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第3章 第3話 三人目

「待って誰!? 誰ですかあんた一体! 大樹の女!? そうなんでしょ!?」



 なぜか家にいたツインテールのメイドさんに、自分でも情けないくらいに狼狽してしまう。大人とはいえこれは焦る。家に知らない人がいたら、さすがに怖い!



「傷つくなー。わたしですよわたし。ほんとにわかりませんか?」

「え!? はぁっ!?」



 この口ぶり……俺の知り合いなのか……!? でもこんなかわいい俺と同い年くらいのメイドさんの知り合いなんているはずが……いや……待てよ……!?



「もしかして……光!?」

「ぴんぽーん! かわいいかわいい光ちゃんですよー」



 当たった……いやでもありえない! 光はさっきまで俺と一緒にバイトしてて……俺より早く上がったけど……何よりこんなことをする理由がない! こういうわけのわからない時は……風呂場だ!



「エージェント!」

「きゃー! 光輝さんの三十路ー!」

「20代に四捨五入するのは犯罪だぞ!」



 風呂場を開けると、服を着たエージェントが胸を隠して戯言を口走っていた。……ん? なんでもうエージェントが出てるんだ……?



「……エージェント、悪いけど説明してくれ。この状況を」

「ようするに忍様と同じです。ですが忍様より光輝様の方が近いです」


「どんどんAI馬鹿になってない?」

「人間を学習しているのだから当然です。そして言葉の通りです。過去が変わり、未来が変わった。本来忍様が過去に来るはずでしたが、その役目が光様へと変わりました。そして忍様の場合は身体ごと過去へ移動するタイムスリップでしたが、光様は光輝様と同じタイムリープです。この過去の身体に意識ごと移動しました」



 ……なるほど。だから忍さんと同じで俺の方が近いと……。



「……いつから?」

「わたしが来たのはついさっきです。バイトから帰っている途中にタイムリープしたので、そのまま先輩の家に行きました。鍵はフェニックスから受け取っていたので」



 俺を追って風呂場に入ってきた光が笑いながら言う。どうやら状況を吞み込めていないのは俺だけのようだ。風呂のへりに腰かけながら訊ねる。



「まずなんで忍さんじゃなくて光に変わったんだ?」

「それわたし知らないんですよねー。エージェントさんから話は聞いたのである程度はわかりますが、わたしからしてみれば当然というか。パラレルワールドの話ですからね」



 そういえば修正されていった歴史を全て認識しているのは俺とエージェントだけだったか。つまりこの世界では、大人忍さんが未来から来たという歴史はなくなっているんだ。



「でも質問は変わらないよ。なんで光が過去に来てんだよ。お前アイドルだろ?」

「先輩が知ってるわたしはそうだったんですかね? わたしこの前グループを卒業したんですよ。だから今のわたしはアイドルじゃありません」



 あぁ……そうだったな……覚えてる。俺が経験した歴史でもそうだった。確か俺がプロポーズする数週間前の話だったか。チケットを取って咲と一緒に卒業コンサートにも行った。



「ようするに暇だからフェニックスに雇われたってことか? 俺の知り合いだから」

「平たく言うとそうです。人気のあるアイドルなら女優とかモデルで続けられたんでしょうけど、中堅どころのグループの中堅メンバーでしたからね。普通の女の子どころか普通以下の25歳無職です」


「……珍しいな。いや大人のお前とは長く会ってなかったからあれだけど……光って、すごいアイドルに情熱持ってただろ」

「先輩の知るわたしとは違いますし……何度も言いますけどもう25歳です。現実くらい見ますよ」



 現実……か……。確かにアイドルは山ほどいるが、その後もよくテレビで見るのはその中でもさらに一握り。テレビに出れるトップ層でそうなのだから、中堅止まりの光はさらにシビアなのだろう。一応俺の方が年上だが、俺より長く社会人経験を積んでいると言っても過言ではない。きっと俺の知っている光も同じことを思っていたのだろう。



「卒業した後は婚活でもしようと思ってたんですよ。そんな時フェニックスの人が声をかけてきたんです。先輩を過去に送るから、そのサポートをしてほしいって。一も二もなく飛びつきました」

「そんなに俺と会いたかったのか?」


「それも間違いなくありますけど……でもごめんなさい。それは言ってしまえばついでです。冷静に考えて、過去に戻れるってやばくないですか? 失敗も後悔も、全部なかったことにできる。先輩から見たら、邪道なんですかね?」

「いや自由だろ。むしろ大樹にこだわって失敗続きの俺が間違ってるんだ。せっかくのタイムリープ。やりたいことやれよ」



 俺だって大樹に勝ったらもっと自由に……あれ……そういえば……。



「大樹は? 両親もいないんだけど、なんか知らない?」

「……エージェントさん、先輩知らないんでしたっけ?」

「はい。何も知りません」



 俺を置いてエージェントと会話した光が一度ため息をつき、告げる。



「先輩のご家族は夜逃げしました。先輩を置いて」

少し長くなってしまったので前後編にさせていただきます。

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