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第一王子はモテない  作者: 東野 千介
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嘘つきジュリアス

 シャルルの本陣では絶望的な戦況に全軍が混乱状態に陥っていた。


 「なぜ、ザガンの援軍はうごかないのです!」


 額に血管を浮かべたメリッサがヒステリックな叫び声を上げている。


 「それにジュリアスのやつはなぜ動かない。あいつが内部から混乱させるんじゃなかったのか!」


 唾を飛ばしながらシャルルも見苦しくわめいている。


 作戦は完ぺきだったはずだ。


 レスタークス軍の先鋒をこちらの部隊で引きつけておいて、その本陣が手薄になったところを国境近くに待機していたザガンの援軍が背後から襲い掛かる。そしてその混乱に合わせて内部からはジュリアスが手勢を率いてレスタークスを討ち取る。

 しかし、現実は先鋒を引き付けるどころかこちらの先鋒は一瞬にして粉砕され、今はかろうじてウインの騎士団がシャルルの本陣を死守している状況だ。


 そしてザガンの援軍も動いていない。

 もっとも存在しない援軍が動くも何もないのだが。


                    *


 決戦より数日前。


 レスタークス軍の軍議中にジュリアスのところへザガンからの使者が来たのだ。

 軍議中に席を外すことなどありえないが、その時は緊急の用と言われたためレスタークスの口添えでジュリアスはすぐに応対することになった。


 ジュリアスは自室でつまらなさそうな顔でザガンからの使者の口上をきいていた。


 故郷であるザガン王国からのこの使者は定期的に来ているが今回は定期の時期から外れて臨時に派遣されたものだ。

 何か含みがあるのは間違いないだろう。

 普通に考えたら今、リサリア王国に派遣する使者の要件と言えば一つしかない。

 レスタークスとシャルルの王位継承権争いだ。

 誰がリサリア王位を継ぐのかはレスタークスたちの姉姫が嫁いでいるザガン王国にとっても他人事ではないので自然とジュリアスの行動にもその意向が働くことになるのだ。


 「・・・つまり、僕にシャルル王子につけという事か」


 「はい。それがザガン王国の判断です」


 「その命令は誰から言われたものなんだい?」


 「もちろんあなたの兄上であるザガン王メルビア様からです。私が他の方の伝令などするはずがないではありませんか」


 「僕もそう思っていたよ。君は僕がリサリアに来てからずっと忠実にザガンからの使者をしていてくれたのだからね。君は実に信頼に値する人物だと思っていたよ」


 ジュリアスの笑顔に使者はホッとした表情になるが、ジュリアスが過去形で言っていることに気づいていない。


 「だけどねえ・・・僕が一番嫌いなのは裏切りなんだよね。そんな僕にレスタークスを裏切れっていうのかい?」


 「そのお気持ちはわかりますが、そこは心を鬼にしてでもザガン公国としての利益をお考え下さい。それがメルビア様の判断です」


 「そっかー、兄上の判断ならしかないよね・・・」


 ジュリアスは納得したように見せかけながら、ふと思い出したように、


 「あれ?でも、おかしいなあ。僕は今回の件については兄上から『ジュリアスに任せる』と言われているんだよ。ザガンとしてはこの件が終了するまでは口出ししない、僕の判断を尊重するとね。これはどういうことかな?」


 芝居がかった言い方をしているが、その目は笑っていない。


 「ご、ご命令が変更になったのでは?私は確かにシャルル王子側のお味方をするようにお伝えしろと・・・」

 

 うろたえる使者にジュリアスは大げさにため息をつく。


 「はあ~。いつからザガンと僕の繋がりが君だけだと思っていたのかな?兄上は慎重な方だから使者を一人に任せたりしないんだよ。例えば・・・その使者が買収なんかされたら間違った情報がザガンに流れたり、僕に間違った指令を伝えられるかもしれないからね」


 自分以外にもザガンからの伝令者がいたのかと青い顔をしている使者にジュリアスは詰め寄っていく。


 「し、しかし、私が嘘をついているとは限らないではないですか。そのもう一人が嘘をついている事も考えられるでしょう」


 「それはないよ。僕には嘘をついてる人間がわかるんだ。なにしろ僕自身が一番の嘘つきだからね」


 ジュリアスは残酷な笑みを浮かべている。

 使者は背筋に冷たいものが走るのを感じた。


 (このお方は本気で言っている。本気で嘘をついている者がわかると思っている)


 こうなってしまえば仮に自分が本当のことを言っていてもジュリアスにとってはそれが『嘘』になる、そう思わせる迫力がある。

 そんな使者の怯えを無視してジュリアスは続ける。


 「メリッサあたりに金でも握らされたかな?まったくあの女はこういう小細工に関しては本当に天才的だね。まさかうちの使者にまで手を出してくるとはね・・・ホント、むかつくよね」


 これ以上ないくらい冷酷な声で「むかつくよね」というジュリアスに使者は観念する。


 「わたしをどうするつもりですか?」


 「どうもしないさ。このままザガンの使者を務めてもらう」


 ニヤリと笑うジュリアスに使者はわけがわからないといった顔をする。


 「ただし、メリッサ側に僕の言う通りの情報を流すんだ。この提案を断る事は許さない。裏切る事も許さない。わかるね?さっきも言ったけど僕は裏切りがこの世で一番嫌いなんだよ。もし裏切ったらザガンにいる君の一族をなぶり殺しにする。女子供も関係ないし、全員ひどい目にあってもらう。もちろん一番かわいそうな目にあうのは君自身だけどね」


 ジュリアスは愛嬌たっぷりの目で使者の顔を覗き込む。


 「返事は?」


 「・・・わかりました。おっしゃる通りに致します」


 「いい判断だ。ああ、楽しくなってきたなあ」


 こうしてジュリアスはメリッサの買収したザガンの使者を逆に使うことで籠城していたシャルル達を城からおびき出すことに成功したのだ。


 ちなみにジュリアスがこの使者が裏切っていると判断したのは「嘘をついている人間がわかる」というあやふやなものではなく確信があった。

 ジュリアスは気分屋で適当なところがあるようにみせているが、情報に関してはいい加減なあやふやなものでは判断せずに、きちんと裏付けをとるようにしている


 以前サミーの店で受け取った見覚えのない人相書きの男をアヅチの民に調べさせて、その男がメリッサの手の者である事が判明していたのだが、その男が頻繁に会っていたのだこのザガンの使者だった。

 後は二人のやり取りを把握する事でこの使者の裏切りを決定づけた。


 あえてその事実を告げないで「嘘をついている人間がわかる」と嘘を言うところにジュリアスという者の本質があるようだった。

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