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第3章 第12話 お人よし

「ダメでしょ光輝くん。カップルチャンネルなんかやってるのに浮気しちゃ。この写真が拡散されちゃったら困るね? だったら……やることはわかってるね?」



 振り返ると屋上の入口に、スマホを構えた咲が立っていた。10年前のスマホのカメラ性能、この位置関係的に俺だと証明するのは難しそうだが、確かに確信されたら困る。少し前までならの話だが。



「ご、ごめんなさい! 私が悪いの! 光輝くんは悪くないから……その写真は……お願いします! 消してください!」



 事情を知らない忍さんが俺の前から飛び出して縋るように頼み込む。それを聞いた咲は、ただただ笑顔だった。



「そうだよね。あなたのおうち貧乏だもんね。こんな画像がネットに晒されちゃったら生活できないもんね。でもたりないなぁ。知ってる? 私のおうちお金持ちなんだよね。地元に根付いた不動産会社の社長令嬢の彼氏を寝取って土下座の一つもないなんておかしいと思わない? 身分を考えた方がいいと思うな」



 ずいぶん偉そうに。地元に根付いていたからこそ、俺を捨てたことで会社がピンチだってのに。何より俺は咲の彼氏なんか卒業してるんだ。情一つ残っていない。



「ご、ごめんな……」

「いいよ忍さん。土下座なんかしなくて。ネットに上げたいならお好きにどうぞ。何の意味もないけどな」



 忍さんの肩を叩き、咲にスマホの画面を見せつける。一昨日公開された俺たちの動画のサムネイルを。



「何これ……? 謝罪動画……?」

「ああ。内容は、俺と光が付き合ってるのは嘘だって話だ。もっと具体的に言うと、光の片想いだった。そういう内容になってる」



 だから問題がないのだ。俺が他の誰と付き合ったとしても。



「でも……今まで嘘ついてたなんて言ったら炎上するに……」

「まぁそれは賭けだったけど、コメントを見る限りそうでもない。たぶん視聴者の傾向的に、恋愛バラエティ的な内容が好きな若い人が多かったんだろうな。むしろマンネリ打破のいい材料になったよ」



 他人の片想いや三角関係を見るのが好きな人間というのは多い。誰誰が付き合ってるとかいう噂話はつまりそういうことだからだ。俺にはあまり理解できないが、下世話な話がどうやら視聴者にウケるらしい。



「まさか……その女と付き合いたいからこんな動画を……」

「いや。これを投稿することを決めたのは光だ」



 大人忍さん曰く。俺が動画に参加するのを辞めたら、チャンネルの人気がどんどん下がっていったらしい。それはつまり光一人での魅力不足、力不足を表している。



 だからこその、俺との決別。たとえこの先俺が動画に参加できなくなってもいいようにするための方向転換。それが事実の公表だ。



「俺も光も子どもじゃないんで。駄目なら駄目で、切り替えることくらいできるんだよ」



 もちろんこの先しばらくは俺も動画に参加する。そこで恋愛的な空気感を出していければおそらく人気はより出るだろう。俺が出られなくなったら振られたことにして同情を誘う。つまりは自分の人生を他人に晒し続ける。そういう光の決断だ。



「お前の家が忍さんの家を潰そうとするならそれでもいい。俺たちのチャンネルに参加すれば仕事になるからな。進学だけが道じゃない。この先の未来。働き方はどんどん自由になっていくんだから」



 光からはオフレコと言われたが、忍さんを出して三角関係を演出。視聴者を釣って人気ガッポガッポ。それが光の今後の作戦らしい。意地汚いやり方だ。大人らしくて非常にいい。しかも子どもな咲のやり方と違って、俺たち以外の他人を巻き込まないのだから尚のこといい。



「そういうことだから。お前の思い通りにはいかないよ、ばーか」

「っ……!」



 何か反論しようと口をパクパクさせていた咲だったが、結局何も言えずすごすごと帰っていく。やり方が子ども過ぎるんだよ。こんなやり方で潰されるほど、俺たちも馬鹿じゃない。大人とはそういうものだ。



「それと忍さん、光から伝言。『だからといって光輝先輩をタダで渡すほどお人よしじゃありませんからね!』だって」

「……うん」



 さて、なんか雰囲気壊れたな。まぁ明日も文化祭はあるんだ。その時に……。



「……光輝くん、私からも光ちゃんに伝言」



 俺の背中に何かが当たる。それは手なのか胸なのか唇なのか、わからない。ただ柔らかい感触が、俺の背中を包み込んだ。



「私だってお人よしじゃない。誰が相手でも負けないからね……って、伝えといて」

「……わかった」



 とりあえずこの話の続きは、翌日へと引き継ぎになった。

第3章とりあえず中間くらいかな? って感じです。文化祭編駆け足になってるので、次回からはもっとゆっくりやっていきたいと思います。


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― 新着の感想 ―
[良い点] フラグ(密会写真)が砂の城のようにあっさり崩壊。 咲ざまぁ。 [一言] 自分の欲望に忠実で自分自身の味方である咲はいいキャラしてるわ。 ブレないあくやく。
[一言] 粘着女は、なぜ嫌がられているのか、は、ちゃんと理解しているのだろうか……。
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