第2章 第3話 復活と新規
「や~初めて会ったけど中々強烈だね~弟くん」
ファミレスでの合コンが終わった後、近くの喫茶店でデザートとドリンクだけ頼み、忍さんとの二次会が開催された。翠にも声をかけたがだるいと断られてしまった。光やパーさんはまだバイト中のはずだし2人きり。
「ごめん、大樹が忍さんを狙う可能性に気づけなかった」
「最近空回ってたもんね~。1週間しか付き合ってないのにそんなに入れ込んでたんだ~」
本当に1週間だとしたら、こんなもんかと割り切れていたのかもしれない。だが実際は10年間。振られて即過去に戻ったあの日の夜と違い完全に別れた今、自分でも気づかない内に相当なダメージを負っていたようだ。もし過去に戻っていなかったら仕事で死ぬほどミスしてそうでゾッとする。
「で~? 私と二人っきりになりたかった光輝くんは何をしてくれるのかな~?」
クリームが大量に乗ったドリンクを飲みながら忍さんがいたずらっぽく笑う。大樹から忍さんを引き剥がすための強硬策だということは忍さんもわかっているはずなのに。
「とりあえずここの金は俺が出すよ」
「そんだけ~?」
「……そんだけだよ」
「なんだ~ざんね~ん」
俺の様子を楽しんでいる忍さんがくつくつと笑う。忍さんはただ後輩と遊んでいるだけのつもりだろう。だが俺は違う。俺の耳には、もう一人の忍さんの言葉がこびりついていた。
『この時代の私は。押せば、落ちると思うよ』。その言葉を本気にしたわけではない。忍さんと付き合いたくないわけでもない。でも俺は、忍さんを異性として意識したことがない。
まぁ押せばの話だ押せばの話。それに10年前の感情を大人忍さんが覚えているはずもない。あれはただの冗談。ということにしていこう。
「よぉ」
俺もドリンクを飲んでいると、どういうわけか。コーヒーだけ買った大樹が正面にいる忍さんの隣に座ってきた。
「ストーカーかよ……」
「ちげぇよ。たまたま入った店にお前らがいただけだ」
さっきまでとは違い、何も心が波立たない。合コンでのやり取りで大樹に勝たなくてはならないという焦りが消えたからだろうか。
「とりあえず連絡先交換しようぜ。それとも兄貴と付き合ってんの?」
「忍さんとは付き合ってないよ。だから俺を一々引き合いに出してくんなめんどくさい。やりたいなら勝手にやってろ」
合コンで俺にあしらわれたからか大樹が突っかかってきたが、今なら冷静に流せる。
「え~。君光輝くんの彼女寝取ったんでしょ~? そんな人と仲良くなりたくないな~」
だって忍さんは、俺の友だちだから。
「だってさ。残念だったな。お前は咲をめいっぱい幸せにしてやれよ。俺ができなかった分もな」
ようやく思ってもいないことを口に出せるようになってきた。こうでなきゃやっていけないよな、大人は。
「違うんだって忍ちゃん。兄貴が彼女に構ってやらなかったから弟として相談に乗ってただけ。振られたのは兄貴が駄目人間だからだろ」
「まぁそれならそれでいいけどさ」
断られて尚忍さんに執着する大樹に告げる。
「忍さんはバイト仲間なんだ。関係がこじれたら気まずくてバイトを辞めなきゃならない。知ってるか? お前の小遣い俺のバイト代から出てるんだよ。そのコーヒーも俺の金ってわけ。小遣い減らされたくなかったら俺の友だちに手出すな」
これこそが社会人パワー、単純な金の暴力。まぁ今はバイトだからたいした金はないが、それでも一応働いてるんだ。遊びたい盛りの大樹には効果的。
「……チッ」
少し考えた大樹だったが、結局お小遣い欲しさに今度こそ本当に帰っていった。
「……なんかいつもの光輝くんに戻ったんじゃない? 戻ったっていうか……ちょっと大人びた感じ~?」
「ちょっとじゃないよ。10年分だ」
俺の発言の意味がわからなかった忍さんが首を傾げ、小さく言う。
「でも……友だちか~……」
「なんて?」
「ん~ん。なんでもな~い」
笑ってごまかした忍さんとだべること1時間。時間も8時を回り、そのまま解散となった。
「ばいば~い」
「はーい」
忍さんと別れ、家路を辿る。その時だった。
「やっほ~」
目の前から忍さんが現れた。とは言ってもさっきまで会っていた忍さんではない。10年後の忍さんが。
「会いに来ちゃった~。えいっ」
「!?」
そしてその忍さんは。なぜか俺に抱きつき、今まで見たことのないような笑みを浮かべる。
「な……なんでいきなり抱きついて……」
わけがわからず確認する。その答えは、こうだった。
「だって私、光輝くんの彼女だも~ん」
過去が変われば未来は変わる。俺の新たな人生が始まった。
今日はこれで更新終わりです! もうこれ以上ブクマが減ってもジタバタしません。自分の力不足です。残念だと思わせてしまって申し訳ございません。
説明をしなかったのでわからなかったと思いますので補足。光輝くんは咲ちゃんに振られてめちゃくちゃ傷ついていました。そして空回っていました。どうにかして勝ってやろうと。その結果が前の2話です。違和感を感じて当然のお話でした。ようやく落ち着きを取り戻したので、第1章前半のようなメンタルに戻ったと思います。ここからが本格的な第2章開始です。みなさまに楽しんでいただけるようがんばりますので、応援していただける方は☆☆☆☆☆を押して評価とブックマークしていってください! ブクマめちゃくちゃ減って引くほどへこんでいるので、励ましていただけるとうれしいです。