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第4章 第1話 対策会議

「第1回! 五十嵐大樹様を止めようの会~~~~!」



 俺、大人忍、光、エージェント。未来人グループが俺の家で集まる中、口火を切ったのは平然と俺の隣に座った50年後のボロボロエージェントだった。



「……水経由しなくていいんだ」

「もちろん! 私が水に入っているのは活動エネルギーを確保するため。宇宙の力を使えず省エネ極まれない私は、一日一度の入浴で問題ありません!」

「入浴って……」



 相変わらずの変な表現。こう話してみると見た目ではなく、心で理解できる。この子は正真正銘エージェントなのだと。



「そもそも私全く事情わからないんですけど~」

「元はと言えばあなたがフェニックスに就職しなかったのが原因ですよ忍様! 若々しくてお綺麗ですね!」



 過去が変われば未来が変わる。この未来の忍はフェニックスに就職せず、俺たちと一緒に配信者として活動しているらしい。……ん? でもそうなると……。



「忍、なんで過去に来たの?」

「お風呂入ってたらエージェントちゃんが来たんだ~。過去の光輝くんが大変みたいだから助けにきて~って」

「ちょっ……それは言わないはずでは……!」



 お、珍しくエージェントが慌ててる。ていうか初めてなんじゃないか。本気で感情を露わにしているのは。



「……ほんとに俺と仲良くなって人類を滅ぼすのやめたんだ」

「別に……! そういうわけでは……。ただまぁ……人類を滅ぼしたら光輝様も死んでしまうから……それはちょっと、かわいそうだなと思っただけで……」



 エージェントに頬を染めるという機能はない。だが感情がないわけではない。細かい仕草、口調、表情。一見機械的に対応しているように見えるが、そんなことは決してない。それくらい簡単に学べた。



「まぁ何でもいいんですけど」



 この場で最もエージェントと関わりがない光が口を開く。



「本当に大樹くんに干渉できないんですか? 光輝先輩を治せたのなら、抜け道くらいあると思うんですけど。いくら人間を超えたとは言ってもエージェントさんには敵わないんでしょ?」

「確かに抜け道はいくらでもあるかと。でもそれは光輝様が望まないはずです」


「……まぁな。50歳……40歳も年上のあいつに勝てば、文句なんて言わせない。俺の完全勝利だ」

「だから……勝つってのがわたしにはよくわかんないんですけど……」



 ……正直言って、俺もそれは感じていた。俺自身のことじゃない。大樹の勝利条件についてだ。



「まずあいつに俺は殺せない。エージェントがチートだからだ。となるとやっぱり人間関係とか社会的地位を壊そうとしてくるんだろうが……」

「それですよ先輩! わたしが危惧しているのはそれ! 一番可能性が高く、簡単なのは炎上です。ネットリテラシーがまだ発展していない10年前。ちょっとのことで炎上しちゃいますよ」



 そう、その通りだ。俺からしてみたら炎上が一番怖い。でもそれはありえないと、断言してもいい。



「炎上させただけで勝ったって言えるか? 少なくとも俺だったら言えない。もっと直接的なことをしてくるはずだ」

「それは先輩だからでしょ!? あのプライドの塊ならそれでも満足しますよ!」


「プライドの塊だからだよ。わざわざ50年後から戻って来たのにボヤ騒ぎを起こしただけで満足するはずがない」

「じゃあ一体何を……」



 ……おそらく、だ。



「忍だろうな」



 大樹は咲と付き合っていながらもよく忍にちょっかいをかけていた。俺と仲がいい以前に、単純にタイプだったのだろう。



「大丈夫だよ~。私が光輝くん以外の男になびくわけないも~ん」

「まぁそれは間違いないだろうけど……大樹には俺より40年も歳を重ねている。そのメリットは単純な経験だけじゃない。俺が想像もできないような未来の知識。それが一番厄介だ」



 今から40年前の人間が、当時のパソコンより高性能な手のひらサイズの機械で動画を撮って金を稼ぐ職業があると想像できるだろうか。それと同じだ。40年後では当たり前のことでも、俺では決して辿り着けない。それが一番恐ろしい。



「おばさんエージェント、なんか心当たりある?」

「おば……! エーと呼んでください。そんなあだ名で呼ばれていましたから。……そして心当たりもありません。ボロボロになって記憶デバイスも光輝様たちの思い出を詰めるので精一杯でしたから。そして今の私も未来の知識は当然ありません」



 となると……対策のとりようがないな。忍を狙われる可能性が高いが、それも絶対じゃない。俺に勝ったと堂々と言えて、なおかつ俺を傷つけられるもの。……多すぎる。



「やめだやめ。考えたって仕方ないよ」



 結局どこまで行ってもやることは一つだけ。



「今を精一杯生きる。そうすれば勝手に未来の方が変わってくれる。タイムリープ者だから未来が変わったところで消えるわけじゃないだろうけどな」

「……なんかこれ言ったら先輩怒るかもですけど」



 せっかく話がまとまりそうだったのに、光がわざわざ口を開いた。



「先輩と大樹くんって似てますよね」



 それはまぁ兄弟だから……ってことじゃないんだろうな。



「忍先輩に咲さん。女性の好みが一緒だし、何より負けず嫌い過ぎません? せっかく過去に戻れたのに勝ち負けなんかに拘るとかどんだけ負けず嫌いなんですか」



 過去に戻り効率的に成功人生を収めようとした光にはわからないだろう。いや、きっと誰にもわからないんだろうな。俺たち以外は。



「これは昔会った大人忍さんが言ってたけど……どうしても勝てない奴ってのは間違いなく存在するし、自分から関わろうなんて思わない。でも家族は……そうじゃないんだ」



 嫌でも目に入ってしまう、最も近くて嫌いな存在。それが俺にとっての大樹で、未来の大樹にとっての俺なのだろう。どうしても勝てない。スタートは同じだったのに、どう足掻いたって勝てやしない。それがどれだけの苦痛か。そしてもし勝てたら、どれほど自分の人生に価値を見出せるか。あと少し……あと少し届かないあの背中に手が届くのなら。断言できる。俺が65歳だったとしても、ただ一度の勝利のために過去に戻っていたことだろう。



「嫌なんだよ。嫌いで嫌いでたまらないんだ。何の努力もせずに勝てる大樹が。格下だったのに勝った俺が。どれだけ歳をとろうが変わらない。この劣等感だけは変わってくれない」



 だから俺たちは戻ってきた。勝つために。ただ勝利のためだけに。



「俺は絶対に負けないぞ。この勝利だけは譲れない」



 一勝一敗同じ未来人。ようやくあいつと肩を並べるところまで来れたんだ。



「この勝負が俺の、俺たちの。生きてきた証だ」

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― 新着の感想 ―
[良い点]  意地なんだよ。  他人なら「しゃーない」で諦められるけど、血の繋がった身内には諦めきれないものがある。  賢く生きるなら関係を断つとか有るんだろうけど。  そんなに賢く生きられるならこん…
[気になる点] 一旦完全に関係を絶ったら、たとえ家族であっても嫌いな相手と関わろうとしなくなります。 血縁があろうとも、「去る者は日々に疎し」なのが事実。 家族は物理的法的に完全に関係を絶つのが難しい…
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