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第一王子はモテない  作者: 東野 千介
お家騒動の火種は女騎士?
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シャルル派②

 『神聖近衛騎士団』はレスタークスの『近衛騎士団』に対抗してつくったシャルル直属の騎士団である。

 高位の貴族の子弟ばかりで構成されており、シャルル直属ということもあってかなりやりたい放題のところがある。 

 自分達が特別な存在だと理解し、それ以外の者たちを下に見ており、それを隠そうとはしていない。とにかく特権意識が甚だしいのだ。

 もっとも宮廷での評判は必ずしもわるくない。


 中・下級貴族中心の近衛騎士団の者たちは無骨で少々やぼったい者たちが多いが、上級貴族が多い神聖近衛騎士団の騎士たちは表向きは紳士的で洗練された姿かたちをしている。

 また、近衛騎士団は舞踏会などにはほとんど参加しないし、出てもうまく踊れない者が大半だが、神聖近衛騎士団はダンスを得意としている者が多く、ダンスパートナーとして淑女達に人気がある。


 それだけに女関係も派手に遊びまわっているのだが、その身分の高さから問題になる事もない。


 ここまできくとただ遊びまわっているだけで、戦闘能力は低い印象を受けるかも知らないが、この騎士団は今まで一度も戦に負けた事がないのだ。


 「エクセル、あなたには期待していますよ」


 メリッサが隣に座っているエクセルの肩に手をかける。

 エクセルはもともとメリッサの配下の騎士だったのだが、神聖近衛騎士団が創設された際にジュリアス直属の騎士となり騎士団長に就任している。

 メリッサは自らが手塩にかけて育てただけにエクセルが有能だと信じている。


 メリッサいわく『まだ若いですがエクセルほど優れた騎士はいません。もともと才能があった上にこの私が教育しましたからね』らしい。


  「しかし、相手にも近衛騎士団がいます。特にラング卿には気を付けねばなりませんぞ」


それとなく油断をいさめるウインにシャルルは意味ありげに笑いを浮かべる。


 「ふふふ。ラングは私につくと思うよ。」

 「ラング卿が?近衛騎士団の団長ですぞ?」


 「ウイン、私を見くびってもらっては困る。私は今日や昨日にこの考えにいたったわけではないのだ。準備はしっかりしてきている。ラングとの事もその一つで、以前からラングとはよくこの国の将来についての話をしていてね。ラングいわく『弱きものに仕える気はない』との事だ」


 「つまりレスタークス王子が『弱きもの』だと?」

 「そうだろう。疑うべきもない」


 自信たっぷりに言うシャルルにウインは反論しないで、


 (本当にそうだろうか。ラング卿のレスタークス殿下への忠誠心は本物だと思うが)


 と心の中でつぶやくが、


 (まあ、ラング卿の性格からして嘘をついてまでシャルル殿下を騙そうとはしないか)


と思い直す。


 「ウイン殿、仮に近衛騎士団が敵に回ってもシャルル殿下の騎士団である我ら神聖近衛騎士団がいれば問題はないでしょう」


 エクセルはシャルルがラングを評価しているのが気に食わないようだ。


 「もちろんそうだが、味方は多いほうがよいではないか」


 ウインはエクセルを立てるようなことを言いながら心の中では別の事を考えている。


 (神聖近衛騎士団が近衛騎士団の相手をするのはちと難しいだろうが、真実を言って何もことを荒立てることもあるまい)


 近衛騎士団と神聖近衛騎士団のこれまでの戦績は似たり寄ったりだが、実力は近衛騎士団の方が上だとウインはみている。

 どちらも負け知らずという点では同じだったが、その相手も状況も神聖近衛騎士団のほうがはるかに恵まれていた。

 神聖近衛騎士団は勝てる相手を用意されてその相手に勝っているだけで、それは戦というよりはただの箔付けにすぎない。

 一方の近衛騎士団はそれなりの難敵相手にも勝ってきている。あのレスタークスの指揮で勝てると思えないのでおそらく騎士団長であるラングの力が大きいのだろう。それからもう一人の・・・


 「ジュリアス殿にも気をつけなくてはいけませんぞ。客分といえザガンの第四王子にしてなかなかの軍略家とききます」


 これにもシャルルは含み笑いをする。


 「ふふふ。ウインは心配性だな。あの捨て子も余の味方だ」


 「まさか・・・。ジュリアス殿はレスタークス殿下を慕っていると思いますぞ」


 「なに、先ほどのクロエがグズの配下になったという情報も実はあの捨て子が忠臣ぶって余に教えてくれたのだ。あの捨て子がグズと仲良くしているのも全て余のためだ」


 ジュリアスは表向きはザガンの王子としてリサリアに留学して来ていることになっているが、その実レスタークス達の姉姫がザガンに嫁いだ時にその人質代わりとしてリサリアに来ているためシャルルは『捨て子』と言っているのだ。

 そのためジュリアスの立場が弱いことをいいことにシャルルはレスタークス側の情報を流すように強要している。


 「・・・なるほど、ジュリアス殿はこちら側のスパイというわけですな。さすがはシャルル殿下。恐れ入りました」、


 正直、王となる者がそんな細工に自ら手を出すのはあまりウインの好みではなかったが、それでも何もできずにただ呆然としている置物よりはずっとマシだ。国を富ませ兵を強くするのはこういう王だろう。


 (やはりあのグズ殿とは違う。リサリア王国のためにもこの方に王になっていただく必要があるようだ)


 「話をもどしますよ。ザムザ、ナターシア、ドラゴンに対してどう動くかですが・・・」


 メリッサの言葉を受け取ってウインが答える。


 「ザムザ殿は私が探ってきましょう。仮にもレスタークス殿下の守役ですからシャルル殿下が直接動かれるよりは同じ三将軍の私のほうがよいでしょう」


 「そうか。では、ドラゴンには余から書状を送っておこう。まあ、褒美で釣ればこれは容易かろう」


 「では、私がナターシアに話をつけましょう。ナターシアに話をするには王族の方がよいでしょうから」


 シャルルとメリッサもそれぞれの動きを確認する。


 「私はレスタークス殿下の側近に探りをいれます。少しあてがありますので。よい情報を期待していただきたい!」


 一人残された形になったエクセルも負けじと宣言したが、「ああそうか。頼む」とシャルルの態度はあっさりしたものだった。

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