レスタークス派①
一方、レスタークスの部屋を出た二人はそのまま、ある場所に向かっていく。
近衛騎士団長であるラングの執務室だ。
この部屋はリサリア王国の近衛騎士団長の部屋として代々使われてきており、その性質上機密性に優れている。
そのためここは『レスタークス王』のための同志が集まる場になっている。ただ、同志と言っても今はまだラング、ジュリアス、そしてシーファしかいないが。
「どうでしたか?」
先に来ていたシーファが待ちきれないように尋ねるがラングは首を横に振る。
「ダメだ。シャルル王子の話を持ち出しただけで機嫌が悪くなられたよ。しかし、殿下にも困ったものだ。いい加減覚悟を決めてもらわないと。ジュリアス、かなりシャルル派に動きが出てきているんだろう?」
ラングの問いに情報収集を担当しているジュリアスもため息をついてそれに答える。
「・・・正直なところ情勢はよくない。今のところはっきりとレックス側についているのは君のとこくらいだからね」
ラングが団長を務める近衛騎士団はレスタークス直属の騎士団なので味方なのは当たり前だ。そこしか味方がいないということは中立の者でレスタークスに味方している勢力はリサリア王国内に全く無いといっていい。
「ジュリアス、お前の配下はどうなんだ?」
ラングの指摘にジュリアスは顔を曇らせる。
「僕のところは表立っては動けないさ。僕はこの国の客将あつかいではあるけど、ザガンの第四王子でもあるんだ。干渉しすぎるとザガンがリサリア王国に対して野心をもっていると思われかねない。それじゃあ、この国でレックスの味方を集めるのには逆効果だよ」
「なるほどな。だが、シャルル派はすでに動いているんだ。黙っていると中立の連中を全部取られることなりかねないぞ」
「そんな事はわかってるよ!」
当たり前の事を言われてジュリアスはイライラしながら答える。そして言わなくてもいいことまで言ってしまう。
「ザガンの事を考えたら、正直シャルルが王位を継ぐほうが都合はいいんだよ。思考が単純だから扱いやすそうだからね」
「ジュリアス、貴様・・・!」
「おっと、誤解しないでよ。僕はザガンの国益とレックスを天秤にかけるなら間違いなくレックスを取るよ。それは君だって知っているだろう」
ジュリアスはいつものふざけて雰囲気を収めて曇りのない瞳ではっきり宣言する。
「お味方はラング様だけだとおっしゃいましたが、ザムザ将軍は当然殿下のお味方になってくださるのでしょう?」
シーファが遠慮がちに口を挟んでくる。
レスタークスを支持する同志として認められてはいるが、近衛騎士団長のラングや隣国の王子であるジュリアスとは立場が違いすぎるのを意識しているのだ。
「先生か・・・。そりゃそうだろう。王子の守役だぞ」
「先生は味方だとは思うけど・・・」
ラング達が先生と言っているのはレスタークスの守役でリサリア王国三将軍の一人、ザムザ将軍の事だ。
ザムザは嫡子であるレスタークスの守役を任されるだけあってその実力はリサリア国でもトップクラスだがすでに70歳を越しているために年齢面で少々不安がある。
ラングの剣の師匠であり、ジュリアスの軍略の師匠でもあるため、二人は先生と呼んでいるのだ。
「思うけどって何だよ」
歯に物の挟まったような言い方をするジュリアスにラングが怒ったように言う。
「先生は本当にレックスにつく気があるのかな・・・」
「なにを言っているんだ、ジュリアス。先生が殿下に敵対するわけないだろう。先生は殿下の守役だぞ。一番に殿下の事を考えないといけない立場だろう」
「だけど、いまだに先生に動きが無いのはおかしいよ。先生なら今どうしなければならないのかわかっているはずなのに、何もしていない。これは消極的な敵対行為に近いよ」
言いながらジュリアスはザムザの思考をなぞっていく。
(そう。確かにおかしいんだ・・・。
先生がレックスへの支持を明確にする→
レックスの勢力が増す→
レックスがシャルルに勝つ公算が高くなる→
どっちにつくか決めかねている貴族がレックスにつく→
さらにレックスの勝つ確率があがる。
・・・先生ならこれくらいはわかっているはずだ。
どうしてそうしていないんだ?まさかシャルル側に・・・)
最悪の結論に導かれそうになるが、
「敵対行為ってどういうことだ!先生が殿下に敵対するわけないだろう」
ラングの怒鳴り声にジュリアスは思考を中断される。