人の名前はしっかり覚えよう
(あの時はマジで引いたよなあ。いくら美少女とはいえ侍女に初日に命懸け宣言されたら誰だってビビるっての)
レスタークスはシーファの可愛らしい顔を見ながらその時のことを思い出す。
命懸け宣言をされて呆然としていたレスタークスをしり目にシーファはかいがいしく世話をしてくれたものだ。
そして他の者がいなくなって二人きりになったときに「私、あの日の事を今でも感謝しております」と言われたが、思わずレスタークスは「あの日の事?」と返事をしてシーファにひどく怒られたものだ。「そういうのよくないですよ!」と。
「そういえば侍女として初めて殿下に御挨拶に伺ったときに私のことをすっかりお忘れになっていましたよね?」
「え・・・、そうだったかなあ」
レスタークスはとぼけようとするが、シーファは遮るように、
「いえ、私のような取るに足らない者など殿下に覚えて頂けなくても当然です。なんの問題もありません」
「いや、あれ以来、俺も反省して出会った者の顔は覚えるようにしている。記憶力はあまり良い方ではないが皆、覚えているつもりだよ」
バツのわるそうに頭をかくレスタークス。
「全員覚えていらっしゃるのですか?」
「そうだ。俺も努力しているのだ」
鼻を鳴らし、胸を張るレスタークスだが、
「つまり、殿下に忘れられた事があるのは私だけだと?」
シーファの目が笑顔のままでぎらりと光る。
「ま、まあ、そういうことになるかな」
完全に目をそらしているレスタークス。
シーファは大きくため息をつく。
「・・・わかりました。失礼いたします」
「あ、おい、シーファ・・・」
「わたくし、怒っていませんから」
にっこりとほほ笑んで出ていくシーファ。
「・・・めちゃくちゃ怒っているじゃないか」
レスタークスは呟きながら改めて考える。
(どうもシーファは俺の事を過大評価しているよ。俺は本当に『シャルルのマントを破いたのか。それはまずいな』としか考えてなかったんだ。それでない頭を使って自分のマントと交換しただけなんだ。シーファの言うように俺が賢くて立派な人間ならもっとマシな手段を考え付いたはずだよ。)
「なんか疲れた・・・」
そうため息をつくレスタークスには確かに難しいことを考える頭はないようだった。