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第一王子はモテない  作者: 東野 千介
城下町の賑わいは危険な香り
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ボエモンド・ベクター

 クロエがシャルル派に潜入して一週間がたつ頃、再びジュリアスがクロエのもとを訪れていた。


 「やっぱり、レスタークス殿下の暗殺を命じたのはシャルル殿下で間違いないみたい。もっともウイン将軍は知らなかった事みたいでかなり怒ってたらしいわ」


 クロエはそう報告しながら憤りを感じているようにみえる。きれいな顔に怒りの表情が見てとれる。


 (真面目だねえ。暗殺ってのはうまくいくといい手ではあるけど、バレたり、失敗したらこうやって敵を増やすわけだ)


 ジュリアスはクロエの怒りが当然だとは思わず、クロエの若さからくる(ジュリアスと同い年の17歳だが)純粋さからだと感じるが、それは顔には出さないで、


 「そうか。まさかとは思っていたけど・・・。ありがとうクロエ、よく調べてくれたね」


 ジュリアスはすべてを知っているくせにいけしゃあしゃあと言い放つ。

 なぜこんなわかりきっている事をクロエに調べさせたかと言えば、


 「どうかな。やはりレックスの方が王にふさわしいと思わないか?」


 この一言をクロエに言うためだ。


 「そうね。正直、シャルル殿下本人もその取り巻きも私には合わない人たちだったわ。とても王にふさわしいとは思えないわ」


 シャルル派に潜入させることで彼らがいかに下劣な者たちだと感じさせる。それこそがジュリアスの狙いだったがうまくいったようだった。


 「でも、そう思わない人が多いみたいでね。正直、レックスの方が旗色が悪いんだよ。そこで・・・」


 「わかってるわよ。私の父上をレックスにつくように説得してくれっってことでしょ」


 「さすがだね。ベクター侯爵が味方に付いたらいろいろと助かるんだよ」


 ジュリアスは『いろいろと』と含みをもたせた言い方をする。


 「言っておくけど期待しないでよ。父は娘の私が頼んだからと言って自分の考えを変えるような人ではないわよ」


 クロエの父親であるボエモンド・ベクターは娘が近衛騎士団に所属したにも関わらず中立を保っている。

 これはレスタークス派にもシャルル派にも誤算だった。

 レスタークス派としては当然、自分たちの陣営に入ってくると思っていたが丁重に断られている。

 そしてシャルル派としても娘が近衛騎士団に所属してもレスタークス派にならないなら、シャルル派に入る決心がついたと接触を図るが、こちらもうまくはぐらかされていたので両陣営ともにその真意を測りかねていた。



                    *           

 

 クロエはジュリアスに「見込みはない」と言っていたが、父親であるベクター侯爵にちゃんと頼みに来ていた。


 「・・・ですから父上にもレスタークス殿下側について頂きたいのです」


娘の話をベクター侯爵は目を瞑ってきいていたが、やがて口を開く。


 「それでお前はレスタークス殿下とシャルル殿下どちらが勝つと思う?」


 「私はレスタークス殿下が勝つべきだと思います」


 クロエはハッキリとした口調で言うが、ベクター侯爵は『やれやれ困った娘だ』といった感じで答える。


 「なるほど、勝つべきだと思う・・・か。お前も騎士ならわかっていると思うが勝つべき者が勝つとは限らないのだぞ」


 父親の物がわかったかのような言い方にクロエは失望する。


 (姑息な人だ。だからこそこういう地位にいるのかもしれないけど)


 ベクター侯爵は決して戦につよくないが、政治的駆け引きの要領の良さで下級貴族から中級貴族にまで成り上がった人物なのだ。


 「父上がどうであれ、私は近衛騎士団の一員としてレスタークス殿下のために剣をふるいます」


 クロエは敵意にも似た視線を向けるが父親はさして気にしていないように答える。


 「まてまて、わしもレスタークス殿下が必ず負けるとは言っていない。現状では確かにシャルル殿下が優位に見えるがそれはウイン将軍がシャルル殿下についている事が大きい。もし、ウイン将軍に匹敵する者がレスタークス殿下につけば状況はひっくりかえるだろう」


 リサリア王国三将軍。ザムザ、ナターシア、ウイン。この三人の存在はかなり大きい。そのうちの一人ウインがはっきりとシャルルについているのはやはりベクター侯爵にとっても無視できない事のようだ。


 「匹敵する者・・・。それはザムザ将軍とナターシア将軍ですか?」


 「いや、それはないだろう。わしはお二人に確認したが『どちらもにつく気はない』と言っておられた」


 ベクター侯爵は即座に否定する。


 「では、やはり父上は勝つ側のシャルル殿下につくのですか?」


 「そう結論を急ぐな。確かにお二人とも『どちらもにもつかない』と言っていたがその後で『勝つのはレスタークス殿下だ』とも言っていたのだ。あのお二人がなんの根拠もなくそんな事を言うとは思えない。・・・が、だからと言って現状の勢力を考えるとそれを鵜呑みにもできない」


 「父上はいったい何をおっしゃりたいのです!」


 回りくどいい方をする父親にクロエはつい大きな声を出すが、ベクター侯爵は落ち着いて答える。


 「つまり、わしはまだどちらにつくか決めかねているということだ。それをジュリアス殿にお伝えするといい」


 「なぜ、そのような事を・・・」


 クロエはドキリとする。ジュリアスから頼まれたことを言い当てられたからだ。


 「隠すな。ジュリアス殿の考えはわかっている。特に志もなく、勝てる側につこうと思っている中堅貴族の動向が知りたいのだろうよ」


 ベクター侯爵は娘に教えを授けるように言う。


 (ただ、姑息なだけではない。この人はかなり考えているんだ。だからこそジュリアスは父上の動向を知りたかったのね)


 クロエは尊敬はできない父親だと思ったが、それでも父親のような生き方もあるのだろうと納得をするが、


 「しかし、父上がレスタークス殿下について頂ければ、それに追随して他の中立で悩んでいる貴族もレスタークス殿下についてくれるのではないですか?」


 なおも引き下がらない娘に、


 「そう簡単なものではない。人の思惑などわからぬものだ。まあ、お前が何と言おうとわしの考えは変わらんよ。しかし、さきほどのザムザ将軍とナターシア将軍の言葉はジュリアス殿に伝えておくといい。これはわしの好意だよ」


 ベクター候は恩着せがましくいうのだった。


ここで2章が終わりです。

登場人物が多くなってきたので簡単な2章終了までの点での登場人物紹介を次話に載せますが読まなくても問題ないです。


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