第3章 第13話 インターバル
「ついに明日は私と光輝くんが付き合う日だねっ!」
「このネタバレ女っ!」
文化祭一日目が終わり家に帰ると、最近一緒に暮らしている大人忍さんが最悪のネタバレをかましやがった。
「でもなんとな~くわかってるでしょ~? そういう雰囲気だったな~って」
「わかってるけど……わかってるけどさぁ!」
でもなんか違うじゃん……。そういうのじゃないじゃん……。
「ていうか未来変わったんだ……」
「そうなの? 私わかんな~い」
「そりゃそうか……」
普段よりやたらベタベタしてくる忍さんを引きずりながらリビングに向かう。どうやら付き合うタイミングが早まっても未来はあまり変わっていないようだ。
「ちょっと先輩! なんか忍先輩から連絡きたんですけど!?」
「なんでいんだよ……」
リビングに入った途端普通にソファでくつろいでいた光が怒鳴ってきた。なんか家から家族が消え、その代わりに未来人の集会所になってきている。まぁいいけどさ。
「忍先輩といい感じらしいじゃないですか! でもダメですよ付き合うの! 視聴者は三角関係のヤキモキを楽しみにしてるんです! せっかくハーレム主人公させてあげてるんですから我慢してくださいよ!」
「知らんよそんなの……」
「大丈夫だよ~。10年後の今も付き合ってること公表してないから~」
そしてやっぱり大人忍さんがネタバレの極致だな……。この人といると恋愛のドキドキがなくなってくる。でもまぁ……。
「未来は俺たちの行動次第で変わるからさ。もしかしたら忍さんとは何もないかもしれない」
「ひど~い! 今日屋上で私にキス迫ってきたでしょ!? そんなふにゃふにゃした考えでキスしようとしたの!?」
「いやそれは……」
正直まだ忍さんを好きだと胸を張って言えるほど、恋愛感情は持っていない。ずっと友だちだったから。
「でも今日一日一緒に遊んで……すごいよかったよ。付き合えたら幸せだろうなーとも思った。けどキスはその場の流れっていうか……忍さんの想いに応えたいなって思ったのが大きい気がする」
「それで告白もされていない相手に迫ったんですか? さいてー。勘違いだったらセクハラですよセクハラ!」
「安心して! 10年前の私は光輝くんのこと大好きだったから!」
「だからそういうこと言うなよ……」
相変わらずのネタバレに辟易してきたその時だった。
「……は?」
突然大人忍さんの姿が、消えた。
「うわぁ!?」
「え? どしたの?」
かと思えば再び目の前に現れる。そしてそれが幾度となく続いていた。
「これは……!?」
「ようするに……まだ悩んでるんじゃないですか? 先輩が。忍先輩と付き合うかどうかを」
事態をまるで把握できていない俺に、時間移動の仕組みを俺よりも詳しく知っている光が教える。
「過去が変われば未来が変わる。たぶん先輩はいま、本当に忍先輩と付き合いたいのか悩んでるんですよね。付き合ったのなら大人の忍先輩が残って、付き合わないと決めたら二人目のサポートとして過去に来ることもなくなる。たぶんそういうことなんだと思います」
つまり俺の……今の俺の決断で、未来がガラリと変わるってことか。俺が忍さんと付き合いたいかどうかで。
「忍先輩は光輝先輩のことが好きなのかもしれません。でもたぶん、先輩はそれほどでもない。付き合えるなら付き合いたいけど、そんな気持ちで付き合っていいのか。そんな思春期の高校生みたいなこと考えてるんじゃないですか?」
「どっちかっていうと……マリッジブルーだな」
16の俺と、26の俺では交際の意味合いが違う。どうしても未来を。交際の先の結婚まで考えてしまっている。大人忍さんを知っているから尚のことだ。
本当に俺でいいのか。俺が忍さんを幸せにできるのか。どうしても、考えてしまう。
「大丈夫ですよ。告白しないならわたしが付き合ったげますから」
「……未来人と未来人の交際なんて笑えるな」
「確かに。未来でやれって話ですからね」
出てくるのは現実逃避的な話ばかり。それでも否応なく明日はやってくる。
「……まぁ結局、俺が忍さんに惚れるかどうかだ。明日になってみないとわからないよ」
結局未来の自分に全てを任せ、酒を飲むことにした。




