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第一王子はモテない  作者: 東野 千介
敵か味方か
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アズチ・ムラクモ

 メリッサの使者が暗殺部族アズチの頭領、ムラクモを訪ねていた。

 もっともアズチが暗殺部族として活躍したのは一昔前の話で今は暗殺稼業から手を引いている。

 四十過ぎの中肉中背で暗殺者というよりは人のよさそうな商人のような顔をしているムラクモの姿からは暗殺部族の長だとは想像できないが、逆にその姿こそが優秀な暗殺者である証にも思えた。


 「名前はいえぬがある高貴な身分の方からの依頼だ。ある者を殺して欲しい」


 「・・・我らはすでに裏の仕事から手を引いている。即答はできんな」


 ムラクモのそっけない言い方を使者は気にする様子もない。ある程度予想されていた返事だったようだ。


 「そうか。では、三日後にまた来る。そのときに返事きかせてくれ」


 「しかし、ある者を殺して欲しいでは漠然としすぎている。もう少し言えることはないのか」


 「詳しい内容は依頼を受ける事が確定してからだ。依頼を受けてくれれば報酬は思いのままだと考えてくれていい」


 使者が去った後にムラクモは独り言のようにつぶやく。


 「名前は言えぬ・・・か。我らも侮られたものだな」


 「あれはメリッサの手の者ですな。つまりシャルル王子が関係しているのでしょう。そうなると狙う相手は決まってますな?」


 ムラクモの隣に控えていた銀髪の男が無表情で問いかける。暗殺稼業から身を引いたとはいえ最低限の情報取集は行っている。今、リサリア王国でお家騒動が起こっていることはアズチでも把握していた。


 「そうだな。以前も自前の暗殺者を放っていたようだし、狙いはレスタークスで間違いないだろう・・・」


 ムラクモはそれに答えるが、銀髪の男に返事をしたというよりは自分自身に情報を整理させるために答えているようだった。


 「頭領よ。どうする?多少暮らし向きは楽になっているが一族の者たちはいまだに苦しい生活をしている。思いのままという報酬は魅力的だぞ。ここは決断の時ではないのか?」


 男の無表情は相変わらずだが、気持ちがはやっているのは見て取れる。


 (こやつでもここまで興奮するか。無理もない。我らにとって国の大事に関わるのは久しぶりだからな。ここで伸るか反るかで大きく一族の運命が変わるだろう)


 普段は余計な事を言わない側近の男の変わりようにムラクモは逆に冷静になる。


 「このような事は我らだけでは決めれられぬ。あの方に相談してみよう。我らの恩人にワルド老に・・・」


                  ※


 アズチの民はかつて暗殺を生業にしていた少数民族だ。土地のやせた山岳地帯の出身で狩猟や物々交換で細々と暮らしていたが5代前の代のリサリア王がその狩猟の腕を見込んで暗殺者として一族丸ごと雇い入れている。

 ただ、2代前の王の時代の相続争いの際に双方に暗殺者として雇用され大いに国を乱している。そのため、国を乱した元凶として処罰され、リサリア王国専属の暗殺集団としての地位を追われたのだ。

 現王であるルーデルの時代には生き残ったアズチの民は元の山岳地帯に押し込められて、貧しい暮らしをしていたのだが、数年前から国の保護もらうようになり真っ当な暮らしをしているがそれも楽ではない。

 その保護を受け取れる様にしてくれたのが当時の会計係をしていた下級貴族のワルドだった。それ以来アズチの民はワルドを徳として恩に感じて事あるごとに訪ねていたのだがある時に「いつも来なくてもよい。あまり来られると心苦しい、何かあった時だけくればよい」とワルドに言われてここ数年は疎遠になっていた。


 「ここか・・・」


 商人の格好をしたムラクモが訪れた建物からは子供たちの楽し気な声がもれ聞こえている。


 「やあ、久しいな。どうしたのだ」


 笑顔で出迎えてくれたワルドは好々爺といったかんじだ。

 会計係として優秀な官吏だったワルドは、アズチの民が訪ねなくなった数年前に引退して城下町で主に町民の子供たちを相手に算術の塾を開いているのだ。


 「少しお話があったのですが、また改めて伺いましょう」


 お客が来たことも気にしないで騒がしくしている子供たちを見てムラクモは去ろうとするが、


 「いや、その必要はない。もう塾の時間は終わっておるのだ。この子たちは自主的に残って勉強しているだけだからな。お前たち、わしは客人と話がある。適当なところで帰るのだぞ」


 ワルドがそう言うと子供たちは素直に「はーい」と答えているが、一向に帰る様子はない。しばらくはここに居座る気らしい。

 ワルドは苦笑しながらムラクモを教室の隣の部屋案内する。部屋といっても簡素なもので椅子が3つあるだけで他には何もないし、窓からは教室の様子がよく見えるので教室からもこの部屋の様子は丸見えだろう。

 ただ、子供たちのあれだけ騒がしかった声がほとんど聞こえないので見た目以上に防音には優れているようだった。


 「我らにとって一族の恩人というべきあなたがまさかこのような事になっていようとは知りませんでした。不徳の致すところです」


 「何か誤解しているようだが、わしは今の生活を気に入っているぞ」


 いきなり頭を下げるムラクモにワルドは笑いながら手を振る。


 「お隠しになることはありません。ここに来るまでにあなたの事を調べることになりましたのでだいたいの事情は分かっているつもりです」


 「調べたのか・・・。さすがはアズチの民だな。知られたくはなかったのだが」


 ワルドはバツの悪い顔をする。『こういうこと』になる少し前に「来なくてもよい」と言ったのは今の生活を隠したかったのだろう。


 「申し訳ありません。しかし、我らを助けるためにあなたがこのようなことになっていたとは・・・」


 「どこまで知っておるのだ」


 「我らアズチの民の暮らしを補うための金を国の会計係であったあなたが正規の手続きを怠って持ち出した。そしてそれが露見して金の使い込みとして処罰を受け、官職をはく奪された・・・。

 しかし、それは表向きの話。もともとはあなたからアズチの民のために資金を出す事を提案されたレスタークス王子が金を出すことを許可していたのにも関わらず、そのことをすっかり忘れて報告していなかった。それゆえ、あなたが勝手に金を持ち出したことになった。つまりあなたはちゃんと手続きを経てしていたのにレスタークス王子の怠慢のせいで横領の罪に問われることになった・・・。これで間違いありませんか?」


 「間違いない・・・。わし以外の者が知っている真実としてはな」

 

 「よく知らべたな」と言いながらワルドはムラクモの調査をやんわりと否定する。

 


 「それはどういう意味で・・・?」


 「あの時は実際にわしの判断で勝手に金を持ち出したのだ。以前からアズチの民の窮状は訴えていたが、なかなか採決がおりなくてな。このままアズチの民が追いつめられれば、いずれ暴発すると思った。もちろん国の金を採決を経ずに一会計係が無断で持ち出すのは重罪だ。露見したときは当然わしは死罪すら覚悟していたよ。それをレスタークス殿下が『俺がワルドに金を出すように命令していたのだがそれを大臣に伝えるのを忘れていた』とかばってくださったのだ。わしは『愚かな王子に振り回された被害者』として扱われたがそれでも正規の手続きをしなかったとして数年後に引退させられるという形で穏便に処罰されたわけだ」


 「では、以前噂になっていたレスタークス殿下が大金を使い込みをしたというのは・・・」


 「この件がゆがんで伝わったことだろうよ。全くあのお方はいいわけの一つもしないでいるからこのような事になるのだ。そこがいいところでもあるのだが・・・」


 いつもにこやかな表情をしているワルドだが、レスタークスの事を話すときはより穏やかな慈しむような顔になっている。


 「しかし、どうして今になって来たのだ?」


 何かあったときにしか自分のところに来ないように言っていたムラクモが来ているのだ。それ相応の理由があるに違いないとワルドは思ったのだ。


 「・・・実はシャルル殿下からの使者が我らに仕事を頼みに来たのです。それであなたにどうしたらよいのかとお知恵を借りにきたのです」


 「アズチの民への仕事・・・暗殺か。わしが隠居をしている間にそれほど事態は進んでいたのだな」


 引退した老騎士であるワルドだがいつになく鋭い目つきになる。


 「ムラクモよ。良いことを知らせてくれた。もし、レスタークス殿下が立たれるのであればわしも一人の騎士として微力ながら戦い参加させていただくつもりだったのだ。うっかりタイミングを逃すところだったわ」


 笑っているがその目は鋭いままでこの老人にこれほどの活力があったことにムラクモは驚きながら、


 「ワルド様。私もここに来て良かったです」


 冷静にしかし決意をもって言うのだった。

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