第2章 第8話 体育祭
日頃お世話になっております。もう少しゆっくり話を進ませたかったのですが、都合により事件が起きるのを9月の文化祭→7月の体育祭に変更させていただきます。ご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありません。ご了承ください。
また完結させるためにしばらく感想の返信を控えさせていただきます。私の都合でご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありません。
社会人になると年齢なんかは10年くらい離れていないと意味がなくなるが、学生の間はそうではない。1つといえど、年齢が違えば同じ舞台で戦う機会はほとんどない。
そんな少ない機会の中、体育祭は大きなチャンスだ。全校生徒が参加する一大イベント。負けた時のダメージも大きいが、ここで下剋上を起こせば一気に評価が跳ね上がる。
「がんばってね光輝くん!」
「ああ。がんばるよノブノブ」
いかにも誰かのお姉さん面で観覧席にいる大人忍さんの応援に頷く。どうやら俺は未来ではこんなあだ名で忍さんを呼んでいたらしい。勘弁してほしいが、高校生忍さんとの呼び分けになれるから良しとしよう。
「もう一度確認するけど、忍さんが若林さんに襲われたところを俺が庇って刺される。その隙に大樹が若林さんを取り押さえた。それで合ってるよな?」
「うん! すごいかっこよかった~!」
今の俺の行動で未来が変わったとしても、俺に判別する術はない。都度ノブノブに確認するしかないが、人の生き死にが関わっているので心配は尽きない。
エージェントが人を生き返らせるというチート能力を持っているからある程度安心はできるが、エージェントが完全に言うことを聞いてくれる保証もない。それに俺と忍さん、両方が殺されてしまったら、あの女神ロボがこの時代に来る未来もなくなる。若林さんをコントロールできていればよかったが、元の性格が悪いせいでそれもできなかった。最悪俺が死んだとしても忍さんを守るしかない。
「大丈夫だよ、光輝くん」
死ぬ覚悟を決めていると、ノブノブが聖母のような優しい顔で俺を抱きしめてくる。
「自己犠牲の気持ちで私を庇わなくてもいい。エージェントがきっと生き返らせてくれるし、どんな過去になっても、未来の私は光輝くんを好きになるって信じてるから。それより光輝くんには自分の人生を楽しんでほしい。高校生に戻れるなんて、またとないチャンスだと思う。光輝くんには思う存分青春を楽しんでほしいな」
……そうか。そうだよな。
「ありがとう、忍さん。俺がんばるよ」
「うん、がんばれ!」
これは俺の人生だ。そして忍さんには忍さんの人生がある。それなのに何かある度に守ろうとするのは、俺の身勝手というもの。刺されるなんて物騒な話がある以上今回は例外だが、俺は俺の人生をしよう。
大樹に勝つ。負け続け、劣等感に苛まれた自分を変えなければ、青春は訪れない。俺の無駄になった10年をやり直すためにも。大樹に勝たなければならないんだ。
「いいのかよ。1年の順番にお前が割り込んできて」
「クラス対抗リレーに学年の順番はないよ」
俺が大樹と戦う舞台。それがクラス対抗リレーだ。1年から3年までの同じクラスの男女上位3人計18人が1チームとなり、他のクラスと競うこの勝負。2年B組の俺と1年A組の大樹が戦う舞台はここしかない。基本的に1年2年3年と続いていくが、俺は1年のアンカーの立ち位置を譲ってもらった。
元の歴史でも俺はギリギリ上位3位に入っていた。だが大樹は1位。1つ年齢が離れているとはいえ、走力ではおそらく負けている。だが今日にいたるまで、俺はトレーニングを重ねてきた。学校帰りに走り、バイト終わりに走り、朝早く起きて走り。走り方の技術も学んだし、正しい努力は重ねてきた。
負ける道理はない。俺が負けるはずがないんだ。ちゃんと世界が、平等にできているのなら。
「光輝くんファイトー!」
「せんぱーい! 優勝したらごはんおごったげますよー!」
応援席で、チアリーディング部でもないのにチアの格好をした忍さんと光が声を上げる。2人とも俺とは別のチームのはずなんだけどな……。そこから少し離れて、若林さんもチアの格好をしているのが確認できた。10年前はこれが流行っていたのだろうか。
「大樹くん! がんばってー!」
そして俺と同じクラスの咲が。大樹の応援をしている。俺でもなく、大樹を。
「……死んでも勝つ」
「やってみろよ、クソザコが」
クラス対抗リレーが始まり、俺と大樹にバトンが渡ってきたのはほとんど同時。2人同時に駆け出し、同時にバトンを受け取り、走る。そして気づく。
「っし……!」
俺の方が、大樹よりも速いことに。