第3章 第14話 狼煙
「こ、光輝くん……こんにちは~……」
文化祭2日目にして最終日。うちのクラスの出し物である焼きそばを校庭で作っていると、高校生忍さんがやってきた。なんか髪を編み込んでるし、制服のスカートはいつもより短い。普段より気合いが入っていることは明らかだが、既に顔は真っ赤で俺の顔から視線を逸らしながら震えた腕で手を振っている。
気持ちはわからないでもない。俺も咲との初デートでは死ぬほどかっこつけた服着ていったのに会話すらまともにできなかったものだ。そういえば咲にそんな様子はなかったな。まぁ大樹と行くとこまで行ってるんだからデートなんかで緊張するわけないか。
なんて話はどうでもいい。所詮は消え去った過去の出来事。ここからは、俺と忍さんの未来の話だ。
「ごめん、もうちょっと待ってて。あと少しでシフト終わるから」
焼きそばをまとめながらそう言うと、遠巻きに俺の動画を撮っていた他校の女子たちが黄色い悲鳴を上げた。中には本当の悲鳴も混ざっている気がするが。
「まさか光輝くん光ちゃんじゃない別の女の子狙ってるんじゃないの!?」
「それって光ちゃん知ってるのかな!?」
「知ってるからこの前片想いだったっていう動画出したんだよ!」
「うそ! じゃあ三角関係だ!」
焼ける鉄板にも負けない噂話が耳に届いてくるが、答えることはしない。これが光が狙っていた展開なのだろう。だったら俺も演者として演じ続けるだけだ。
「忍さん、これ俺の奢り。気に入ったらいつでも出せるから言ってね」
「あ、ありが……」
「きゃーーーーーーーー!」
……と思ったが、声も聞こえないくらい叫ばれるとさすがにうざったい。どうしてこの年頃の女子は馬鹿みたいな声出すんだろうな。
「美味しい! 光輝くん料理上手いんだね!」
「ふっ、キッチン歴7年一人暮らし歴8年だぞ」
「光輝くん……珍しいね、そういう冗談言うなんて。も、もしかして……緊張してる……?」
「そ……そうなんだよ……」
やっば、最近未来人2人とばっか話してたからつい10年後が出てきてしまった。いや……実際緊張しているのかもしれない。大人になってもこういうのに慣れないのは良いことなのか悪いことなのか。
「よし、そろそろ上がるか。じゃあみんな、悪いけどここからはプライベートだから」
「きゃーーーーーーーー!」
「ほんとごめんね! 午後から光と一緒に動画撮るからその時また見に来て!」
「きゃーーーーーーーー!」
そしてこういうのに慣れたのは、まぁあまり良くないことなのだろう。大多数に向ける感情は、人の数だけぼやけてくる。でも考えてみれば当然の話だ。目の前の大切な人1人にすら、どういう感情を向ければいいのかわからないのだから。
「じゃあ楽しもうか。高校最後の文化祭」
「ひゃっ……ひゃい!」
手持無沙汰だった忍さんの左手に指を絡めてそう促す。俺と忍さん。2人の未来が決まる祭が始まった。
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