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花散る音、空音の鈴  作者: 彩華
一章、入隊体験
1/8

手紙

彩華と言います。

「花護る鈴」の本編になります。

読まなくても大丈夫になっています。

気になり出したら読んでいただけると、よくわかるのではないかと思います。


よろしくお願いします。


 桜の花がやっと咲き出した日の昼過ぎ、一通の封書が、家に届いた。

 桜花大帝国の軍部、護花鈴ごかれいの入隊届けだった。

 やっと届いた手紙に喜びのあまり、叫んだ。


「おばあちゃん、来たよ、やっと通知がきた!」

「芽依、どうしたんだい」

「おばあちゃん、護花鈴隊から手紙がきたの」

「護花鈴…、芽依?」


 おばあちゃんは、何か言いたそうにしたが、それより幼なじみの結果が気になった。


「おばあちゃん、ごめん。千香と智紀がどうだったか聞いてくる」


 そう言って、2人が待っているはずの、高等学校の校門に走っていった。

 幼なじみの2人は既にきていた。


「芽依ちゃん、遅いよ」

「おっせぇぞ、芽依」

「ごめん」


 大友和香と松平智紀。ご近所さんで、いつも一緒の彼ら。()()()からずっと一緒で3人で護花鈴に入る事を夢みていた。


「「「どうだった?」」」


 一斉ので、手紙を見せ合う。


「よっしゃあ〜」

「やった〜。3人で行けるんだね」

「ようやく、夢が叶うよ」


 3人で手を取り合い喜び合った。


 手紙の中を取り出し、内容を確認する。

 そこには、明後日の10時までに受付を済ましておくこと。

 持ってくる物のリストが書かれていた。そして、時間指定の入った汽車の切符。


「はっ?」

「えっ?明後日の10時?」

「明日の11時発の汽車じゃない!」


 喜びを通り越しての戸惑い。

 てっきり早くて一週間後の話であり、ゆっくり家族と別れを惜しんで・・・なこともなく、準備をしないとヤバイ状況である事を認識する。


「マジ?親に言ってねぇ」

「私は大丈夫かなぁ・・・、芽依ちゃんは・・・?」

「怒られるよね、ははっ・・・」


 春風はまだ冷たい。残り雪はないはずなのにどことなく寒さを感じた。


 あたし、春風芽依は育ててくれたおばあちゃんに怒られるのを覚悟して家に帰った。両親は11年前、2人とも死んでしまった。唯一の肉親のおばあちゃんと2人でなんとか暮らしてきた。


「ただいま」


 玄関を開けて中に入る。いつもなら、すぐに「おかえり」の言葉があるのになかった。おそるおそる居間にはいると、おばあちゃんが姿勢を正した姿で座っていた。


「おばあちゃん・・・」

「芽依、おかえり。ここに座りなさい」


 怖い。笑顔もない。おばあちゃんは若い頃から美女(マドンナ)と言われた事があるだけあって、整った顔に表情が無いと冷たく怖い物があった。


「芽依、護花鈴隊にどうしても行くんだね」


 やはり言ってきた。言わなければならない、あたしの気持ちを。


「決めてたの。おばあちゃんが反対してもあたしは行く」

 おばあちゃんは、ため息をついた。

「そうかい・・・、なら反対はしないよ。ただ、生半可な気持ちじゃぁ、やってはいけないよ。特に、第1部隊にはね。その覚悟はあるんだね」

「おばあちゃん?」

「芽依が追ってるのは・・・第1部隊一班、瑠華」


 ゴクリと喉がなる。どうして知っているんだろう・・・。おばあちゃんに言った事はない。11年前に一度会って話したあの人の事を・・・。


「正直に言えば、あの人に関わって欲しくないさ。でも、どうにもならないんだろ。知りたいんだろ。わたしの口で言って納得するならいくらでもするさ。でも、無理ならどうしようもないじゃないかい」


 自分に言い聞かせる様な呟きだった。


「おばあちゃんは、何か知ってるの?」

「・・・」

「おばあちゃんっ?」

「言えない事もあるんだよ」


 絞り出す様な声。お父さんとお母さんが死んだ時以来聞いた事もない声。それ以上聞いてはいけない、そう感じさせた。

 おばあちゃんは何を知ってるの?どこまでわかってるの?


「さて、準備しないといけないんじゃないのかい?」

 声色がかわる。


 はっ、そうだった。


「大した物はいらないよ。足らなければ向こうで揃えればいいんだから。さあ、さっさと準備をしなさいな」


 準備物はあまりなかった。私服(上下セット)3着まで。下着一週間分。(各自洗濯すること、足らない物は購買購入可)洗面用具(化粧品は常識内)制服は2着支給(3着目からは購入)ノートやペン等も支給アリ 給金アリのため常識内の金銭持参 となっていた。


 特に買い物をしてまで揃えるもの無くてよかった物の、あまりの少なさにひょうし抜けした。

 荷物の用意ができた頃、夕飯もできていた。おばあちゃん1人に任せてしまった。いつもと変わらない、麦飯に焼き魚、千切り大根にお味噌。なぜか涙がでた。


「何泣いてんだい」

「だって・・・」

「メソメソして、今からホームシックかい?これからやっていけるのかい?」


 なんで、おばあちゃんは平気なのよ・・・。一人涙を流しながら完食した。



 次の日、駅には頬をはらした智紀と智紀のおじちゃんとおばちゃん、目を真っ赤にした千香と、泣きまくっている和香のお母さんがいた。

 智紀、おじちゃんに殴られたようだった。

 汽車に乗った私たちをみんな優しく見送ってくれた。そう、おばあちゃんを除いて。

 おばあちゃん!最後にとんでもないことを言った。


「そうそう、向こうに行ったら、年寄り連にはよろしくね。もし瑠華と話ができたら嫌がらせに顔を出しに行くとも伝えておいてちょうだい。あの人とは犬猿の仲だったから芽依、頑張りなさいよ」


 はあ〜!?汽車が出る直前のカミングアウトはないでしょう?昨日のあれはなんですか?言えない事とはなんですか?今ここでって、えっ?犬猿の仲?知り合いなの?おばあちゃん、あなたなに者ですか?


「おばあちゃあ〜ん?」


 わたしの叫び声は・・・汽車の汽笛に、消えました。










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