バレンタインデーの三日前に女の子達に超美味しい手作りチョコをプレゼントした
「ふ……ふふ……ふふふ……ふはははは!」
長かった。
ここまで到達するのは本当に長かった。
「やったぞ!ついに完成した!」
長きに渡る試行錯誤の末、俺はついに目的のブツを完成させた。
思えば苦難の連続だった。
全くの未経験かつ苦手な作業であったが故、いくつもの素材を廃棄する羽目になった。
イメージ通りの完成形に全く近づかず諦めかけた時もあった。
暴走して無茶をして吐いてしまったことすらある。
それでも必死に考え、調べ、チャレンジし、後戻りを繰り返しながらも少しずつ前に進んだ。
その苦労の結晶が、目の前に鎮座している。
「どうにか一年で完成して良かった。まさかこんなにかかるとは……」
もし間に合わなければ次の一年もまた修行に明け暮れることになってしまうだろう。
だからだろうか、達成感よりも安堵の気持ちの方が大きかった。
「これであいつらの真意を明らかにしてやる!」
綺麗にラッピングされたそれを大事に仕舞い、彼女達の反応を想像してウキウキしながらその日を終えた。
――――――――
決行のタイミングは昼休み。
彼女達がお昼ご飯を食べ終えて談笑モードに切り替わった時を狙い、俺は例のブツが入った紙袋を手に取った。
「う~す」
「うぃ~っす」
「小田っち、どうしたの」
「なんか用?」
三人のクラスメイト。
だるそうに返事をしたのが水橋 七菜香。
俺の名前を気安く呼んだのが日向 美歩。
冷たい感じで対応したのが遠藤 桜。
いずれも中学から知り合いの女子だ。
「これみんなにプレゼントしようと思ってさ」
「マジ!?」
「小田っちが何かくれるなんてめっずらし~」
「殊勝な心掛け」
よしよし、興味をひけたぞ。
ここで要らないなんて断られたらその時点で作戦失敗だからな。
そんなことになったら即早退して一週間くらい引きこもって泣いただろう。
それじゃあ早速だが、驚いてもらおうか。
「はい、これ」
「!?」
「!?」
「!?」
ふはははは、目を見開いておるわ。
当然だろう。
何故ならラッピングしてあるからだ。
それも単なるラッピングではない。
「すご、これどうやって作ったんだ?」
「ちょ~かわいい!撮ろ撮ろ」
「素敵」
三人はスマホで俺からのプレゼントを撮りまくる。
きっとそれをSNSにアップロードするに違いない。
それだけ映える物に作り上げた自信があるからな。
「なぁなぁ、これ何処で作って貰ったんだ?」
元気になった水橋が聞いて来たので、大したこと無いよ風を装ってさらっと答えた。
「自分でやったんだよ」
「マジ!?」
「小田っち嘘は良くないよ」
「出来るわけない」
まぁ疑われるだろうな。
プレゼントのリボンでキャラクターを作るなんてどこかの店でやってもらったと思うのが自然だろう。
「嘘じゃないさ。簡単なのなら今すぐ作れるぜ」
俺はそう言われるのが分かっていたので、余っていたリボンを持ってきていた。
そしてさっと小さなゆるきゃらを作り上げた。
「すげええええ!」
「そんな特技あったの!?」
「『しゅーまいちゃん』だ」
特技があったわけではない。
練習したんだ。
猛特訓したんだよ。
三人が好きなキャラクターを事前にさりげなく聞き出して、四苦八苦して作り上げたんだ。
俺は針に糸を通すことすら出来ない程に不器用だったから、滅茶苦茶大変だったんだからな!
映えるレベルの完成度になるまでに半年以上はかかったよ……
いかん、すでに驚かせたことで満足して泣きそうだ。
本題はまだなのに。
「喜んでもらえたようで良かったぜ。貰ってくれるだろ」
「え、ああ」
「小田っちがどうしてもって言うなら」
「貰ってあげても良い」
こいつら……
あれほど熱狂して写真撮ってたくせに上から目線の態度を取るのね。
「でも小田っち、これ勿体なくて開けられないよ。中身は何なの?」
日向の意見も想定内だ。
絶対にそう言って可愛い子ぶると思ってたぜ。
俺は知ってるんだからな。
お前らが映える映えると熱狂して写真に撮った食べ物を食べもせずに捨てていることをな。
俺が作ったものをそんな悲しい事には絶対にさせない。
「そうだと思って中身と同じものを一個だけ用意したんだ。今はそれを食べてみて、これらは持って帰って後で好きなタイミングで開けてくれ」
俺は試食用に持って来たものを取り出した。
「チョコレート!?」
「チョコレート!?」
「チョコレート!?」
驚くのも当然だろう。
今日は二月十一日。
バレンタインデーの三日前なのだから。
「水橋さんは黒トリュフ、日向さんは白トリュフ、遠藤さんはショコラケーキね」
中身は三人とも別のものだ。
水橋はナッツ入りのものが大好き。
日向はホワイトチョコが大好き。
遠藤はノーマルのチョコは苦手だけれどケーキにすると大好き。
リサーチに基づいた彼女達が最も好きなチョコレートを用意した。
「ささ、食べて食べて」
俺が狙ったのはラッピングで度肝を抜くだけではない。
「なっ!」
「うまっ!」
「……!」
味だって拘り抜いたんだ。
甘さや食感などあらゆる面で彼女達の嗜好にマッチしたチョコレート。
当然俺の手作りだ。
これを生み出すために俺はあらゆる娯楽を捨ててチョコレート作りに打ち込んだ。
友達と遊ぶのもゲームもするのも控えて毎日毎日研究三昧。
成績だって結構落ちてしまった。
だがそのかいあって、目の前の女性陣は至福の世界にトリップしている。
そうだ、俺はまずはその顔が見たかったんだ。
この世のものとは思えない快楽に狂わせたかったんだ。
「どうかな。俺の手作りチョコの味は」
あくまでも自然に。
試しに作ってみたけどどうかな、くらいのニュアンスで聞いてみる。
必死に冷静さを装っているが、全力で歯を食いしばらなければにやけてしまいそうで危ない。
やったぞ!俺はやってやったぞ!
と叫びながら校内を走り回りたいくらいの満足感が得られている。
「手作りだって!?」
「小田っちチョコ作れたの!?」
「驚愕」
現実に戻って来た彼女達を見ながら思った。
これで準備が整った、と。
ああそうだ、最後に一つだけ言っておかなければならないことがあったか。
「そうそう、これバレンタインとは関係ないから遠慮なく貰ってくれよな」
これはそこいらの高級チョコレートなんかとは比べ物にならない。
だって彼女達の嗜好を満たすためだけに作られた一品なのだから。
そしてその味を知ってしまったがゆえに、彼女達は受け取らないという選択肢を取れないだろう。
相手の事を考え抜いた、極上のおいしさの、手作りチョコレート。
それをバレンタインデーの直前に受け取ってしまった彼女達は、果たしてバレンタインデー当日にどうするのかな。
ああ、楽しみだ。
――――――――
俺の行為はバレンタインデーに向けて準備をする彼女達への嫌がらせのように思えるだろうか。
プレゼントするならこのレベルのものを寄こせ、みたいに上から目線で見下しているように思えるだろうか。
否定はしない。
でもこれには理由があるんだ。
彼女達は毎年俺にバレンタインのチョコをくれる。
それが明らかに義理チョコだと分かるなら特に気にはならなかった。
でもそうではなかった。
水橋は沢山のチョコレート。
日向は高級チョコレート。
遠藤は手作りチョコレート。
いずれも義理とは考え辛い特別な物だった。
だからといって告白がセットということもなかった。
ゆえに俺は毎年悩んでしまったんだ。
彼女達のことをどう考えれば良いのかと。
ホワイトデーまでの一か月間は俺にとって地獄の日々だった。
何を返せば良いのだろうか。
彼女達は俺のことをどう思っているのだろうか。
自分からアクションをしなければならないのだろうか。
誰かを選ばなければならないのだろうか。
彼女達は何故チョコレートをくれた後も平然としているのだろうか。
考えることが山ほどあって、しかも恋愛に関するセンシティブな話なので悩みに悩んでしまう。
そしてホワイトデーが近づくと彼女達は俺にこう言うんだ。
『お返しに悩んでいるならコレが欲しいな』
最初は自分から欲しい物を言ってくれるのは助かると思った。
次にお返しの品が高すぎると思った。
でも三倍返しが基本と聞いたことがあるから自然なのかもしれないとも思った。
ホワイトデーに俺がそれをプレゼントすると、彼女達は大喜びしてくれる。
でもいつも話はそれで終わってしまったんだ。
結局あの特別なチョコレートは何だったのだろうか。
俺だけがそんなもやもやを抱えて。
そしてそれが毎年続いている。
毎年二月から三月の間に悩み、ノイローゼに近い状態になっていた。
俺は馬鹿だったのだろう。
彼女達が俺に高い物を買って貰うために特別なチョコレートを用意した可能性に気付かなかったのだから。
ある人はそんな俺の事を優しいからだと言ってくれたが、馬鹿なだけだ。
だって俺はまだ彼女達のことを信じたいと思ってしまっているのだから。
だから俺は全てを明らかにするために極上のチョコレートをプレゼントした。
彼女達の反応を見て、彼女達の本心を確認するために。
――――――――
「小田っち……その、コレあげる」
「……私からも」
バレンタインデー当日、チョコレートをプレゼントしに来たのは日向と遠藤の二人だった。
水橋の方をチラリと見たら目を逸らした。
どうやら諦めたようだ。
他の二人は例年とは違って気まずそうな雰囲気で俺にチョコレートを差し出して来た。
「日向さん、遠藤さん、サンキュな」
ひとまずお礼を言ってから調査開始だ。
まずは日向。
実は水橋と日向は限りなく黒に近いと思っていた。
冷静になって彼女達を観察すると、俺に高い物を買わせたいような会話を堂々としていたからだ。
疑いを確証に変えるために、そして彼女達との歪な関係を終わらせるために俺はある質問をした。
「日向さんのはいつも通り高級チョコレートだな。美味しいから嬉しいぜ。でもお返しは今までより少ない金額ので良いよな」
「え?」
あ~あ、そこで驚いちゃうのか。
残念だ。
とても残念だ。
「な、なんで。高級チョコっしょ。いつも通りこれに見合うのをちょーだいよ」
しかも欲しいって直接的なことを言っちゃった。
ここまで言われたらもうダメだ。
「だって俺にとってはそんなに価値が無いから」
「……」
「日向さんも気付いているだろ」
「……」
プレゼントの価値は贈った方では無くて贈られた相手が判断するものだ。
確かにこれは高級チョコレートでそれなりの金額のものかもしれない。
でも俺が三日前にプレゼントしたものと比べたらどうだろうか。
味に関しては自分で作ったものの方が美味しいからコレに大きな価値を感じない。
プレゼントにこめられた『想い』も、ただ高級なだけでは今はもう何も感じられない。
俺が日向のために作ったチョコレートとは違い、コレからは俺の事を考え抜いて選んだという『想い』が見えないからだ。
この『価値が無い』という言葉を納得させるためにも俺はチョコレート作りを頑張ったんだ。
「やっぱりこれは返すわ。俺はもう日向さんにプレゼントを贈りたくないから」
「そんな!困る!」
「なんで?」
「だってSNSで……あ」
マジかよ。
そこまでだったのか。
俺はそこまで酷い扱いを受けていたのか。
SNSで見栄を張るために利用されていたのかよ!
まさか、アレだけはないよな。
「なぁ、俺が今までプレゼントしたのってどうしてる?」
「……」
信じたくなかった。
日向はチャラい奴だけれど、そんなことをするような奴じゃないって思ってた。
貰ったプレゼントを用済みになったら金に換えるような奴じゃないって信じたかった!
くそ。
くそくそくそ。
俺はこんな奴のためにこれまで悩み続けてたのかよ。
こんな奴を喜ばせることを考えてチョコレート作りの練習をしてきたのかよ。
なんて無様なんだ。
なんて愚かだったんだ。
あまりにも呆れ果てて怒りも涙も出てこないよ。
「今まで毎年チョコをくれてサンキュな。本当に嬉しかったんだぜ」
夜も眠れないくらいに悩んでしまうくらいには。
そしてうつ病になりかけてしまうくらいには。
「さよなら」
「っ!」
これで俺と日向の関係は終わりだろう。
日向はプレゼントだったものを手に、逃げるように俺の傍から去っていった。
日向は愚かにも教室で俺にチョコを渡そうとした。
それゆえ日向の企みはクラス中に知られることになった。
これから苦労するかもしれないが、自業自得だな。
「次は遠藤さんだな」
「私はいつもみたいな高いお返しはいらないから!」
日向との話を聞いていたからか、遠藤はすぐに反応した。
遠藤については本当に良く分からなかった。
普段は冷たい態度であしらってくるのに、バレンタインでは手作りチョコをプレゼントしてくれる。
女子の手作りチョコなんて、高級チョコレートなんかよりも遥かに貴重なものだ。
それに遠藤からは日向達のように俺のプレゼントを狙っているような発言を聞いたことが無い。
だから俺の事を想ってくれている可能性も無くは無いと思っていた。
一体遠藤は何を考えて俺にチョコレートをくれたのか。
その答えが明らかになろうとしていた。
「小田君に貢がせるようなことをしてごめんなさい」
遠藤からは普段の冷淡な雰囲気が消え、大人しくなり俺に謝った。
俺からのプレゼントが狙いだったのだと正直に告白したのだ。
「小田君からプレゼントを貰えるのが嬉しくて、つい調子に乗ってねだってしまったの。本当にごめんなさい」
だけれども遠藤が日向と違うのは『俺から』プレゼントを貰えるという点だろう。
日向の場合は貢いでくれるなら誰が相手でも良かったはずだ。
遠藤の言葉からはプレゼントの相手が俺であることが重要だというニュアンスがこめられていた。
ということは遠藤はもしかして。
「わ、わたし、小田君の事が好きだから」
そうだったのか。
遠藤は俺の事を好きだったのか。
素直に嬉しい。
だって女子から告白されたんだぜ。
遠藤は結構美人だし、付き合ったら友達から羨ましがられるだろう。
それだけに残念だ。
「遠藤さんサンキュな。気持ちはとても嬉しい」
俺の返事に遠藤の沈んでいた表情が回復した。
だが申し訳ないけれど、俺は再び遠藤を悲しませることになる。
「でもわりぃな。俺は遠藤さんの気持ちを受け取れねぇ」
その言葉と共に貰った手作りチョコを遠藤の手元に押し返した。
遠藤は途端に絶望的な表情に変わってしまう。
「なんで!私謝るから、もう冷たくしないから、見捨てないで!」
はぁ……女の涙ってずるいよな。
完全に俺が悪者に感じるもん。
まぁだからといって翻すわけにはいかないけどな。
「遠藤さん、最初にこう言ったよな。『いつもみたいな高いお返しはいらない』って」
「う、うん。当然だよ!」
「当然……ね」
遠藤が最初からそうだったのか俺には分からない。
もしかしたら俺がプレゼントを返し続けたからそうなってしまったのかもしれない。
だとすると俺にも責任があるのかもしれないな。
少し心が痛い。
だがここはきっぱりと言おう。
「プレゼントを貰うことが当然なんだな」
「え?」
いつもみたいな高いお返しはいらない。
つまり裏を返せばどんなものであれお返しは欲しいという事だ。
もし遠藤が俺からのお返しを全く気にせずに『想い』だけを伝えてくれたならば、俺は大いに悩むことになっただろう。
だが結局、遠藤も日向と考え方は違えどお返しが欲しいんだ。
だから俺は遠藤の想いを受け取れない。
「そ、そんなこと……」
「じゃあお返しプレゼントしなくても良い?」
「……………………うん」
「即答出来ないんだな」
「…………」
俺だって心が狭い人間じゃない。
女の子が喜ぶならいくらだってプレゼントしたいと思う。
だが遠藤はダメだ。
何故なら遠藤はプレゼントを貰う喜びにハマってしまっている。
「もし俺が遠藤さんと付き合ったらどれだけのものを求められるのかな」
「…………」
「あれが欲しい、これが欲しい。ダメ?それならアレをやるから買って欲しいな」
「…………」
「俺はそんな関係は嫌だ。破滅する未来しか見えないからな」
与えなければ発狂して喚き出すかもしれない。
あるいは理想のプレゼントを貰える他の男性に簡単に鞍替えするかもしれない。
俺は弱い人間だから遠藤がそうなるのが嫌で借金してまでプレゼントを続けて破産するかもしれない。
だから俺は遠藤を受け入れるわけには行かないんだ。
「ひぐっ……ひぐっ……」
遠藤は自分でもその未来が想像出来たのか、俺に反論すること無くただ嗚咽した。
そしてチョコレートを手に俺の元から去っていった。
女子を泣かせてしまって心が痛い。
この痛みはこれまで彼女達の事を疑わずにプレゼントを贈り続けてきた俺に対する罰なのだろう。
そんな風に凹んでいた俺の元に、一人の女子がやってきた。
「お疲れ様、しょーくん」
俺の名前、小田 翔也をそう呼ぶのは一人しか居ない。
「散々だったよ、仁美」
幼馴染の上島 仁美だ。
――――――――
バレンタインデーの放課後。
俺は仁美と一緒に帰宅していた。
「はい、しょーくん」
「サンキュ」
仁美から受け取ったのはバレンタインの手作りチョコレート。
あの三人と仁美からチョコレートを貰うのが毎年恒例のことだった。
今年からは仁美の分だけになるけれど。
「今年は元気だね」
「悩まなくて良くなったからな」
「でも少し凹んでる?」
「やっぱり分かるか」
「当然だよ。何年幼馴染やってると思ってるの」
遠藤を泣かせちゃったのがなぁ。
「気に病んじゃダメだよ。しょーくんは悪くないんだから」
「そう言われてもなぁ」
こういうのは理屈の問題じゃないから気持ちを切り替えるのが難しいんだよ。
「そもそも遠藤さん狙って泣いてたからね」
「え゛?」
マジで。
あれ演技だったのか!?
「だってみんなが見ている教室で泣けばしょーくんの方が悪者に見えちゃうでしょ。それでしょーくんが遠藤さんを振れないようにしてたの」
「…………マジか」
「マジマジ。大マジ。女子を甘く見ちゃダメだよ」
「女子怖すぎるわ!」
あの時はクラスメイトの反応を見る余裕が無かったのと、一年間もかけて準備したからそれを台無しにしたくないという思いが強かったから終始強気で対応出来たんだ。
もし中途半端な作戦だったら俺は遠藤の思い通りにおろおろして振れなかったかもしれない。
「だからしょーくんは凹む必要は何も無いの。悪いのはあの三人なんだから」
「仁美怒ってる?」
「あったり前でしょ。しょーくんに貢がせてるって分かってたから滅茶苦茶腹立ってたんだよ」
「お、おう、そうか」
普段温厚な仁美がここまで言うなんて珍しい。
というか、初めて見たかも。
「私がどれだけ注意しても止めようとしないしさ」
「え、仁美あいつらに何か言ったのか?」
「もちろんだよ。まったく効果無かったみたいだったけどね」
「知らなかったぜ……」
「そりゃあそうだよ。しょーくんに気付かれないように動いたもん」
「なんで?」
「だってしょーくんあの三人の事信じたがってたでしょ。それなのに『あいつらは悪い奴だ!』なんて言えなかったから」
確かに仁美にそんなこと言われたら窘めてた気がする。
俺って本当に馬鹿だったんだなぁ。
「まぁそこがしょーくんの良いところでもあるんだけどね」
「そこってどこが?」
「一年もかけて美味しいチョコレートを作って彼女達の本音を知ろうなんて回りくどい事をするちょっとお馬鹿なところとか」
「おいこら。馬鹿にすんなよな。しかも最初に言ってた『良いところ』と絶対違うだろ。というか回りくどかったのか?マジで?」
「あははは」
最初から仁美の事を信じて相談していればもっと早くに解決したのかもしれないな。
「ねぇしょーくん。私もしょーくんの手作りチョコが食べてみたいんだけど」
「もちろん用意してあるぜ」
「やった!」
仁美には純粋に味わってもらいたいから後で渡すつもりだった。
あいつらみたいに特に裏があるわけじゃないのは知ってたからな。
だってバレンタインデーに仁美からチョコを貰うのは幼いころからの恒例行事だったし。
「他にも希望があれば色々と作るぜ」
「ほんと!?」
「ああ、チョコ作りって結構面白くてさ」
それに折角上手になったんだから、もっと色々なものを作ってみたいしな。
チョコレート職人を目指すのも面白いかも、なんてな。
そういえばあいつら俺があげたチョコ全部食べたのかな。
ドハマりしてそうだったが、俺はもう作ってやらないぜ。
くっくっくっ、果たして普通のチョコで満足出来るかな。
「しょーくん楽しそう。今年はちゃんと聞いてもらえるかな?」
「何を?」
そういえば毎年バレンタインデーの後はあの三人への対応で頭がいっぱいで、仁美の事を考える余裕が無かったな。
仁美はいつも『お返しなんていらないよ』って言ってくれるし、お返しは毎年同じものを渡すのが恒例になっていたから楽だったんだよな。
「私がはじめて手作りチョコを渡した時の事、覚えてる?」
「はじめてって中一だったっけか」
それまでは市販のチョコだったのが、中一になって突然手作りチョコを準備してきて驚いたっけ。
でも理由を聞く間もなくあの三人が横からやってきて、チョコを押し付けて来たんだよな。
「あの時はごめんな。嬉しかったんだけどあいつらからも貰って驚いちゃってさ」
「あれは仕方ないよ。私もまさかしょーくんにチョコを渡す人が出て来るなんて思わなかったもん」
おいおい仁美さん。
それは俺が女子に好かれないような人だと思っているという事かね。
可愛く舌を出しても騙されませんよ。
「それからしょーくんは毎年あの人たちの事で悩んでたよね」
「あ~そうだったな」
だからバレンタインデーの想い出はほとんどあいつらのことで占められてるわ。
超ムカつくわ。
「だからずっと言い出せなかったことがあるの」
「そうなのか?」
「うん、本当は中一の時に言いたかったこと」
あの時に言いたかったこと?
なんだろうか。
「ねぇしょーくん。どうして私からのプレゼントが手作りチョコに変わったか分かる?」
「どうしてってそりゃあ」
そんなの普通に考えたら……
おい、マジか。
仁美は真っすぐこっちを見ている。
その顔は赤く染まっていた。
よろしければ評価していただけると嬉しいです。