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第一王子はモテない  作者: 東野 千介
敵か味方か
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ドラゴン騎士団③

 ドラゴン騎士団来るの一報が来る数日前。


 自室で休んでいたベテルギウス・ドラゴンのもとに長男のシリウス・ドラゴンがやってくる。

 3年前に病に侵されてからベテルギウスはほとんど自室から出ることなくなっており、今ではシリウスがドラゴン騎士団を統括している。

 しかし、ドラゴン騎士団の未来を決めるようにな重要な事はこうしてベテルギウスに相談しに来ている。


 「シャルル殿下からの使者が来られていますが、どうされますか」


 「会う必要はない。用件だけきいておけ」


 シリウスはベテルギウスのそっけない返事に「わかりました」と答える。

 例え王族からの使者であろうともベテルギウスは遠慮をしない事を知っているからだ。もっともサンズ家と違って『王命以外は構いなし』という特権は新参者のドラゴン家にはないのであくまで病身のためと丁寧に断っている。

 用はすんだとばかりにシリウスは部屋から出ていこうとして、ふと立ち止まりもう一言付け加える。


 「そうそう、レスタークス殿下からも使者が来ていましたよ」


 去り際に言い放ったシリウスの言葉にベテルギウスは大きく反応する。


 「レスタークス殿下の使者ならば会わなければなるまい。ここへ・・・、いや、わしが出向こう」


 ベテルギウスが起き上がろうとするのをあわててシリウスが押しとどめる。


 「もう、使者は帰っています。ベッドで寝ているというと書状だけ残して帰っていったのです」


 ベテルギウスは「そうか」と言って目を閉じると、シリウスに聞こえるか聞こえないかの声で「わしに断りもなく余計なことをしおって」とつぶやくが、やがて思い直して、


 「それで、レスタークス殿下の使者の持ってきた書状はどこにある?早く持って来るといい」


 「それが・・・。もう捨ててしまいました。我らには必要ないと思いまして」


 シリウスは悪気なく言うが一瞬にしてベテルギウスの顔色が変わるのがわかる。


 「なぜ、そのような事をしたのだ!勝手なことをするな!馬鹿者があ!」


 ベテルギウスはベッドの近くに置いてあった水差しを掴むとシリウスめがけて投げつける。

 ガッシャーン!

 粉々になった水差しの破片が足元に散らばるが、シリウスは動くことができない。

 戦場で『ドラゴンの咆哮』と呼ばれ、敵を震え上がらせていた父の気合の入った怒鳴り声に圧倒される。


 (この声・・・。恐ろしさで身体がしびれるようなこの感覚・・・。これがドラゴン・・・)


 父に代わってドラゴン騎士団を率いるようになってから、自分では一人前になった気になっていたが、この声一つとってみても自分がまだまだ父には及ばないのが良くわかる。


 3年前に病に倒れた後にシリウスを後継者と決めてからは「お前が思うようにせよ」とシリウスが何をしても「次期当主が決めたことだからのう」と声を荒げることなど一度もなかったベテルギウス。 

 自分の死後に双子であるシリウスとプロキオンが争わないように後継者は兄のシリウスで弟のプロキオンは部下だとお互いの立場をはっきりさせて、周りの者たちに見せつけていたベテルギウス。


 しかし、そのベテルギウスが久しぶりに大声でシリウスを叱責している。

 その豹変ぶりにシリウスはすくみあがって言葉も出ない。


 「まあ、捨てたものは仕方ない。内容は覚えておるのだろうな?」


 青い顔をして黙り込んでいたシリウスにベテルギウスが怒りを抑えながら問いかけると、


 「・・・はい。ごく短い文書で『シャルルからも書状が来るだろうが、この度はシャルルは負けるだろうから味方するのはやめておいたほうがよい』と。あとはただの病気見舞いでしたよ。父上の具合はどうか。精のつく食物をいくつか持ってきているので食べさせよ。との事でした」


 「もったいない事よ。わしなんぞに・・・」


 シリウスの言葉を聞きながらベテルギウスは涙ぐんでいる。

 苛烈な性格で戦場では悪鬼のような働きをしていたベテルギウスが涙を流すなどシリウスは今まで見たことなかった。

 シリウスは父親の意外過ぎる反応に困惑を隠せない。

 自分が思っていた反応とまるで正反対なのだ。


 (レスタークスは我らドラゴンの仇敵だと思っていたが、父上のこの反応はなんなんだ?)


 シリウスが呆然としていると弟のプロキオンが勢いよくドアをあけて入ってくる。


 「兄上、いつまでシャルル殿下の使者殿を待たせているのです。さっさとご返事をしましょう!シャルル殿はこの度の戦いで自分に味方すればグズ殿の領地や近衛騎士団の直轄領など莫大な恩賞を約束してくださっているそうですよ」


 口の軽い使者が漏らしたのかプロキオンは恩賞の事をもう聞いたらしい。そして父であるベテルギウスに向き直ると、


 「父上!やっとあのグズ殿に我らの恨みを晴らす時がきましたな!思えば長い道のりでしたが、強欲などと呼ばれてまで力を蓄えていた甲斐がありました。ついに我らが義のために戦えるときがきたのですね!そうでしょう父上!・・・父上!?」


 シャルルの使者が来たことを知り『ついに仇敵レスタークスを討てる』とプロキオンは興奮を隠さないが、父と兄の意外な静けさに戸惑っていた。

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