2:ハードモードってこういう事なんだな
メダリオンマスター・オンライン。
MMORPGの一般層への普及とAI技術のテレビゲームへの応用を掲げて開発された、オンラインアクションRPGである。
そこで自分は主人公となり、レベルを上げ、武器や装備、メダルを集めて強くなり、魔界からやって来る魔族の脅威から異世界ゼストロイアを守る……という内容だ。
また、それ以外にも様々な楽しめるコンテンツがあるせいで、俺は当時このゲームに大分ハマっていた。生活に影響を及ぼす程ではないが、それでも上位層として多くのプレイヤーの前を走っていたくらいには。
まあ、色々あって引退してしまったが。
今、あのゲームどうなってるんだろ。サービスはまだ続いているみたいだが、流石に大分様変わりしてるだろうな。NPCが完全に人間と変わりなくて凄く驚いたけど、今じゃもう普通のことなのかな……メダルを集めてボスを呼んで、高ランクメダルのドロップとか狙ったな……
……あれ?手足が動かない。
「はっっっ!?」
急に目が覚めた。あれは夢だったのか。
俺は今……椅子に座っていて、手足を縛りつけられている。
「なんだよ……これ……」
「やっとお目覚めか。」
「!?」
俺はびっくりして、下げていた頭を声のした前方に向ける。
飾りのないただの箱のような部屋。目の前にはランタンの置かれた机があり、向かいにはまるで警察のような制服に身を包んだ、ガタイのいいおじさんが……
なんとなく察した俺は口走る。
「これって取り調べ!?」
「察しがよくて助かる。」
だから何なんだ、スキルを奪われたら今度は取り調べされてるって。だいぶ俺への風当たりが強くないか?
「私はこの町の長、ウィート。まずは君のことについて聞かせてもらおうか。君、名前は?」
ペンを取り出した町長が聞いてくる。
「し、真司です。藤原真司。」
「フジワラ・シンジ?あんま聞かないような名前だな。年齢は?」
「25歳。」
こんな感じで、いくつか質問をされた。
「ふむ、住所不定、無職。持ち物もほとんどない。の割には不潔といった感じもしない。まるでついさっき生まれてきたみたいだな」
「や、まあ、割とそんな感じで……気が付いたら、路地裏に倒れてたって感じで……」
こうとしか言いようがない。
「じゃあ、その前は?」
「えっ……」
言葉に詰まってしまう。
多分ここは、俺のいた世界とは違う。スキルメダルがそれを証明している。となれば、今までのことを話しても信じてもらえないだろう。ならば、それよりも……
「覚えて……無いですね……」
こう通すしかないだろう。
「ほう、記憶喪失か。よくいるんだよ、そういうやつ。」
少し呆れた感じで返された。流石にこれが嘘っていうのはばれているか……
「まあいい。本題に入ろう。君は何故、自分がこんな状況に置かれているかわかるかな?」
「いや、全く……」
悪いことをした覚えはない。むしろスキルメダルを盗られているぶん、俺は被害者じゃないのか?
「君には、大怪盗の協力者という嫌疑がかかっている。」
「ええっ!?」
流石に予想外すぎる。なんだよ大怪盗の協力者って、色々と流れが急すぎないか?
思わず驚きの声を上げてしまった。
「ああ、君は記憶喪失というから、1から説明しないといけないな。ここは中央大陸の東にある町、ラースレイ。中央大陸の3大拠点の一つだが、数か月前から大怪盗を名乗る者によってスキルメダルを奪われる事案が多発しており、治安の悪化が進んでいる。そして我々ラースレイ自警団は、その大怪盗を追いかけている。」
「は、はあ……」
おかしい。知らない単語がいくつも出てきた。中央大陸?ラースレイ?ここってメダリオンマスター・オンラインの世界、ゼストロイアだよな……
ゼストロイアは4つの大陸が円のように並んで成り立っていたから、中央なんてなかったと思うが……
俺は質問する。
「あの……この世界の名前って、何ですか?」
「世界?ああ、この星はゼストロイアと呼ばれているが……」
「じゃあ、、中央大陸っていうのは?」
「5年ほど前に突如出現した大陸だ。そして、現在調査が進められている。」
なるほど。俺が引退した後にできた場所か。そりゃ場所が増えていてもおかしくないよな……
「オホン。話を戻そう。君は今日の深夜、倒れているところを発見された。普通なら起こして帰ってもらうところなのだが……君のいた場所は、丁度怪盗が姿を消した場所だった。更に君は、盗まれたスキルメダルの内の1枚、そして怪盗のものと思わしきリボンを所持していたことから、このようになっている。あらかた、スキルメダルと引き換えに逃げる手伝いをしたのだろう。その辺、どうなんだ?」
なるほど……あの時出会った少女がその「大怪盗」だった、ってわけか。それで偶然が重なって、こうなったと。
誤解を解かねば。
「待ってください。確かに俺は怪盗とは鉢合わせた。でも協力したわけじゃない。むしろ俺はスキルを盗られている。それもSランクのを2枚も。」
「本当にそんなことが?ならば、君の持っていたメダルは?」
「俺の持っているスキルで怪盗から盗り返した。」
それを聞いた途端に、相手の顔色が変わるのが分かった。
「バカな。そんなことできる訳が無い!なんだ、お前も奴と同じスキルを持っているとでも?」
「そういう訳ではないが……」
「じゃあどういうスキルなんだ。」
「受けたスキルを使える、ってものだ。」
信じられない、という顔をされた。どうやら「リバース・ハンド」はそう知れ渡っているようなスキルではないらしい。
「そうか、それならば……君の処遇について検討するので、もう少し待っていてほしい」
そう言い残して、町長は部屋から出ていった。
……待て、俺は椅子に縛られっぱなしなのか?
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