第2章 第4話 タイムパラドクス
「好き好き光輝くん好き大好き! 16歳の光輝くんもかわい~! あぁ^~ショタコンになっちゃうぅ^~」
「……なんだこれ」
大人忍さんの家に連れ込まれた俺は、さすがに頭がおかしくなりそうだった。なぜか俺の彼女だと名乗った忍さん。容姿も少し変わっており、俺が以前会った彼女よりもだいぶ髪が長い。高校生の頃とほとんど同じ長さなんじゃないだろうか。気のせいかはわからないが疲れ切った感覚はないし、雰囲気は若々しい。言い方は悪いが、子どもっぽくなっている。
だが容姿の変化がどうでもいいと思うくらい、態度が違う。ソファに座る俺の膝の上に乗り、正面から抱きしめてちゅっちゅしてくる忍さん。これが10年前のほわほわした忍さんとも、10年後のちょっと疲れた現実的な忍さんとも同じ人間だとは思えない。というよりこれが現実的だとは思えない。
でも……目を逸らせば俺とのツーショットが映った写真の数々。10年後俺が持っていたカップもある。そして彼女の左手薬指に嵌められたルビーの指輪。俺が咲のために買ったエメラルドの指輪とデザインが似ている。俺が選んだとしたら……2人が付き合った記念日の誕生石にしたいから7月に付き合ったのだろうか……。駄目だ考えてもわからなすぎる!
「エージェント!」
「フィーーーーーーーーバーーーーーーーー!」
忍さんを振りほどき、湯船に斧を投げ捨てる。えーと確かこうだっけか……?
「あなたが落としたのは金の斧ですか? それとも銀の斧ですか? あなたが落としたのは金の斧ですか? それとも銀の斧ですか? あなたが落としたのは金の斧ですか? それとも銀の斧ですか?」
「エージェント、テストモード」
記憶を頼りにエージェントを自由に話させるモードにし、訊ねる。
「これ! 何が起こってんの!?」
「過去が変われば未来は変わる。当然の結果です」
「いや俺忍さんに惚れられるようなことしてないんだけど……」
「バタフライエフェクトという言葉をご存知でしょうか。あるいは風が吹けば桶屋が儲かる。何も関係なさそうな小さな出来事でも、回り回って大きな変化をもたらす。つまりはそういうことです」
つまり……直近で起きた出来事。合コンしたり、喫茶店に行ったことで回り回って忍さんと付き合う未来に変わったということか。でもそうなると……。
「俺がタイムリープすることなくないか?」
俺がタイムリープを行うことになったのは、咲に振られて婚約指輪を海に投げ捨てたから。それが起こりえない未来では……ええと確か……。
「タイムパラドクスが起こるんじゃないか?」
「その点については私が命令に基づき適宜修正しています。今はたまたまお風呂に入ったら私が出てきた、ということになっています。元の事象を知っているのは私とあなただけ。あ、光輝様と私だけの秘密、ですね……♪」
「黙ってろアンドロイド」
まぁ何にせよこれで事情はわかった。伝えなくてはならないことも。
「ぅへへ……。光輝くんのかわいいかわいい彼女が一緒にお風呂入りにきたよ~!」
「ごめん。俺に忍さんと付き合ってたっていう記憶はない」
目を逸らしておいてよかった。忍さんの足もとにタオルが落下したから。
長くなったので前後編で分割致します! もっと詳しい事情は後編で説明しますのでお待ちください!