ダンジョン×魔法少女~魔法少女が原因で地球にダンジョンが生まれているみたいなのでモブの俺が攻略します~
魔法少女ものが好きなので、気分転換に書いてみました。もし読んで頂ければ幸いです。
ある日、日本のとある都市部で不思議な場所に繋がる階段が発見された。その先は広い迷宮が続いており、階段の横から穴を掘ってみてもその迷宮には繋がってはおらず、どこにつながっているのか大きな謎とされた。
後にダンジョンと呼ばれ、今では異空間につながっていると考えられるようになったその中には、モンスターと呼ばれるようになった空想上の生き物が数多く発見され、階層の浅い場所では子供でも倒せないことはないが、奥に潜るほど強大なものになることが明らかになっていった。
時には、そのモンスターはダンジョンの外に出てきて、人々に甚大な被害をもたらし、政府はダンジョンを脅威ととらえ、その対応に苦慮していた。
ダンジョンは世界各国でも次々に発見されるようになり、その脅威は世界で共有されるようになった。
ダンジョンから出てくるモンスターの影響で経済活動が低迷する中、人々の中にはダンジョンの中に入り、モンスターの一部や死骸、ダンジョン内部に落ちている鉱石といった貴重な物資を持ち帰るものが現れた。
これらの品々の貴重性の高さに目を付けた各国政府は彼らを探索者と称して管理するようになっていった。
とくに日本政府は優秀な探索者を増やすべく、探索者の知名度を上げるために芸能界をも巻き込んで、当時売れずに伸び悩んでいたアイドルグループに目をつけ探索者として育成することに成功。大々的に売り出すことで探索者のイメージアップを図っていた。
その結果、探索者といえば、男女ともに小学生の将来なりたい職業ランキングでトップを飾るほど。いまや憧れの職業となっていた。
◇
大都市にほど近い市街にある高校のとある教室、将来とくにやりたいこともきまっていない今どきの高校生のハルトは、一人席に座りスマホで探索者アイドルグループの一つである「クアエシトール」の配信動画を見ていた。
「おお!? やっぱリサかわいいよなー。」
推しメンであるリサは、プロフィールの年齢は俺と同年代、身長は平均的な俺より少し小さめで冷めた感じがファンの間では人気となっている。
「ハルト、何見てるんだ?」
そんな俺の声を聞いてか、隣の席に座っていることもあり比較的よく話をするタカシが声をかけてくる。
俺はタカシにスマホの画面を見せた。
それはタカシにはあまり心惹かれるものではなかったようで、がっかりした表情を見せる。
「なんだ、クアエシか。おまえ、ほんとそれ好きだな。」
「そりゃそうだろ。いまや探索者アイドルグループの中でトップを走る存在だぜ?」
そんな俺の話を聞いてタカシはあからさまにため息をつく。
「そんななかなか会えないアイドルより、すぐに会える学校のアイドルの話をしようぜ。」
俺は、少し思い出すよう素振りを見せた後。
「学校のアイドル? ……ああ、隣のクラスのあいつか。」
隣のクラスにはこの学校のアイドル的存在と言われる学年で一番の美少女がいる。
まあ、スクールカーストのトップの彼女とモブの俺とではお近づきになる機会はないのだが。
「そうそう。それでおまえ、あの噂知ってる?」
「噂?」
タカシはひそひそ話をするようにこちらに顔を近づける。
「ああ、そのアイドル様が昨日の学校の帰りから家に帰ってないらしいぜ。」
俺は少し驚いた後、疑いのまなざしを向ける。
「え!? ……って、おまえ何でそんなこと知ってるの?」
「え、ああ。ちょっと今日の朝、用事があって職員室に寄った時にな。ちらっと聞こえたんだ。」
なるほどと、俺は納得した顔を見せた。
「プチ家出じゃなえの? きっとアイドル様も悩みがあるんだろ。」
たしかにな、っとタカシは笑いながら頷いた。
「それより、クアエシも会おうと思えば会えるぜ?」
そう言って、俺はスマホの画面を見せる。
そこには探索者体験ツアーの文字。
「なんだこれ?」
タカシは不思議そうな顔で画面をのぞき込む。
「クアエシといっしょにダンジョンの探索者の体験ができるんだとよ。」
タカシは驚いた顔で俺の顔を見る。
「え!? おまえ、探索者になんの?」
俺はやれやれ、と馬鹿にした風で顔を横に振る。
「そんなわけないだろ。目的はクアエシに決まってるだろ。参加する奴の大半がクアエシ狙いのファンらしいぜ。」
「はあー、なるほどな。でも抽選なんだろ、それ。」
タカシは行けるわけないと疑いの目で見てきた。
「まあな、定員30名だからな。倍率とんでもないらしい。」
だろ?、といったようにタカシはこちらを見る。
「ほれ、これを見ろ。」
そう言って、俺はスマホを画面を何回か押してタカシに見せた。
「え!?」
画面には当選の文字と明日の日付、そして最後にハルトの名前。
「おまえ、当たったの? これ。 マジで?」
「ああ、応募しなきゃ当たらないからな。……まあ、当たるとは思ってなかったけど。」
「へえ、俺も今度応募してみよっかなー。」
「いやいや、おまえ、クアエシのファンでも、探索者希望でもないじゃん。」
「あはは。まあな、また感想聞かせてくれよ、生クアエシの。」
「ああ。」
俺はスマホの時刻をふと見ると、そろそろ先生が来る時間。
そろそろ終わるか、そう思い、話を切り上げたのだった。
◇
休日の夕方、体験者ツアーも無事にとはいかなかったが終わり、一人家路に着く。
体験者ツアーの最中に、偶々近くにいたファン同士のトラブルに巻き込まれてケガをしそうになり、結果的に推しメンのリサから怒られる破目になったのだ。
「ああ、あれさえなければ最高だったのにな。ていうか、あれ俺のせいじゃないよな、巻き込まれただけだし。」
そう思いつつも、リサを間近で見れたのはラッキーだったと喜ぶ。
「とはいえ、リサ、マジでかわいかった。」
思い出しながら歩いていた時、ふいに地面に躓く。
そしてその後の浮遊感。
「え?」
俺は地面に突如できた地割れに気づかず落下した。
え!? え!?
パニックに陥る。
すぐに地面に着くということはなく真っ暗な闇の中、落下する。
ヤバい。
俺は突如できたダンジョンの穴に落ちたのだと気づいた。
ダンジョンが発生するようになってから同様の事故はときどき起きている。
ただ、落ちた人が助かったという話は聞いたことがなく、時間が経ってから潜った探索者が、亡くなったと思われる形跡を発見するというものだった。
原因が落下した衝撃か、ダンジョン内のモンスターにやられたかは分からないが、いずれにしても落下したものの行く末はただ一つしかなかった。
俺は心は絶望一色に染まる。
そして、かなりの落下の後、突然、柔かな衝撃に包まれた。
パシャン。
そして、水風船がはじけるような音。
ドサッ。
次いで、硬い地面に落ちた。
「え? 俺、生きてる?」
偶然にも何かの上に落ちて、最悪の事態は免れたようだった。
辺りは完全な闇というわけではなく、何の光かは分からないが、周囲全体がうっすらと光っているように見えた。
助かった原因を探ろうと目を凝らして地面を見る。
濡れているように見える地面を手で触ってみると、そこには水のような粘ついた液体が散らばっていた。
これって、……ああ、スライム?
今日の昼に、探索者ツアーで触れる機会のあったスライムを思い出す。
ただ、散らばっている量から想像すると、その大きさは今日見たかわいげのあるものではなく、とてつもない大きさであると思われた。
それを見て、少し冷静になる。
たしか、ダンジョンは奥に行くほどモンスターがとんでもなく強くなる。こんなでかいスライムが入口付近にいるとは思えない。
……俺、どれだけ奥にいるんだ?
俺はそのことに気づき、絶望に頭を抱えた。
早くここから抜け出さないと。
立ち上がると、道も分からないまま駆け出し始めた。
くそ、なんで俺がこんな目に。もしかしてツアー当選で運を使い果たした?
こんなことなら、応募しなければよかった、そう思わずにはいられない。
◇
走る続けると、それまで違って、明るくそして開けた場所に出た。
ここは?
うっ!?
まぶしさに腕を上に翳し、目に入ってくる光を遮る。
目が慣れたころに、周りを見渡し、周囲の壁が肉壁のように赤黒く、そしてうごめいていることに気づく。
気持ち悪!? なんだここ。
そうやってあたりを見渡しながらさらに奥に進むと、正面に人影が見えた。
え!? だれかいる?
思わず声を上げて駆け出しそうになるのを無理やり押しとどめる。
いやいや、待て。こんなとこに人がいるわけないだろ。
とはいえ、打開策もない俺は恐る恐る近づく。
よく見ると、中心には妹がアニメでよく見ている魔法少女の格好をした女の子が一人。
年齢は同い年ぐらいに見える。
あの年であの格好は痛くないか?
いや、探索者の中には探索者アイドルの真似をして、コスプレする奴もいるらしい。そのたぐいか?
更に歩き、顔が見える距離まで近づくと、かなりの美少女であることがわかる。
芸能人にもいそうだよな。……あれ、あの顔。
俺はその顔が誰かに似ていることに気が付いた。
だれかに似ている? いや、見たことがあるような。
……そうだ、隣のクラスの。 あれ? そんなやついたっけ?
一瞬、忘れていたことを思い出したかのような感覚にとらわれたものの、すぐに消失する。
くそ、思い出せない。
俺は思い出せそうで思い出せない、奥歯に何かが挟まっているような、歯痒い感覚にとらわれていた。
隣のクラスの誰かに、似たであろう彼女はうつむいたままじっとしている。
よく顔を見れば思い出すのでは?
そう思い、俺は更に数歩近づいた。
手の届く範囲まで近づき顔を覗き込もうとしたとき彼女が突然、顔を上げる。
俺と目を合わせると、敵意をむき出しにして、襲い掛かってきた。
「え? ちょっと待てよ。」
手で押さえつけようとするも、力が女性とは思えない。
「止めろ、隣のクラスの……えっと。」
ピクッ。
一瞬力が弱まる、も再度襲い掛かってきた。
一瞬止まったよな、さっき。って。力くそ強え。
もみ合うも相手の力が強く、地面に倒れこむ。
相手は馬乗りになってこちらを見下ろしていた。
「痛ッ。」
ヤバ!?
馬乗りになった彼女はなんら表情を変えることはなく、腕を大きく振り上げると、顔面を殴りつけてきた。
「ぐはっ。」
顔が横に振れ、意識が持っていかれるそうになる。
とりあえず、何か相手を止めないと、そう思い、思い浮かんだ言葉をそのまま口にする。
「ぐ、おまえいい年して、そんな格好しやがって、恥ずかしくないのかよ、変態。」
ピクピクッ。
無表情ながらも怒りのオーラが見えた。
先ほどより力を込めて腕を大きく振り上げた。
「ちょ、ちょっと待って!? やっぱ、なしー、なしで! 今の!」
なぜか分からないが力が弱まる。
俺は好機とみて押し返して彼女を倒す。
もみ合いの後、気づくと逆に馬乗りになり体を押さえつけていた。
彼女と目が合う。
「「え!?」」
二人の驚きの声が重なった。
「あ、あんた誰? 私は……。」
あ、思い出した。シイナ、シイナだ。隣のクラスのウスイ シイナ。
「そうだ、おまえ、シイナだろ。隣のクラスの。」
興奮したように押さえつけた手をそのままに、掴んだものを握る。
ムニムニッ。
「きゃ。」
彼女のかわいらしい声が響く。
「へ!? 」
や、やわらかい!?
俺はその手の感触の先にあるものをゆっくりと目で見る。
ムニムニッ。
その手は彼女の胸を揉み続けていた。
あ!?
それに気づいた俺はゆっくりと目を彼女の顔に戻すと、彼女は顔を真っ赤にして涙目で彼を睨みつけていた。
「……ちょっと、いつまでそうやってるの。のけてほしいんだけど、その手。」
「すいません。すぐにのけます。」
俺はそういうしかなかった。
◇
慌ててその場から手をのけて立ち上がる俺。
「ご、ごめん。」
彼女はゆっくりと起き上がり、ぱっぱと服を払ったあと後俺を見た。
腰に手を当ててため息を一つ。
「はあ、もういいわ。えと、あんたは……。」
そう言って、思い出すようなそぶりを見せる。
「ああ、俺はサカシタ ハルト。 隣のクラスの同級生。」
「ふーん、私の名前は……、まあ知っているみたいね。」
「ああ、有名人だからな。 それよりもなんでこんなところに?」
気になっていたことを聞く。
たしか聞いた話じゃ、プチ家出、じゃなかった家に帰ってなかったんじゃなかったっけ。
「うーん、学校の帰り道、突然意識を失ってなぜかここにいたの。微睡のなかにいるみたいであんたに名前を呼ばれた時、目覚めたようになったの。」
彼女は思い出すように顎に手をあてて、答える。
「へえ、それじゃ出口って分からないか。」
「それは大丈夫。私が連れていけるわ。」
「マジで!? ラッキー。」
そのとき、この部屋の入口、俺がやってきた方から何かが這いずるような大きな声が聞こえてきた。
「あれ、何の音?」
俺は音のする入口の方向を見る。
かなり嫌な予感がする。
「ああ、モンスターね。それも結構な高ランクものよ。」
「え!? なんでそんなこと。」
分かるんだと彼女の方を見る。
彼女は、ん? なんだそんなこと?っといったきょとんと顔をしてこちらを見た。
「ああ、そんなこと。それは私がこのダンジョンの創造主だからよ。」
はあ?
こいつ何言ってるんだ?
「え? おまえ何言ってんの? そんな格好をして頭までおかしくなった?」
彼女はむっとしてこちらを見ると。
「なによ。重要な情報を教えてやってんのよ! ちゃんと聞きなさい。」
そう言うと、彼女は真面目な顔をして、両手を腰に手を当て、一つ一つ説明する。
まるで自分が人間ではないといった風の内容を説明し始めた。
「この存在になってから分かったんだけど。どうも魔法少女って種族らしいの、私。魔法少女にはひとつの特性があって、自分の世界を作り閉じこもるそうなんだけど、どこか一か所は別の世界とつながってないと駄目みたい。」
「へえ。」
と言いつつも、ついていけず、聞いているふりをする。
情報量が多すぎる。もっと簡潔にいってほしい。
っていうか、なに? 魔法少女って、いい年して恥ずかしくないのだろうか。
彼女は俺の考えていることが分かったのか、ジト目で睨みつけてきた。
「ちゃんと聞きなさいよ。その魔法少女の作った世界がダンジョンって呼ばれている場所なの。」
「じゃあ、あのモンスターも魔法少女、おまえが作ってんの?」
じゃあ言うことを聞かせれるんじゃないのか。
俺は助かると思い彼女に聞いてみる。
が、彼女の返答は期待外れのものだった。
「いいえ、あれらモンスターは別。ダンジョンを作る際に溢れた創造の力で勝手に湧いてくるの。そして、ダンジョンの主になろうと創造主である魔法少女を食べに来るらしいわ。まあ、ある程度ダンジョンが定着すると壊れることはないらしいから、食べられてもダンジョンがなくなることはないみたいだけど。」
そう自分のことじゃないようにあっけらかんと答える。
「なるほど。じゃあ打つ手なしじゃん、あれ。」
そう言って、見た先には銀色をした龍のような生き物がこちらを覗き込んでいた。
ああ、あれ見たことあるわ、たしかネットの動画で。
ダンジョンから出てきて暴れまわり、多くの死者を出したとんでもないモンスターによく似ている。
龍はこちらを獲物とみなしたのか、こちらに一直線に向かってきた。
「で、どうするの? 一緒に心中するのか?」
俺はあきらめた調子で聞いてみた。
たしか、軍隊とトップランカーの探索者が総出で倒してたんだっけ、あれ。
あきらめたくもなる。
「いいえ、あんたと心中なんてお断りよ。 魔法少女の特性の契約ってのがあるの。」
あんたとなんてって、なんか軽くディスられたみたいなんだけど。
それより聞きなれない言葉に問い返す。
「契約? なんでもいいから、何かできるなら早くしてほしいんだけど、あれ。」
ちらちらと迫りくる脅威を横目で見ながら彼女をせかした。
「あ、じゃあいいのね。良かったわ。」
「へ? なにが?」
そう言って彼女の方を見たとき、彼女の顔が目前にあり唇にやわらかいものが触れた。
ぷは。
「って何するんだ? こんなときに!」
へ? 頭の中にどこからか声が聞こえる。
(契約終了。 魔法少女 シイナ。)
は? なんだって?
「ふう、私だって、こんなときじゃないとこんなことしないわ。これで契約できたわ、あなたが私の契約主よ。さ、命令しなさい、ハルト。」
そういって何かを待つようにこちらを見た。
「はあ? 」
ちらっと入口の方を見ると、もう龍はすぐ近くまできていた。
その頭の大きさは、大人も丸呑みにできそうなぐらいにでかくなっている。
マ、マジででかい。
「ほら、はやく!」
「じゃ、じゃああいつを倒せ!」
「了解、マスター。」
そう言うと、彼女は軽く跳躍し俺の頭上を飛び越えると、俺の前に躍り出る。
龍はなにか脅威を感じたのかスピードを緩めて、止まる。
目の前に大きな尻尾が迫りくる。
ブオン。
やば、死んだ。
ガギンッ。
跳ね返される尻尾。
目の前には大きなガラスの透明な壁。
いや、氷?
離れていても若干の冷たさを感じたその壁は分厚い氷だった。
次の瞬間、氷が勝手に砕け散り、宙に消える。
シイナは片手を龍の頭の方向に翳す。
手からはいくつもの氷の粒。
ギャーオンン。
龍の口から出た叫び声が部屋に響く。
「まったくうるさいわね。」
そして、彼女はこれで終いといったように両手を前にそろえた。
「永久凍土の氷よ、あいつを閉じ込めなさい。」
その言葉と同時に龍が這っていた地面から氷が徐々に立ち上っていく。
気が付くと氷を龍全体を覆うようになり、そびえたつ大きな氷の山ができていた。
ピシピシ。
氷の山の一部にひびが入る。
ひびは徐々に大きくなり、全体にわたった時、中に閉じ込められた龍とともに氷は粉々に砕けた。
「ふう、これで終わり。生まれたてみたいだったから、力も弱くてよかったわ。」
「あ、ああそれはよかった。」
俺は唖然とした顔で粉々になった龍を見ていた。
◇
「さて、次はあんたの番ね。」
そう言って彼女はこちらを見る。
「へ?」
「出口まで送るってやつよ。」
ああ、あれか。
そうだな、いつまでもここにいるわけにはいかない。
いつまたどんなやつがくるか。
そんな俺の心を読んだのか。
「まあ、あんなやつは早々来ないわよ。それにさっきのを倒してから私の力も更に上がったしね。」
えっと、ゲーム的にはレベルアップという奴だろうか。
「それで、出口に行けるのか?」
「ええ、私の力で送れるわよ。だって私がここの創造主だし。」
たしかにこいつの作った世界だったらいろいろできるのだろう。
「あ、ああ、そうなんだな。」
「やっと信じた。」
「うーん、まあ、あんなの見ると。」
さて、いっしょに帰るとするか。
そう思い、シイナに手を出す。
彼女はじっとその手を見たまま動かない。
「行くのはあんただけ。」
「なんで? おまえは?」
彼女は今度は俺の顔をじっと見てくる。
「私はここに残るわ。だって、もうこの場所から他の場所に行けないんだもの。」
「え? でも魔法少女がいなくなってもダンジョンはなくならないって。」
「そうよ、でも魔法少女はこの部屋からは一人では動けないの。それがルールみたい。」
はあ、と出来の悪い子に教えるように彼女は俺に説明してくれる。
「な!? おまえ、それでいいのかよ!」
「いいの、それじゃあ、また(・・)。」
◇
そう言った後、気が付くと別の場所に立っていた。
上を見上げると、日が沈み始めた赤い空が見える。
空、そう空だ。
どうやら外に出れたみたいだ。
俺はきょろきょろと周りを見る。
その時、横手から声をかけられた。
「あんた、いまどこから出てきたの!」
聞き覚えのある声。
声のした方を見ると、クアエシのリサがこちらに向かって走ってきていた。
そういえば、クアエシはダンジョンが発生した時の初動調査にも駆り出されることがあると何かに書いてあるのを見たことがある。
「あれ、あんたどっかで見たことが……。いや、こんなモブみたいなやつ見覚えないわよね。」
なんか失礼なことを言われている。
「ん―、どこだったかなぁ、最近なんだよね、たぶん……。」
俺は考え込む彼女からそろりそろりと後ろに下がり彼女から距離をとる。
「りさちー! どうしたのー!」
声の方を見ると、彼女がやってきた方から大きな胸を上下させながら、グループメンバのユイが走ってきていた。
「ああ、こいつが、今ダンジョンから……って、あー! 思い出した! ツアーに参加していたやつだ!」
「こいつって……、その子、どこにいるの?」
「だからこいつって。あれ?」
「りさちー、そもそも閉鎖しているダンジョンから出てくるわけないじゃない。」
「いやでも……、あれ?」
そんな声を遠くに聞きながら急いでダンジョンを後にした。
◇
誰にも捕まらずになんとか家に帰り、部屋へとこもる。
はあ、帰ってこれた。
ほっと安堵する。
ただ、落ち着くと思い出すのはあいつの最後の顔。
さびしそうな顔をしていた。
あいつ、あの部屋で一人でいるんだよな。
どうしてるんだろう。
そんなことを考えていると、頭の中で声が響く。
(ちょっと、聞こえる?)
え? やばい、あいつのことを考えていたら幻聴まで聞こえてきたか。
(ちょっと聞こえてるの?)
おぉ!? なんかイライラしている。
まるでその光景が目に浮かぶようだ。
「は、はい。聞こえてます。」
俺は一人部屋で声を上げる。
(よし、いまから言うように呼び出しなさい。)
呼び出す?
俺は言われるまま口にする。
すると、目の前の床に光の輪。
光が収まるとそこにはシイナが立っていた。
「って。ええー!? なんで?」
「だってダンジョン暇なんだもん。」
「いや、そうじゃなくて、あそこから出られないんじゃなかったの?」
「そうよ、でも契約主は呼び出すことができるの。ねえ、たまに呼び出してよね。」
俺の部屋を物珍しそうに見ながらうろうろするシイナ。
あ、物色し始めやがった。
「いやいや、ここに来たんだったら家に帰れよ。」
「それはだめ。あのダンジョン以外だったら契約主の傍を離れることはできないの。それに、もうみんな私のことは忘れているわ。存在しないことになっている。覚えているのはあなただけよ。」
そう言って、寂しそうな、あるいは何かを期待するような顔でこちらをじっと見ていた。
はあ。
そんな顔を見せられたら仕方ない。
どうやらこいつから離れられないみたいだし、あきらめるか。
明日からどうしよ……。
いや、いまはベッドの下を覗き込んで何かを探しているこいつを止めるのが先か。
ほら、そこには置いてないから、何も。
その後、アイドルグループに再度見つかり尋問されたり、アイドルグループと彼女が鉢合わせになりなぜか両方からせめられたり、探索者となり他の魔法少女と戦ったりするけれど、それは別のお話。
もし続編希望などありましたら、ポイント評価やブクマをつけていただけると幸いです。