第3章 第4話 来訪者X
それからしばらくのことは覚えていない。でもこういうことらしい。
俺が有名になるに従って、大樹の評価は落ちていった。当然だ。大樹が俺を貶しているのは、既に高校でも知られている事実。そんな奴に庇われて命を拾ったんだ。端的に言えばダサいし、批判は集中する。それは大樹だけでなく両親も同じ。近所の人に話を聞けば、俺が蔑ろにされていたことはすぐに明らかになる。それが耐えられなかったらしい。俺を病院に放置し、消えた。俺の家族は俺を家族と認めなかった。
「だからわたしが先輩の身の回りのお世話をするために未来から派遣されたんです。アイドルにお世話してもらえるなんて先輩は幸せ者ですね♡ あれ? 先輩聞いてます?」
そういう奴らだということはわかっていた。俺を家族扱いしていないことなんてわかりきっていた。でも……そうか。やっぱり……そうなんだよな。
俺はヒーローになった。望んでいたわけではないが、みんなから褒められた。でも大樹から。両親からは、何も言われなかった。一番認めさせたい連中からお礼を言われるようなことはなかった。
いじめがなくならないのと同じ理屈だ。家族にとって、俺が虐げられるのはあいつらが幸せになる条件だった。下を作らないと生きていけない人間は一定数いる。あいつらにとって俺は家族だったんじゃない。自分たちが幸せだと実感するための道化だったんだ。
その道化が何の因果かヒーローになってしまった。気に食わないはずだ。認められないはずだ。だから切り捨てられた。いや、逃げられた。
「まだ俺は勝ってないんだよ……!」
勝手に負けを認めんな。俺はまだ勝っていない。大樹にまだ、勝っていないんだ……!
「先輩……気持ちはわかる……とは言えません。先輩の家族に対する感情は、普通のそれじゃありませんから。でも切り替えていきましょう! 高校生にして一人暮らしですよ? お金も元々親戚の人に援助してもらってましたし、フェニックスからも資金が出ています。きっと楽しい毎日を送れますよ」
そう語る光の声はどこか弱々しい。光も知っているからだ。俺の気持ちを。それくらい長い時間を共にしてきた友人だから。俺も報わないと。友人に気を遣わせたままなんてダサすぎる。
「ありがとう、光。とりあえず酒飲むか。エージェント、俺たちを大人の姿に……」
そう頼んでいる最中にインターホンが鳴った。もう夜の10時を回っている。こんな時間に来訪者なんて……。
「わたし出ますよ。メイドですし」
「メイドだから出せないんだろうが」
どこの誰が来たとしても、変なプレイをしていたと思われたら困る。風呂場に1人と1体を置き玄関へと向かう。
「はい、どちら様……」
「こんばんは、光輝くん」
俺の家に訪れたのは。
「ひさしぶりに2人で一緒にいない?」
大樹という彼氏を失った、咲だった。