大樹の戦いが始まることを意味していた。

少し展開ゆっくりでごめんなさい。最終章予定なのでじっくりと進めていきたいです。次回からは本格的なざまぁ開始です。咲ちゃんの出番もあるよ!

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