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え?こんなの聞いてないんですけど………… 短編

「ぐうっ……痛ぁ……」


 休日の朝早く、激しい腹の痛みに目が覚めた。

 何だこれ……昨日何が悪いもの食べたか……? いや、自分で材料選んで作ったんだ。そんな事は無いはずだ。本当に痛いな……涙が出てきた。

 起きたくないし何が原因か一切分からないが……一応トイレ行くか……ベッドの中で藻掻いていても治る気配が無さそうだ。


「……ゔぅ……待てよ、これはもしかして」


 あまりの痛みにゾンビのような声を出しつつ起き上がろうとしていると、この腹の痛みの原因を一つ、思い当たった。

 いやまさかな……いやでも今まで痛すぎて気づかなかったが、よくよく痛みの元を探ると腹の下の方、モロそこが痛い。


「いっ、つ……一応冬火に相談するか……」


 違う可能性に賭けて、未だ痛む所を手で抑えながら冬火の部屋に向かった。


 ――――――――――


「おい、冬火」

「すぅー……ん、すぅ……」

「起きろ」

「んふふ……すぅー」

「くっそ、痛い……」


 歩く度に振動で痛く、冬火の部屋までが途轍もなく長かった。

 ようやく部屋についたが、なかなか起きず幸せそうに寝る冬火にイライラする。


「おい冬火、冬火起きろ」

「……ん、んー? もう起きる時間ー?」

「違う。だけど一つ相談というか、確認したい事があんだよ」

「んー? なぁに?」

「めちゃくちゃ腹が痛い」

「トイレ行ったらいいじゃん」

「そんな事は分かってる。そうじゃなくて、ここら辺が痛いからもしかしてと思ったんだが」

「お腹の下の方……あっ、そういう事。ちょっと失礼……ここ?」

「痛い痛い痛い! ……何すんだよ」


 ようやく起きた冬火。

 上半身を起き上げ、寝ぼけたまま何言ってんだこの子と聞こえる目で見られたがそうじゃない。

 痛い所を手で抑えてアピールすると、ちゃんと伝わったみたいだ。そして、冬火は痛い所をあろうことか親指で強く押してきた。

 こいつ……もう少しで本気でキレていた。


「ごめんごめん。うーん、これは多分夏日の考えてる通りだと思う。取り合えずトイレ行こうか。ナプキンは私の使ったらいいよ」

「そんな事言われても使い方が分からなっ、ゔっ、くぅ……!」

「大丈夫!?」

「大丈夫に見えるかこれが……」


 原因がほぼ確定し、ちゃんと知覚したせいか痛みが更に強くなり反射的に蹲った。いっつ……あまりの痛みに涙がぽろぽろと目から溢れる。

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い――


「トイレ歩いて行けそう……?」

「無理……立ち上がるのも厳しい……」

「分かった。振動で痛いかもしれないけど我慢してね」


 そう言うと冬火は動けない俺を横向きで持ち上げ、トイレに連れて行った。


 ――――――――――


「うわぁ……想像してたより実際に体験するとグロいな……」

「夏日ー大丈夫ー?」

「未だに痛いし大丈夫じゃない。多少落ち着いたけど」


 冬火にトイレに運ばれ、便座にしばらくの間座っていると落ち着いてきた。今はさっき痛みでそれどころじゃなかったとは言え、冬火にお姫様抱っこをされた事に男としての尊敬が……と考えれるぐらいには痛みが和らいだ――気がする。

 それはそうと、だいぶグロい。定期的に出たり止まったりするのを見ると暫く軽くトラウマになりそうだ。


「パンツ汚れてない? 汚れてるなら早めに洗わないといけないからちょうだい」

「え、自分で洗う」

「痛み止め薬もまだ飲んでないから今動けないでしょ」

「いやでも……」

「先輩の言うことはちゃんと聞く!

 そのまま履くつもり? ナプキン使う時汚れたままのパンツは嫌でしょ。それに別に恥ずかしい事じゃないから」

「うぇ……」


 そんな事言われてもいくら妹でも自分の汚したパンツを渡すのは恥ずかしいし嫌だぁ……

 先輩って冬火はそうだけど……


「ほら、ドア開けて」

「うぅ…………えぇ……ひぃん……いやだぁ…………」

「なーつーひー?」

「………………はひ……どうぞ……」

「ん、洗ってくるね」

「もう……言わないで……」


 嫌で嫌で仕方がなかったが、こうなると冬火は相手が言う通りにするまで絶対に譲らない。

 トイレットペーパーで出来る限り拭きとり、たっぷり一分ほどかけて葛藤しながら下げていたパンツを脱ぎ、なるべく汚れた所が中心になるように丸め、開けたドアの隙間から伸びる冬火の手に渡した。

 あまりの羞恥に顔が真っ赤になるのを感じ、目からぽろぽろと涙が溢れる。

 ここ数十分間だけで何度泣けばいいんだ……


 ――――――――――

 午前九時


「「遊びにきたぞ(よ)ー」」

「いらっしゃい」

「おーい、夏日ぃーゲームしよう……ぜ? って冬火、夏日どうした?」

「あーそれ? 私にパンツ洗われたのが余程嫌だったみたい」

「? 何があったんだ?」


 俺が人生でダントツ一位の恥ずかしい思いをしてから数時間後。

 歩と明里ねえが遊びに来た。


 あの後、新しいパンツを持ってきた冬火にナプキンの付け方などを教えられた。

 股間の違和感が凄いが慣れるしかないらしい。今は痛み止めの薬を飲んだため我慢出来ないほどでは無くなったが、それでも痛いものは痛い。


 しかし、それよりも俺は冬火に汚れたパンツを洗わせたというショックから立ち直れず、タオルケットに(くる)まりソファーにうつ伏せになってクッションに顔を埋めている。

 直後でも痛みを超えそうなぐらい死ぬほど恥ずかしかったが、痛みが和らいだ分、ボディーブローのように効いてきて今日一日冬火の顔をまともに見れそうにない。


「歩……殺してくれ……」

「うぉっどうした」

「下腹部、痛い」

「……あーなるほどな。冬火の言ってた事も全部繋がった。そっか、お大事に」

「あぁ……」

「俺は姉ちゃんがいるから分かるというか、知ってるからなんかしてほしい事があったら言ってくれよな」

「おぅ……」


 明里ねえがいるから伝わるかもと思って言ったが、本当に伝わるとは思わなかった。

 歩の優しさが心にしみる……ダメだ今テンションも体もおかしいからすぐに泣きそうになる。体は女としてはおかしくないが。

 今度は明里ねえが近づいてきた。


「ん、なになに夏君おめでたい日? 今日は赤飯かな」

「毎月この痛みを経験しないといけないのか……」

「んー、そうだね。あと初めてはほんとに色々辛い。今でも覚えてるよ私」

「女の人って大変なんだな……初めて女になって後悔してる」

「まあまあ、そんな事言わないの。楽しい事も沢山あるよ」

「うん……あ、そうだ歩」

「んー? どうしたー?」

「腹撫でて」

「お、おう。分かった」


 こうなったらとことん人に甘えようと思う。ただ、冬火以外に限る。これ以上冬火に何かされたら本当に羞恥で死ねる。

 そんなこんなで歩に普段なら絶対に言わないお願いをした。


 そもそもなぜ腹を撫でてほしいかと言うと、今は薬が効いているが、飲んだ直後はそうはいかずソファーで痛みと格闘している時、俺を心配して来た春木に「痛いの痛いの飛んでいけー」と腹を撫でられた事から始まる。

 それが効くほど子供じゃない。と思っていたら、本当に少し痛くなくなった感じがしてその後も撫でて貰っていたのだが、歩たちが来る少し前に「ごめんどうしてもやらなきゃいけない用事があるから」と出かけて行ってしまったのだ。


 前ほどではないにしてもまだ痛いままだし、数日はこの痛みと戦わないといけないらしいから、今だけでも開放されたい。


「ん」

「ほいほい。これでいいか?」


 タオルケットに包まったまま仰向けになり、顔を見られたくないのでクッションを顔に載せた。

 タオルケットの上から優しく腹を撫でてくれる歩。

 文句を言わず従うのは明里ねえの教育の賜物か。


「そうそう……」

「そりゃあよかった」

「ん……」


 撫でられて落ち着いたせいか、眠たくなってきた。

 そして暫くすると、眠気に瞼が落ちていった。


 ――――――――――

 歩視点


「すぅー……ん、すぅー……」

「ん、寝た。今日はまた一段と寝るまでが早かったな」

「今日はいつもより起きたの早かったからね。しかも痛みに起こされたって感じでちゃんと寝れてないだろうし」


 タオルケットの上からお腹を撫でる事数十秒、静かになった夏日を冬火と二人で観察する。

 息苦しいだろうから顔からクッションを退けてみると、規則正しく寝息をたてる中、泣いていたのか目が少し腫れていた。


「ん、これ……」

「あーそれは多分痛いのと恥ずかしいのとで泣いた跡。というか、あの後から私の方を全然見てくれない」

「なるほどな。……そりゃあ妹にパンツ洗われるのは恥ずかしくて見たくなくなるだろ。俺なら一生引きずる」

「最初ちょろっと洗剤付けて揉んだ後、洗濯機突っ込んだだけから言うほど何かしたってわけじゃないんだけどなー

 早くしないと落ちなくなるから急いでたんたけど、強引過ぎたか……」

「そもそも人に自分のパンツ渡すのが嫌だったんだろうよ。女の人って大変なんだな」


 普段から姉ちゃんを見て思っていたが、夏日を見て更に思い知った。接し方に気をつけないといけないな。


「そうだよー。だから、こういう時だけでも労って上げてね。まあ、春木に言う必要は無いかもだけど」

「分かった」

「よーし、じゃあ夏日は今日明日と多分何も出来ないから買い物行こうかなー。冷蔵庫に何も無いんだよね。

 明里お姉ちゃん、車出せるー?」

「だいじょーぶい」

「じゃあ俺もついてくよ」

「だーめ。春木は夏日についてて。途中で起きるかも知れないから」

「分かった」

「よーし、じゃあ早速準備するかなー?」


 そうして冬火と姉ちゃんは買い物に出かけていった。

 結局、夏日は二人が帰ってきても起きることがなく、夕方の三時ぐらいに「腹減った」と起きるまではずっと寝ていた。

 その頃にはかなり落ち着いたというか、痛みに慣れたらしく普通に動けるようになっていて安心した。

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