9:因縁の対決
「これが……その悪魔の血ってやつか?」
ラースレイ自警団、本部中央ホール。
指定の場所に到着した俺は、オームから革紐の付いた手乗りサイズの木箱を渡された。
「はい。この箱の中に守るべき悪魔の血入りのビンが入っています。」
少し重いその箱は、振っても音がする訳ではない。流石に緩衝材が入っているようだ。割れる心配が無いのは助かる。
「朝が来るまで、シンジさんにはこれを首につけていただきます。」
確かに。俺に対してスキルを使ってくれないと、俺も反撃のしようがない。
オームは説明を続ける。
「怪盗が現れた場合、私たちは全力で攻撃し、出来る限り怪盗の足を止めます。しかし、もしあなたのところへ怪盗が来たらスキルを使って取り返してください。分かりましたか?」
「ああ。バッチリだ。」
日は既に沈み始めている。もうそろそろだ。持久戦になるだろうが、耐えなければならない。
俺はホールの真ん中に座り、3人もその周りを囲むように座る。
そして、ホールの壁際には他の団員達が何人も待機している。ホールの外にもいるらしい。守りは硬い。
数十分は立っただろうかという頃。辺りはもうすっかり暗い。
「なあ、なんで皆は自警団に入ったんだ?」
ふと、俺はそんなことを3人に問いかける。
こんな時に会話なんてするものじゃないが、ずっと張り詰めた空気っていうのは厳しいからな。
「俺たちは……」
「中央大陸を探索している途中で、怪盗にスキルを奪われ、それでここにいますね。」
そう、ラーイ兄弟は答える。俺と同じような理由だ。
「お二人はスキルを盗られたから入ったんですね。てっきり自警団に入ったのは別の理由だと思ってました。」
エルもこの答えには意外だったらしい。
「そういうこと。一攫千金が狙えると思ったらこれだよ。ホントツイてないよなあ?」
「てことは、2人は冒険者なのか?」
わざわざ中央大陸を探検しているのが気になった。
「いや?そういう訳じゃあない。故郷で一人前になったから、2人で出てきたんだよ。」
「へえ……そうか。」
冒険者であれば、それすなわちプレイヤーと同じような立ち位置ということになる。
もしかしたら、この世界は結局どんなものか分かると思ったんだが……そうもうまくいかないらしい。
「じゃあ、エルはどうしてここにいるんだ?」
今度はエルに尋ねる。
「わ、私ですか!?」
「あ、ああ……」
「私は……その……家出したいも
「やあ諸君1ごきげんよう、大怪盗だ!」
「なにっ!?」
エルの声を遮るように、その声はホールに響いた。
畜生、してやられた。会話に集中し始めた時に丁度現れるなんて。
俺たちはすぐに立ち上がり、周囲を見回す。しかし彼女の姿はどこにも見つからない。
「! 上だ!」
キンの声を聞いて上を向くと、そこには落ちて来る怪盗の姿があった。
しかし、前のように事故で落ちてきている訳じゃない。右手を構え、その口は何かを呟いている。
どうする。あいつは早速盗む気満々だ。
「くぅ……[バーン・タックル]!」
切羽詰まったキンの声と同時に、俺は熱さを感じ、そのまま吹き飛ばされる。
「がっ……熱っ……」
あの炎、本当に燃えているのかよ!いや、それよりも。
「キン!」
あいつは今、スキルを盗られていることになるぞ……
怪盗のいるはずの場所を向くと、
「へえ、こうして近くで見るとかわいいじゃないか。町中とかで会いたかったぜ。」
なんて、冗談交じりに飛ばしながら手に持った剣で近接戦を繰り広げている。あいつらしいといえばあいつらしい。
「全く……邪魔しないでくれよ。すぐ終わらせるつもりだったのに。」
そういいながら、怪盗はその攻撃をよけ続ける。
「[エレキテック・フィールド]!」
「[マルチ・アップ]!」
オームとエル、それに周りの団員が支援を行っているが、怪盗が不利になる様子はない。
「大体よぉ、なーんであんなもの盗もうとしてるワケ?貴重なものだけど、高く売れるようなことはないぜ?」
「教えるもんか!」
キンと怪盗との掛け合いは続いている。
このままじゃ埒が明かない。
「[リバース・ハンド]!」
俺はそう叫び、体は炎に包まれる。さっき受けた[バーン・タックル]を使った訳だ。
さっきの比じゃないくらい熱いが、気にしている余裕は無い。
そのまま、怪盗の方に走り出す。
「はあああっ!」
「なにっ!?」
怪盗はそれに気付くが、もう距離は僅か。
もう遅い。
「うわあっ!?」
俺の一撃は、怪盗にクリーンヒットし、そのまま弾き飛ばした。
大分効いているようで中々立ち上がれずにいる怪盗に、俺は言い放つ。
「もうお終いだ。大人しく、お縄につけ!」
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