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真夏のサンタクロース

作者: RYUN

サンタクロースの存在を信じている方は読まないで下さい。w

25歳の真夏。

僕らの同窓会があった。

集まったメンバーは、小学4年生の頃のクラスメート達。

久しぶりに会う友だちも多く、みんなで昔話を楽しんでいた。

「おお、坂本。久しぶりだな」

突然、声をかけられた。相手は、昔、共に一緒に遊んだり、悪巧みをしたりした佐野だった。

「佐野じゃないか。お前とは、小5も小6もクラスが一緒だったよな」

僕らは、あの頃のように笑った。小4の時の、僕らのように。

「小4といえば、思い出すなぁ…サンタ。」

「ああ、懐かしいなぁ、サンタ。」

僕らは、あの懐かしの町内会のクリスマス会のサンタクロースを思い出していた。

あの頃の僕らは、まだサンタクロースが実在するとか、あの町内会のサンタクロースの正体は近所のおじさんだとか、そんなことの判別はつかなかった。幼稚園の年中くらいの時、「サンタクロースなんていない」だとか、「サンタクロースの正体はお母さんやお父さんだ」なんて言う奴がちらほらと現れた。僕も、そんなみんなの噂にのせられて、よくお母さんに「サンタさんはお母さんなの?」と聞いたりもしたものだ。けれど、お母さんは言う。「サンタさんは、寒い国にいるのよ、サンタさんを信じない子にはプレゼントが来ないのよ」と。僕はそう脅されてから、サンタさんを疑うことはなくなった。けれど、そう。小3の時の町内会のクリスマス会で。僕は、「サンタクロースはいない」と疑い始めるのだ。


僕らは、町内会のサンタクロースが大好きだった。毎年、みんなにお菓子を配ってくれるサンタさん。そんなサンタクロースの中身がおじさんだとは、誰も疑わなかった。

僕らのド田舎の生活での唯一の楽しみは、毎年来るサンタクロースに会うことだった。


 しかし、小3のクリスマス会、サンタクロースは現れなかった。

正確に言えば、来たことは来た。しかし、それは毎年来るサンタクロースなんかではなかった。しかも、どこかで見たことがある顔だった。後から、その時現れたサンタクロースは隣の家のおじさんだということが分かった。

「ねえ、どうしてサンタさん来なかったの?」

僕はクリスマス会の帰り道、お母さんに訪ねた。

「…さあ、サンタさんも忙しかったんじゃないかな?」

お母さんの発言に間があったことが気になったが、そっかぁ、と返事をして黙った。

僕は黙っている間、僕が大好きなサンタクロースのことについて考えていた。

どうして今年は来てくれなかったんだろう、と。そうして辿り着いた答えが、「僕達があまりいい子じゃなかったから」だった。そして、その答えを次の日にみんなに言った。

「なあ。昨日サンタさんが来なかったのってさ、僕らがいい子じゃなかったからなんじゃないか?」

みんなはそれを聞いて、黙り込んだ。

「俺、サンタに会いたいよぉ」

一人がそういうと、みんなが俺も、僕もと言い出した。そこで、僕らはある提案をする。

「なあ。町内会の会長さんに、サンタさんに会わせてくれるように頼もうぜ!」

「それ、いいな!!」「早速今日の放課後行こう」

サンタクロースに会いたい僕らは必死だった。そして、最後のチャイムが鳴るとほぼ同時にランドセルをつかんでみんなで一斉に飛び出した。「こらっ!」なんていう先生の声など無視して。

僕らは会長さんの家に辿り着いた。会長さんの名前は、「松川さん」だ。松川さんの家の呼び出しのベルを鳴らす係が、早速ベルを鳴らした。

ーーーピンポーン。

僕らは松川さんの家のドアをじっと見守る。

しばらくすると、中から奥さんが出てきた。

「あら…こんにちは」

奥さんは、僕らに向かって微笑んだ。僕らは、奥さんにこんにちは、と挨拶を返した。気のせいか、奥さんの笑顔は少し寂しそうだった。

今度は、サンタクロースに会わせてほしいという依頼をする係が奥さんに言った。

「あの、毎年来るサンタさんに会わせてほしいので来ました!もう、国に帰っちゃいましたか?」

僕らが真剣な顔で言うと、奥さんはふふ、と笑って呟いた。

「主人は、こんなにも子供達から愛されているのね…。」

僕らはその言葉に一瞬耳を疑う。

「サンタさんは、松川さんなんですか??」

奥さんは少し戸惑っていたが、何も答えずに、中にお入りなさい、と僕らを中に入れてくれた。中に入ると、畳の部屋へ連れていかれた。その部屋には、布団がしかれていて、そこに松川さんが眠っていた。僕らは松川さんから目を離さなかった。

「サンタさんの夢を壊しちゃうかもしれないけど、ごめんね」

奥さんは突然口を開いた。

「え…?」

「私の主人が、毎年来るサンタさんなの。」

僕は、それを聞いてショックを受けると思った。けれど、不思議とショックじゃなかった。

奥さんは、松川さんの方を見てぽつぽつと話し始めた。

「今年、毎年来るサンタさんが来なかったでしょう。…みての通り、主人は病気を(わずら)ってしまったの。」

僕らは言葉を失った。来年からは、サンタさんが来ないのかもしれない。そう思うと、悲しくて仕方なかった。

「治るか治らないかの確率は五分五分で…。」

そこまで言うと、奥さんは声を殺して泣き始めた。僕らにはどうすることも出来なかった。ただただ、奥さんと松川さんをみつめるだけだった。

「そんな時、あなた達が主人のために来てくれて…主人に会いたいと言ってくれて…主人も、本当に喜んでいると思います」

奥さんは、また悲しい笑顔を浮かべた。


僕らは小4になった。夏休みも近づいてきて、僕らは衣替えをし終わっていた。松川さんのお見舞いは、最初はみんなほぼ毎日の割り合いで来ていたが、最近は一週間に一度くらいだった。そんな中、僕と佐野と結城というやつはまだ毎日お見舞いに行っていた。

夏休みに入った頃だった。僕らがいつものようにお見舞いに行くと、奥さんはすぐには出てくれなかった。代わりに、知らない女の人が出た。

中に入ると、そこには泣き崩れて松川さんの名前を叫ぶ奥さんと、お医者さんがいた。どうやら、さっきの知らない女の人は看護婦さんだったようだ。

松川さんに目を向けた。松川さんは、息をしていないようだった。お医者さんは、松川さんに電気ショックを与えていた。僕らの足は硬直したまま動かない。

 ふと、松川さんの目がうっすらと開いた。奥さんはその瞬間、少し安心したように微笑んだ。松川さんの視線は、こちらに向いていた。そして、かすれた声で言った。

「…ごめんね…実は、私は一年半前くらいから病気になっていたんだ。サンタさんも、去年までいけるとおもってたんだけどねぇ…。出来なかった…。」

松川さんの目には、うっすらと涙が浮かんでいた。僕もつられて涙が出そうだった。

「私は…サンタをやっていてよかった。君たちの笑顔が、私の年に一度の楽しみだったんだ…。」

「サンタさん…」

松川さんも僕らと同じで、クリスマスを楽しみにしてくれていた。それを知った時、本当に嬉しかった。

「中身が只のおじさんでごめんね。すごい季節外れだけど…メリークリスマス。」

松川さんはそう言うと、にっこり微笑んだ。畳の部屋には、ピーという電子音と奥さんの泣き声だけが響いた。



「ありがとう」

松川さんのお葬式の時、奥さんは僕らに言った。

「主人ね、私が入院することを勧めても、絶対嫌だ、って拒否してたの」

奥さんは笑った。今度は、ちゃんとした笑顔だったと思う。

「主人は、毎日お見舞いに来てくれるあなた達のことだけを楽しみに生きていたみたい。妻として、少し悔しいわ」

奥さんは空を見上げる。僕らもつられて空を見上げた。




僕らは、一生忘れない。大好きだった、あの真夏のサンタクロースを。









                ー終わりー

文中での、「サンタさんの正体は両親説」は、私も体験しましたw更に家に帰ってお母さんに聞くと、同じように脅されました(笑)「サンタさんはいるって信じないと、サンタさんは来ないんだよ」と。私はびびってサンタさんはいるんだ、と小3まで信じていましたwけど、小3の時に、別に起きているつもりはなかったんですが…お父さんが、私の枕元にそっとプレゼントを置いた場面に遭遇してしまいました(笑)長くなりましたが、作者の体験談です^^♪

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[一言] 感動ものやなぁ〜; 最後の一文うまいです!
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