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第6話 理想的じゃない告白

「んー。今日も楽しかった」

「そうだな」


 満足そうに笑顔で言う寛子。楽しんでもらえたようで何よりだ。


 さて、後は告白だ。まず間違いなく大丈夫みたいなことをあいつは言ってたけど、さて、どうなんだろうな。公園に誘うか、そのまま帰って別れる直前か、あるいは近くの川辺か。どこに誘うか少し迷う。


「ちょっと、帰る前に行きたいところがあるんだけど、いい?」


 そんな事を考えていたら、予想外の寛子からの言葉。


「あ、ああ。いいが」


 しまった。このパターンは考えてなかった。でもまあ、こいつの行きたいところにつきあった後で考えれば大丈夫か。そう思ったのだが。


「公園?」


 寛子についていくと見えてきたのは、人気の少ない夕方の公園。俺が告白する場所として想定していたのとは違う、子どもたちの遊び場であるような、そんな場所。


「ここ、懐かしいよね」


 確かに、ある意味懐かしいところではあるが、しかし。


「懐かしいっていえばそうなんだが。お前にとってはいい思い出じゃないんじゃ?」

「うん。運動音痴だから、皆の輪の中に入ることができなくて。どうして、私はこんなに駄目なんだろうっていっつも思ってた」


 そう。こいつの自信の無さの一つに、小学校の頃、運動音痴だったことがあった。遊びに混じりたいけど、ドッジボールだったら一方的に狙われ。鬼ごっこなら、鬼に真っ先に狙われ。その結果、輪の中に入る事ができずに遠くから見つめていたのがこいつだった。


 でも、そんな暗い思い出なのに、その時の事を話す寛子は懐かしそうで、そして、楽しそうだ。


「なんで楽しそうなんだ?いい思い出じゃないだろ」

「ううん。いい思い出だよ 」

「なんでだよ」

「だって、慎ちゃん、皆が帰った後、私と二人だけで遊んでくれたし」


 思わぬ言葉に心臓を撃ち抜かれたような気分になる。


「い、いや。そんな大したことじゃないだろ」


 実は、輪の中に入れず一人で俺たちを見つめていたこいつが、どうしようもなく気になってしまっただけなのだ。


「ううん。大したこと。私ね。なんで、こんなに慎ちゃんに惹かれるのかなって思ったんだけど、きっと、小さい頃に私の事だけ気にかけてくれたせいなんだと思う」

「ひ、惹かれたって……」


 その言葉が意味するものは一つしかない。身体が熱くなってくる。俺が格好良く告白するはずだったのに。


「うん。私は、慎ちゃんの事が大好き!これからは私だけを見てて欲しいの!」


 そんな、一生懸命で、想いの籠もった言葉を食らった俺はしばし呆然としていた。自分に自信がないと思っていたこいつが、こんな告白をしてくるなんて。


「……」

「やっぱり、駄目、かな?」


 俺の反応をどう勘違いしたのか不安そうな顔になっている寛子。そうじゃないんだが、予定を崩されたので呆然としているだけだ。


「あのさ、実は、今日、俺から告白するつもりだったんだよ」

「そ、そうだったんだ!ずっと言ってくれないから、今日もそうなのかなって……」


 目をまんまるにして驚いている。


「だから、どこで告白するかとか、どういう流れでとかあれこれシミュレーションして来たのに、全部吹っ飛んでしまったぞ」


 ほんと、どうしてくれよう。


「私だって、やる時はやるんだから」


 なんだかドヤ顔をされるのが悔しい。でもまあ、負けは負けか。


「じゃあ、俺も言うからな。お前のことが大好きだ!妙に自己評価低かったり、遠慮しがちだったり、その癖して妙に度胸があったり。そんなお前が大好きだ」


 思っていた事をそのまま吐き出したような告白。


「あ、ありがと。それじゃ、私達、これから恋人同士でいい、のかな?」


 自分で告白しておきながら、どこか信じきれていない様子の寛子。


「それは、こっちから言いたいんだが」


 やっぱり自信が持ちきれていないところがこいつだなと思う。


「そ、それじゃ、お願いします」


 何故か、ぺこりとお辞儀をされる。


「あ、ああ。こっちこそ」


 つられて、こちらもお辞儀をしてしまう。


「しっかし。なんで、お前から告白してきたんだ?」


 とても自分から告白してくるとは思えなかったんだが。


「それは、だって。もう5回もデートしてるのに、何も言ってくれないし」

「そ、それは悪かった。こう、確実に決めたかったっていうかさ」

「慎ちゃんは確実を期したかっただけなのかもだけど、私は不安だったんだよ?」

「それも悪かった」


 確実を期すといえば聞こえがいいが、少し独りよがりだったのかもしれない。


「それに、他の人に慎ちゃんをとられるかもだったし……」

「いやいや、それはないって」

「生物部にいる人で、慎ちゃん狙いぽい人いたし」

「ええ?まさか……」

「とにかく。ずっと告白待ちでも仕方ないから、私からすることにしたの!」

「いや、ほんと悪かった。許してくれ、頼む」


 ちょっとおどけて、拝むポーズをしてみる。


「恋人になるんだから、許すに決まってるよ」


 それに対して、笑顔で返すこいつ。


「あー、しかし。格好いい告白のプランがなー。一晩中考えてたのに」

「そこが、やっぱり慎ちゃんだね……。別にどんな告白されててもOKしてたよ?」

「頭ではわかるんだが、そこはどうしてもな」

「結果が良かったんだから、いいんじゃない?」

「いやいや。俺がどれだけ……」


 そんなくだらない事を、告白の後に延々と言い合う俺たち。理想の告白はならなかったが、確かに終わりよければ全て良しかもしれない。

というわけで、理想の告白を考えたい主人公と自信のない女の子の話でした。


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― 新着の感想 ―
[一言] シミュレーションとかしすぎちゃうのは理系の悪いところ? 友達の言うことは全部的を射ていたと。彼女持ちは強い。 ただ気になるのは世間一般、ここまで来たらこうしないと、て言うのがマニュアルとい…
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