シャルル派①
ラングたちが話し合い終えてから2時間後、シャルル王子の部屋に取り巻き連中、いわゆる『シャルル派』の主だったメンバーがシャルルの呼びかけによって集まっていた。
リサリア国第二王子シャルル、リサリア国王ルーデルの妹でシャルルの叔母であるメリッサ、シャルルの守役であり、三将軍の一人でもあるウイン将軍、シャルル直属の神聖近衛騎士団の団長エクセルの4人だ。
「今日集まってもらったのは他でもない、クロエが兄上の配下になったそうだ」
「ほう、クロエ殿が。しかし、私はまだそのような話を聞いていませんが」
シャルルの言葉にウインが軍を統括する将軍の一人である自分よりも先に知っている事に驚く。ウインは三将軍の中では一番若く、まだ40代前半だがリサリアでももっとも勢力のある家の一つだ。
「まだ、正式には任命されていないからな。だが、確かな情報だ。まあ、余に情報を持って擦り寄ってくる者は多いという事だ。ハハハッ!」
シャルルはその美しい顔で得意げに高笑いを上げる。シャルルもまたリサリア王家の者の特徴してかなりの美形だが、レスタークスの少し間の抜けたような顔と違って隙がない感じだ。
「シャルル殿の人望を持ってすれば当然の事です。しかし、クロエの件は捨て置くと面倒な事になりそうですね」
この甥に甘い叔母はシャルルをほめるのを常に忘れない。
メリッサはシャルルが幼い頃から目をかけており、守役であるウインを差し置いて自分がシャルルの後見人であるかのように振舞う事がある。
ウインからしたら面白くないことだが(このお方の勢力も馬鹿にできないからな)と今は好きにさせている。
「もしかして兄上はすでに我々の動きに気づいて味方を増やしているのでしょうか?」
「あのグズ殿にそれほどの才覚があると思えませんが、用心に越した事はありませんよ」
少し不安そうな顔になるシャルルにメリッサは優しく答えているが、ウインがそこに口を挟んで解説する。
「問題は女騎士一人が近衛騎士になったという事ではありません。クロエの父親であるベクター侯爵がレスタークス派になってしまうという事です」
ベクター侯爵は中堅どころの貴族でさほど大きな勢力を持ってはいないが、それにつられて他の貴族達がレスタークス派に流れる事を恐れているのだ。中立の中でも中くらいの勢力というのがよくないのだ。
同じように立場を決めかねている同じくらいの身分の貴族が多くいるためにそれらが流されてしまう可能性がある。
「とにかくあちらが動いた以上こちらも急がなくてはいけませんよ。お兄様も長くないでしょからね」
「叔母上いくらなんでもそれはいいすぎなのでは」
王の死を予言する叔母にシャルルは苦言を呈するが、
「いえ、現実をしっかり見るのですよ、シャルル。いいですか、お兄様、いえ王がなくなった時に対策をしっかりしておかなければあのクズ殿が王位を継ぐこともありえるのです。いえ、現時点では王がグズ殿を第一王位継承者にしている以上このままではこの国を継ぐのはあのクズ殿です。ああ、考えただけでもおぞましい!」
メリッサはレスタークスへの不快感を隠さないで続ける。
「まずはこちらの陣営を増やす事からはじめなくてはいけませんよ。質も大事ですが、こちらに大義があることを示すためには数を増やしておく事も重要なのです」
「それはそうでしょうが。戦になったときに勝てる陣容にしておかなければ・・・」
実際に戦の指揮を担当することになるであろうウインとしては烏合の衆を集められても困るのだ。
「そうなるとやはり問題になるのはザムザ、ナターシア、ドラゴンですね」
メリッサの言葉に皆が頷いている。シャルル派の者たちもレスタークス派と同じ見解をしている。
「我らの事もお忘れなく」
ここで神聖近衛騎士団長のエクセルが初めて口を開くことになった。