第3章 第5話 復縁要請
「おじゃましまーす!」
家に入れてもらったことを受け入れてもらったと勘違いした咲が笑顔で挨拶する。大学生じゃないんだし、夜中に突然来るなんて非常識。そんな常識のない奴と玄関先で話して近所迷惑になってはいけない。俺が咲を家に入れた理由はそれだけだ。非常識な奴には茶すら出すつもりもない。
「で、何の用?」
「つれないなー、光輝くん。私と光輝くんの仲じゃん」
慣れた足取りでリビングへと向かった咲がよく意味のわからないことを言う。いいとこのお嬢様だったよな、こいつ。少なくとも元の歴史では、ここまでフランクになるには結構な時間がかかったはずだが。まぁいいや。
「さっさと帰れ。俺とお前の間には何の関係もないだろ」
「そんなことないよ。光輝くん……まだ私のこと好きだよね?」
「生憎そこまで一途でいられるほど純粋でもないんで。普通に話したくないくらい嫌いだけど?」
「ふふ、光輝くんはそういうタイプじゃないでしょ? 浮気されたくらいで人を嫌えるほど自分に自信はない」
「まぁ否定しないけどな。実際1週間だけしか付き合ってなかったとしたら、浮気されても合わなかっただけなんだなって納得してたかもしれない」
「でしょ? 本当に浮気……気持ちが浮ついてただけなんだよ」
咲が上着を脱ぎながら立ち上がる。肩や胸の谷間が見える、露出度の高い服装。それを見ても恐ろしいほど、何も感じなかった。
「私気づいたんだ。本当に好きなのは光輝くんだったって。だからやり直そう? きっと私たち、上手くいくと思うんだ」
「そうか。俺は思わない」
「ごめんね。私大樹くんに騙されてたの。ただの身体目当てのクズ……そんな悪人に騙されてたんだ」
「そうか。俺はお互い様だと思うけどな」
「それに家が厳しくて……すごいプレッシャーを感じてたの。それで間違った選択をしちゃった。本当に選ぶべきは自分が心から愛してる人だったのに」
「そうか。もうこれくらいで充分だな?」
もういいだろう。もう充分すぎるほどに言い訳は聞いた。俺に身体で迫ってくる咲に告げる。
「何を言われても変わらない。お前は俺の敵だ。俺が超えるべき敵。いつか俺の実力でお前に勝ってやる」
ああそれと。これも伝えておかなければならない。
「どうせ大樹がいなくなったから俺に縋ってきたんだろうが、それなら安心しろ。逃げられて終わりじゃ満足できないからな。俺が大樹を見つけてきてやる」
「え? ほんと?」
こいつ……あっさりと納得しやがった。だが自分でもその浅ましさに気づいたのか、慌てて取り繕おうとする。
「大樹くんなんてもうどうでもいいの。私が好きなのは光輝くんだけだよ?」
「そうですか。でも残念。光輝先輩が好きなのはわたしだけですよ」
ゾンビみたいなしつこさに辟易していると、風呂場からあいつが出てきた。
「あなたと違って先輩は浮気なんてしません。だからあなたにチャンスはありませんよ」
「……浮つきすぎじゃないの」
メイド服のまま俺に抱きついてきた光を、咲はキッと睨みつけた。