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第一王子はモテない  作者: 東野 千介
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リサリア王ルーデル

「わしは三日後に危篤になる」


 リサリア王ルーデルの突然の言葉にレスタークスはなんと答えていいかわからない。

 こんな時にもすぐに反応できない自分自身にレスタークスは情けない思いをするが、ルーデルそれにかまわず続ける。


 「シャルルとの決着をこれ以上延ばすのはよくないぞ」


 ルーデルの言葉にレスタークスはさらに混乱する。父が何を言いたいのかわからないのだ。

 そんなレスタークスを愛しげに見つめてルーデルは改めて言う。


 「わしは三日後に危篤になる。そこでシャルルとの決着を付けろ。この意味はわかるな。わしは見ておきたいのだ。わしが死んだ後のこの国を。いや、お前が治めるこの国がどうなっていくのか見ておきたいのだ」


 ルーデルの言いたいことはこうだろう。三日後にルーデル危篤の情報を流す。そうすればシャルルは兵を挙げるだろうから対決する準備をしておけということだ。

 相手が戦いを挑んでくるタイミングをコントロールできればこれほど有利な事はない。

 ルーデルのこの行動はレスタークスにとって望ましいはずだが、


 「しかし、父上・・・」


 とレスタークスは躊躇している。


 「こうなったのは全てわしの責任だ。本来ならわしが始末をしなくてはいけないところだが、この体ではもはやそれもかなうまい。いや、違うな。わしにはその始末をする勇気がないのだ。結局のところ我が子をこの手にかけることができない。だが、だからこそ、せめて事の顛末を生きているうちに見届けなくてはいけないのだ。すまないな。・・・いやな役目を押し付けるがやってくれ」


 偉大だった父がすがりつくようにして手を握ってくる姿にレスタークスはうなずくが、不安の大きさから反論もしてしまう。


 「私には父上のような王になるのは無理です。父上はリサリア王国をご自分の代でここまで大きくされたではありませんか」


 ルーデルはかぶりをふる。烈王と呼ばれ近隣諸国に恐れられた自分の行いを顧みるがそれは決して満足できるものではなかった。


 「わしはこの国を守るためと信じてがむしゃらにに戦い、領地をわずかばかり増やしただけだ。だが、それも今になってみると、本当にこの国を守ることにつながっているかは疑問だ。・・・ただ敵を増やしただけかもしれぬ」


 「そんなことは・・・」


 「だが、お前は違う。幼いころより人を慈しみ、大事にする心があった。真の王とはお前のような者がなるべきなのだ。よいな。わしにお前の治めるリサリア王国をみせてくれ」


 父の必死の瞳にそれ以上レスタークスは何も言うことができない。

 しかし、これほど必死の姿を見せられてただオロオロするだけの姿を見せては父が不安に思うだろう。

 レスタークスは父を少しでも安心させるために、自分の機転を示す必要があった。


 「父上。父上危篤の知らせとともにある噂を流させて頂きたいのですが・・・」


 レスタークスの提案にルーデルは(やはりこの子は優しいだけでなく物事を考える力がある)そう安心して眼を閉じるのだった。


                  * 

.

 三日後、「ルーデル王危篤」の知らせとともにある噂がひそかに流れた。


 その噂は「実は危篤ではなくルーデル王はもう死んでいるが、王は自分の死をしばらく隠すように言い残して死んだ。だからレスタークスもしばらくは戴冠式をして王位を得ることができないらしい」というものだ。


 これはもちろんレスタークス陣営の流言だがシャルル陣営は即座に反応した。

 ただ危篤になっただけではもっと慎重に動いたはずだ。

 しかし、もうすでに死亡している。そしてレスタークスがすぐに戴冠できないという二つの条件がシャルル陣営に考えをまとめる時間を与えなかった。


 シャルルは病気療養を理由に自領に戻るとちゃくちゃくと軍備を整えていく。


 ルーデルが生きている間(正式に死んだことが公表される前に)に討ちとる方が正式にリサリア王を継いだレスタークスから王位を簒奪するよりも楽だと考えたからだ。


 この考え自体は間違っていない。


 リサリア王位をレスタークスが正式に継ぐことによりシャルル達は否応もなく賊軍になるのでどうしても士気が落ちてしまう。

 なによりリサリア王になるということは『王命以外構いなし』のサンズ家を自由に扱えるようになるのだ。今は中立を宣言しているサンズ家なのでこの差はかなり大きい。

 『シャルル殿下病気見舞い』の名目で三将軍ウイン将軍をはじめとしてシャルル派の貴族たちも続々とシャルルの城に集結していく。

 ただし、シャルル派として見られていた貴族の中には何かと理由をつけて参陣しない、もしくは遅らせている者や自身は参陣せずに部下を代理として派遣する者などがおり、実際に集まったのは当初の予定されてた軍勢の7割程度になっていた。


 一方のレスタークス陣営には大きな動きはない。


 それもそのはずで「ルーデル死去」の噂を流す前にレスタークス陣営は全ての準備を整えており、シャルルの動きを待つだけになっていたからだ。


 戦を起こすタイミングの主導権を握っていたレスタークス陣営には常に余裕があった。


 そしてある程度シャルル陣営が集まって来たところでレスタークスから詰問状がシャルルに送られた。


 その内容は『シャルルが病気と偽りみだりに軍勢を集めて国を乱そうとしているのは明らかである。そのような企ては到底許すことができない。直ちに全ての軍備を解除し、シャルルが単身で王宮に釈明に来なければ攻め滅ぼす』といった激烈なものだ。


 当然シャルルがそれに従うはずもなく、『レスタークスこそ国を乱している。もし攻めてくるならば我らは正義のため迎え撃つ』と詰問状を突き返す。


 こうして両軍の敵対は明らかになったのだが、どちらも相手の城に攻め入るまでにはいたっていなかった。



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