第2章 第6話 嫉妬
「若林優さん、いる?」
翌日の昼休み。さっそく俺は忍さんの教室に行きそう訊ねる。
「いるけど……なんで?」
「いやちょっと……話したくて」
「ふーん……」
不服そうにしながらも、忍さんが指を差す。見ると確かに見覚えのある女子がいた。そして何となくわかった。彼女が殺人をしようとした理由が。
確かに大人忍さんが言うように地味な子だ。あまり印象には残らない容姿をしている。だがそれは外見や外での話。この教室にいる彼女は、決して地味な存在ではなかった。
「姫……か……」
彼女を中心にするように囲む男子4人。言い方は悪いが見た目で努力している様子は見受けられない。そんな奴らに囲まれて、若林さんは笑顔を浮かべていた。
昨日忍さんが語った話では俺が刺されたという事実の方に面食らったが、冷静に考えると忍さんを庇ったと言っていた。無差別ならわかるが、問題なのは忍さんを狙った犯行だった場合。そしておそらく後者が正解だろう。
忍さんは正直言ってかわいい。そしてふわふわしててぽわぽわしてて、偏見強めだがモテない男にモテる感じ。同じ土俵に立っているとは思えないが、おそらく若林さんが目指しているのは忍さんの立ち位置だろう。
そして対抗意識があることも伺える。若林さんが相手にされなかった合コンが発生したことで事件が起きた。そして合コンでは俺と大樹が忍さんを取り合う形になった。それを皮切りに徐々に怒りを溜め、事件が起きたのではないだろうか。
まぁ全ては憶測。実際に話してみなければわからない。女心を弄ぶようで悪いが、殺人犯を生まないためにもちょっとやらせてもらおう。
「優さん、ですよね?」
「うん……そうだけど?」
「昨日合コンで会った五十嵐光輝です。気になったのでお話させてもらおうかと」
合コン、という単語が出た途端、男たちの視線が一気に俺に集まった。だが肝心の若林さんはどこか喜んでいるように見える。俺が昨日忍さんと一緒に帰ったが、それでも自分を選んだと思っているのだろうか。
「どうしたのかな? 君は柴山さんが気になってたみたいだけど」
そしてその予想は100当たっていた。遠くの忍さんを見ながらわかりやすいほど大声で煽っている。嫌だなぁ、こういう人。
「もしかして柴山さんやな感じだった? わかる、ちょっと性格悪いよね」
お前がなと言いたいところだが、社会人経験者としてはここで文句を言うことはできない。ここでこの人の怒りを買った場合、また未来が変わって今度こそ本当に忍さんが殺されてしまうかもしれないからだ。
「ちょっとゆーちゃん合コンってどういうこと!?」
「君も先輩の教室でこういうのよくないんじゃないの?」
怒りを我慢していると、ようやく若林さんを囲む会の面々が文句を言い出した。普段大樹や高圧的な上司に面倒な客を相手にしているからこの程度はどうでもいいけど。
「忍ちゃーん、こんちわー」
だがここでどうでもよくない事情が起きた。大樹がパン片手に忍さんのもとにやって来たのだ。俺が思っていたより忍さんが気に入ったらしい。ストーカーかよあいつ……!
「おい大樹!」
「あ? なんでここにいんだよ兄貴。ストーカーか?」
「お前がな!」
さてどうするか……。ここで忍さんを助けに行ったら若林さんは間違いなく忍さんへの怒りを募らせる。だが助けに行かなかったら忍さんが……。俺の予想だし全部間違っていると切り捨てて忍さんの所に行った方が……でもこういう決断だいたい間違えるのが俺なんだよな……。ああクソどうする……!
「誰かと思えば五十嵐大樹の兄ちゃんか」
だが助けに行くことは物理的に不可能になった。俺の素性を知った男の一人が胸ぐらを掴んできたからだ。
「知ってるよ。イケメン弟の影に隠れてる無能の兄。弟に彼女奪われたんだっけ? だからってすぐにゆーちゃんに切り替えるのは失礼なんじゃないの?」
急な変わりように少しイラついたが、所詮は高3のイキリ。大人の余裕で受け流そう。
「あの……胸ぐらを掴むのも暴行罪なんですよ、先輩」
「黙れぇ負け犬ぅ! ゆーちゃんに手を出そうとしたこと後悔させてやる!」
うわ、拳握ってる。まさか殴る気か? 俺が大樹に劣る負け犬なのは現状事実だからいいが、でもなぁ……。何を勘違いしているのやら。
「あんたに負けたわけじゃないんだよ」
俺の腹に振り抜かれた拳を掴み、指摘する。あくまでも正当防衛で、大人の余裕を持って。
争いは同じレベルでしか発生しない。こんな低レベルな奴と戦っても意味がない。俺が狙うのはただ一つ。完璧な下克上のみだ。
反撃編開幕です! そして長くなったのでまた前後編に分けさせていただきます! かなりポイント落ちて傷心なので、応援していただける方はぜひぜひ☆☆☆☆☆を押して評価とブックマークのご協力をよろしくお願いいたします!