ラング対エクセル
(くくくっ、うまくいった。いかに戦が強かろうとこんな安い挑発に乗るとは所詮一介の騎士に過ぎぬという事よ。そしてあの単純バカどもは私がラングに勝てば本当に手出しはしてこないだろう)
ラングとエクセルを残してその他の全員の姿が見えなくなると、
「もう、邪魔は入らないだろう。さっさと剣を抜け」
特に感情のない声でラングがエクセルを促す。
「ほう、リサリア最強の騎士と言われるあなたでも私に先に構えさせるのですか?」
「決闘は仕掛けた方が先に構える習わしだ。誰であろうと変わらんよ」
わざと驚いたような言い方をするエクセルだがラングは淡々と答えている。
この世界では『決闘を申し込んだ方が先に構える』のが暗黙の了解になっている。相手の出方を見て構える方が有利なので申し込んだ方が少し不利になるようになっているのだ。
もっともあきらかな実力差がある場合は決闘を受けた方が先に構える場合もあるがそれはあくまでも個人の自由で実力差があっても先に構えなくても問題はない。
ちなみにラングは今までどれだけ格下の相手であっても決闘を申し込まれて先に構えた事はない。わざわざ自分の力を誇るように先に構えるのはバカがやることだと思っているのだ。
「リサリア最強の騎士を名乗るなら先に構えるくらいの余裕を見せてほしかったのですがね・・・。私なら先に構えてましたよ」
矛盾したことを言いながらエクセルが下段に構えるのを見てラングは中段に構える。
(悪くない構えだ。やはり相当できるな。こいつとまともに打ち合えるのはうちの騎士団でも5人といないだろう)
ラングはひそかに感心する。嫌な奴だが剣の腕は確かだと思う。
一方のエクセルも
(さすがにできるな。私のこの構えが中段への攻撃を想定してのものだとわかったか。それに認めたくはないが剣先にすべてを集中しているような素晴らしい構えだ。これだけでも強さがわかる)
ラングの構えに並々ならぬ実力を感じ取っている。
ただし、エクセルは一つ勘違いをしている。
ラングは相手がどんな構えでこようといつも中段に構えている。だから、正直なところ先に構えても結果は同じなのだが『決闘は仕掛けた方が先に構える習わし』なのでそうしているだけだ。
そして二人ともその構えのまま動かない。
エクセルは相手から仕掛けさせてから反撃をすること狙っている。ラングもそれがわかっているから先に動かない。
「どうした?まさかこの私が怖いのか?そんなことはあろうはずはないだろうな?レスタークスの最強の剣、ラング!」
わかりやすく挑発してくるエクセルに、
「・・・そうだな。ではこちらからいくことにしよう」
ラングは特に感情に変化のない声で答えると、わずかに剣を下げる。
(かかった! 所詮は単純なバカよ!このままこい!あと一歩踏み込んだところで貴様は死ぬのだ!)
相手が仕掛けようと足を踏み出した瞬間を狙って下段から心臓を突き刺す。足が宙に浮いている一瞬を狙うので避けることはほぼ不可能なエクセルの得意技だ。とはいえ相手が足を踏み出した瞬間を狙うなど普通の腕では無理だ。エクセルの卓越した剣技と剣速によってはじめて可能な技だ。
エクセルは歓喜の笑みを押し殺して必殺の一撃を打ち込むべくラングの死への一歩を待ち構えるが・・・。
ガアン!
「な・・・?」
エクセルが気づいた時にはすでに自分の手に剣はない。はるか後方に弾き飛ばされている。
(バカな・・・。いつ動いたのだ)
仮に相手の動きが速すぎて見えないにしてもエクセルほど実力のある騎士ならば動いたことくらいは感覚的にわかるはずだった。しかし、エクセルにはラングが動いた事すらわからなかった。
「貴様!いったいどんな手を使ったんだ!」
「どんな手もなにもただお前の剣を素早く弾いただけだ。お前はなかなか強かったぞ。さすがは神聖近衛騎士団長だ」
ラングはいつものくせで正直に感想を述べるが、エクセルには嫌味を言われたとしか思えない。
「ふざけるな!こんなものは認めんぞ・・・」
なおも何か言いかけるエクセルを無視して、
「ほら、お前は負けたんだ。あとはこの戦いの責任をとるんだ」
そういってラングはエクセルの落とし物を無造作に手渡す。
その動作があまりに自然だったのでエクセルは素直に剣を受けとるが、やがてその剣の重さと意味に気づいて顔色を変える。
「ま、待ってくれ!なぜ、私が責任をとらなければならない?私はただ命令に従っただけなのだ!ラング殿、話を聞いてくれ。貴公とてわかるだろう。シャルル王子はあの気性だ。私が逆らえるはずもない。それにメリッサ様もシャルル王子をそそのかしておられた。王族二人を相手に私になにかできるはずもない。さらには三将軍の一人であるウイン将軍もいる。そんな中で私ごときの存在に何ができたというのだ。私に罪がないとは言わないが少なくともこの戦いを主導はしていない!命令を聞いただけなのだ!」
つらつらと見苦しい言い訳をするエクセルをラングは憐れんだ目で見ながら、
「・・・そんなことは言わなくてもわかっている。お前が小物でたいした影響力を持たないのは百も承知だ。だが、レスタークス殿下はお前にすべての責任をとらせるようにとの仰せだ」
「そ、そんな馬鹿な事があるか!貴様はそれでも騎士か?罪なき者にすべてをかぶせるなどと恥ずかしくないのか?騎士としての誇りがあるからこそ私との一対一の決闘を受けた最強の騎士はどこにいったのだ!?」
どうにかして助かろうとエクセルが恥も外聞も捨てて喚き散らすのを冷ややかな目で見ながらラングは答える。
「騎士の誇り?そんなもののために決闘を受けたつもりはない。俺はお前と一対一になる状況を作りたかっただけだ。ジュリアスの奴と違って俺は口下手だからどうしようかと思案していたがお前から決闘を言い出してくれて助かったよ。おかげで殿下の命令を果たせそうだ」
「なぜ、私なのだ?レスタークス殿下はどうして私に責任を取らせようとするのだ」
「往生際の悪い奴だな。どうせ死ぬなら聞いても仕方ないだろうが・・・。まあ、殿下の暗殺計画を主導したのが一番まずかったな。正々堂々とした戦いならばここまで殿下に嫌われることもなかっただろう。後は能力的に生かしていても今後リサリア王国の役に立つ見込みがないと判断された。ああ見えてレスタークス殿下は合理的な方だからな」
「ま、待て!そんな!初めから私にこの戦いのすべての罪を押し付けるつもりだったのか?そんなことが許されるわけがない。やめろ!やめろー!」
「あきらめろ。お前が一番いらないそうだ・・・」




