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第3章 第1話 想定外

「はじめまして! 新聞部の門矢遠美(かどやとおみ)と言います! 本日は貴重なお時間をいただきインタビューにお付き合いくださりありがとうございます! 最高のヒーローとお話できて光栄です!」

「はは……どうも……」



 退院直後の放課後。俺は新聞部の部室に赴き、1年生の眩しい瞳に晒されていた。



 午後からでも登校したのはこのため。わざわざ病室にまで来てアポを取ってきた後輩に報いるためだった。



 だがそれ以外は想像の範囲外。まさかこんな尊敬の目で見られているとは思わなかった。学校でこんな事件が起きたら新聞部としては取材するしかないよな、1年生貧乏くじ引かされてかわいそうと思って安請け負いしたが、こんなことになることは想定外。庇ってやったんだしちょっとくらい大樹の悪口言っても構わないだろうという当初の目論見とは外れることとなった。めんどくさい。



 だがある意味これは好都合。言ってしまえば女子に刺されただけの俺がなぜ英雄扱いされているのか。それを聞くのに新聞部は最適だろう。インタビューに答えながらこっちからも情報を引き出そう。



「まずは五十嵐さん。弟の五十嵐大樹くんを庇われたと思いますが、その時はどのような感情で動いていたのでしょうか」

「そうですね。特に何も思っていないというか……気づいたら庇っていたという感じでした」



 これでも営業部。人と話すのは慣れている。だがどうしても話す前にそうですねと付けてしまうのはなぜだろう。



「そうですか! さすがです! しかも刺された直後、犯人を無傷で制圧! 護衛術とか習っていたんですか?」

「そうですね。習っていたというか……独学で勉強はしいていました。でも無傷なのはたまたまだと思います。私にそこまでの技術はありませんから。若林さんに怪我がなくてよかったです。それに私は転がしただけで、実際に取り押さえてくれたのは同級生の牛島さんです。牛島さんに感謝ですね」



 なぜだろう。謙虚に話して自分を下げているつもりだが、答えるたびに門矢さんの顔が輝いている気がする。そんなかっこいいこと言ってないだろうに。



「これは少し失礼かもしれませんが……大樹くんとの仲はそんなに良くなかったと伺っています。大樹くんとは同じクラスですが、よく五十嵐さんのその……悪口というか、よくない話を聞いていたので。それでも無意識とはいえ助けたのは、大切な弟だからでしょうか」

「そうですね……。別に弟だからというより、誰が相手でも身体は動いていたと思います。でもそれは私が特別だからではなく、きっと誰でも同じことができると思いますよ。助けられるなら助けるのが人の当たり前というか……本当に普通のことをしただけだと思います」



 そう。俺は普通のことをしただけだ。努力など関係ない。ただ人として当たり前のことをしただけ。それなのに俺の評価が過去最高潮にうなぎ上りになっている。……気に食わない。努力もしてないのに褒められるのは、不本意というものだ。



「だから本当に私は何もしていないんです。むしろ余計なことをしてしまいました。きっと大樹なら、刺されることもなく若林さんを止められてた。それなのに俺が動いてしまったせいで、彼女を犯罪者にしてしまいました。申し訳ないことをしたと思っています」

「そんな……。全校生徒みんなが見ていましたよ。五十嵐さんの雄姿を。自分を卑下しないでください。五十嵐さんは立派なことをしたと思っています」



 なるほど……そういうことか。俺の異常なまでの評価は、全校生徒が見ている最中行われた事件ということが大きいようだ。



 確かに全校生徒の前で俺は刺された。だが実際にその様子を見たのはごくわずかだろう。見たのは俺が刺された後の出来事。だから俺の行動は噂程度に収まるはずだった。



 だが噂という認識は彼女たちにはない。むしろ当事者。現場を見て、誰かから話を聞いて、実際はそんなことないのに俺が庇った様子を直接見たという雰囲気に流されてしまったのだろう。



 俺も知らない奴が目の前で刺されていて、その理由が弟を庇ったからと聞いたら、きっとそいつをめちゃくちゃ尊敬すると思う。ニュースで聞いても何とも思わないが、現場でその様子を見たらそう強く思い込むだろう。だから……やはり気に食わない。



「最後にこの新聞を読んだ方にメッセージをいただけますか」

「……はい」



 俺は大樹に勝っていない。それなのに褒められている。違うんだ。誰かに褒められたいわけじゃない。俺の自己満足でいい。ただ大樹に勝てれば、それでよかったのに。



「若林さんを止められなかった。それは私の落ち度です。本当に……悔しい。申し訳ありません。以後そのようなことがないよう努力を重ねてまいります」



 こんな評価認めない。こんなことで上になっても意味がない。だからこそ、こう言ったのに。



「ありがとうございます……! 常に自己を反省して上を目指すそのお姿……すごい、尊敬します……!」



 無垢な後輩は、涙を流しそうなほど感銘を受けた顔をしていた。本当に気に食わない。

一番辛いエピソードは超えたのでそろそろ感想欄を見ても大丈夫だと思うのですがどうでしょうか。ぼちぼち返信させていただきたいのですが……ちょっと不安です。


おもしろい、続きが気になると思っていただけましたら☆☆☆☆☆を押して評価とブックマークのご協力をよろしくお願いいたします!

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― 新着の感想 ―
[一言] とりあえずザマァ一丁。(´д`)(オス猿メス猿両方で)
[良い点]  自らの手による勝利のみ追い求める、と書くとどこの求道者だと言いたくなるw  実際主人公はあの行動で持ち上げられているのは違う、これじゃないと思っている訳で。  この新聞部との遣り取りでも…
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