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大予言者の予言。

 



 兵士が凍った扉を強引に蹴り飛ばす音でヤーナは思考を現実に戻します。



(見つかれば、あっさり殺されるでしょう……そうなれば、氷が溶けて皆元どおり……。後継はフェドートがいますし私が犠牲になるだけ……。時間稼ぎにはなったでしょう)



 ストラナーの兵士達を襲った緑がかった白い煙にヤーナはアナトリーを失った時以来の恐ろしさを感じました。毒ガス……大予言者を恐れるあまりに隣国のヴラーク国は時代に不釣り合いな化学兵器を生み出したのでした。それ故にヤーナも国全体を凍らし前代未聞の兵器から守ろうと自身の切り札を出しました。



「いたぞっ!」



 ヴラーク国の兵士が血走った目でヤーナを見ています。顔を覆うマスクはしてません。剣をヤーナを殺そうと振り上げます。



「師匠っ!?」



 ドカーーンッッ



 爆発音が青少年の声と共に響きます。ヤーナを襲おうとした兵士が風圧で壁に吹き飛びます。兵士は呻き声を上げて絶命しました。ヴラーク国の兵士を贄とし術を発動させた様です。フェドートがヤーナの元へ駆けてきました。ヤーナに怪我はないかと案じます。



「師匠っ。大丈夫ですか? 寒かったでしょう」



 気温を調整する術をフェドートが使った為辺りは暖かくなりました。身体が冷えていたヤーナは「ほっ」と息を吐きます。ヤーナは弟子に感謝しました。



「ありがとうございます。おかげで助かりました」



 フェドートは真剣な表情でした。



「何があったのですか? 皆凍って……切り札を使う何て余程の事ですよね?」



 ヤーナはフェドートに自身が使える術を全部教えてありました。



「それに……あのペンダントって術から僕を守る為に渡してたのですね。教えて下されば良かったのに……水臭いですよ」



 不貞腐れた子供の様に頬を膨らますフェドートにヤーナは思わず「くすっ」と笑います。フェドートは更に「むっ」と不貞腐れます。



「笑い事じゃないです。身体が一部欠損していたって事じゃないですか。ペンダントを万が一失くしていたらと思うと恐ろしいですよ。僕を信用してないからですか?」



 ヤーナは「悪かった」と笑いながら謝ります。無表情が多かったヤーナの屈託ない笑顔にフェドートは頬を染めて指で頬を掻きます。



「君は私の贈り物を大事にするだろう? だから、失くす心配はしなかった。もし、教えていたら返していただろう?」



「そりゃ……大事にするし、返しましたよ。当然でしょう? 師匠の一部ですよ? 痛いでしょう?」



「痛みは慣れるものです」



「そんなのは屁理屈です」



「……おしゃべりはここまでです。ここからは本題になります」


 ヤーナはフェドートにヴラーク国が戦争を仕掛けてきた事と謎の兵器の事、今後の方針を話しました。



 フェドートは頭を抱えます。



「人を殺す煙……何もこのまま逃げ続けないで、僕は死なないのでその兵器を破壊すれば良いのでは?」



 ヤーナがフェドートに提案したのは、ヴラーク国が凍り付いたストラナー国を見て、侵略しても無価値だと見限られるまで隠れ続けるというものでした。



「私達の存在はあまりにも目に余るものです。恐怖は凶器を生み出すと私は今回の件で学びました。攻撃すれば、また凶器が生み出されるでしょう」



 フェドートは「師匠のお言葉なら従います」と渋々頷きました。




 * * * * * * * * * * * * * * * * *




 隣国のスラーヴィ国に身を潜めて、5年という歳月が経ちました。



 フェドートは24歳、ヤーナは325歳で見た目年齢が30歳になりました。大予言者の治癒能力を失った為、ヤーナは歳を取ります。ヤーナはそれ以上に精神面で疲れ果てていました。疲労で輝かしい美貌がくすんでしまいます。



「ヴラーク国が諦めた今、私はもう生を閉じようと思います」



 師匠の発言にフェドートは焦りを覚えます。



「……師匠っ。師匠の寿命が来るまで、術を解かなくていいじゃないですかっ。皆何年経っても寿命は凍結されてるって教えてくれましたよねっ」



「違います。私が既に限界何です。良くここまで耐えれたと自分を褒めたいぐらいです。……フェドート。君が私の生を終わらせてくれませんか?」



 フェドートは涙を流します。



「……無理ですっ。いくら師匠の頼み事でも、無理なんですっ!」



 それを聴いたヤーナは何処かほっとした表情を浮かべます。



「……分かります。無理ですよね。やはり無理ですよね」



 ヤーナはアナトリーの「殺してくれ」という願いを叶えられ無かった事をずっと引きずってました。


 いざ自分の番になると、アナトリーの「殺してくれ」という気持ちが分かりました。フェドートが「無理です」という気持ちも分かります。



 ヤーナは立ち上がり自身の服に手を掛けます。



「少し着替えるのであっちを向いて下さい」



 フェドートは何故着替えるのかと意味が分からないまま慌てて背を向けました。




 ポチャーーン


 背後から水飛沫が上がりました。



「師匠っ!?」



 振り返ると川が流れていく風景が広がるだけで、ヤーナの姿は何処にも見当たりませんでした。



 * * * * * * * * * * * * * * * * *




 凍結した地はヤーナの死により元の姿に戻りました。馬が掛け、草木が生い茂り、人々が笑い合う……そんな日常が戻りました。



 ただ一人、大予言者の心はそんな温かい日常とは程遠い場所にいました。



 国民は初めこそヤーナの死に悲しみましたが、直ぐに立ち直りました。フェドートがヤーナに代わる国民の心の拠り所となっていたからです。しかし、フェドートには心の拠り所がありません。迷子の心は誰も見つけれません。



 フェドートは淡々と役目を果たすだけの屍になっていました。



(師匠。僕は一体何の為に長い年月を生きるのですか?)



 ふと、たまにそんな問いがフェドートの頭に出てきます。




 --300年経ちました。



 フェドートの元に10歳の少女が訪れます。プラチナブロンドの髪に琥珀の瞳の可愛らしい笑顔の少女です。



 フェドートはその少女を見て目を見開きます。



(魂が師匠と同じだ。僕には分かる……一緒なんだ……)



 フェドートはヤーナと初めて出会った時に、ヤーナが表情を固く強張らせていた事を思い出しました。



(そういう事だったんだ)



 フェドートの表情が和らぎ温かいものになります。



 --長い年月を生きるのは、また君に出会う為。



 大予言者はまた大切な人と出会えると予言したのでした。





                    〜fin

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― 新着の感想 ―
[良い点] 大預言者と言う2つの存在の、巡る魂の物語ですね。 このループがいつか、ちゃんと交われば良いなと感じました。 [一言] こんばんは。 ラストの予想はしてませんでした(^_^;) ただ、第3…
2020/10/13 21:09 退会済み
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