エクセルの誘い
「やあ、クロエ。少しいいかな?」
「なんでしょうか」
エクセルから話しかけられたクロエはそう答えながら、(なるほど、これのことか)と思う。
ジュリアスから近衛騎士団の剣術訓練の帰りに「数日後にシャルル派から君に接触があると思う。たぶん、エクセル、もしくはウイン将軍かな。その時にできたらでいいんだがどうにか情報を引き出して欲しい。君が近衛騎士団の一員としてレックスに尽くす気持ちがあるならね」と言われていたのを思い出す。
(レスタークス殿下の事を完全に認めたわけではないけれど・・・)
「私もエクセル殿とお話したいと思っていたのです。よかったら人のいないところでお話しましょう」
「む、そういう話もいいが、今は真面目な話なのだ」
そう言いながらもエクセルはまんざらでもない表情だ。美形ではあるエクセルが締まりのない表情をしているのが間抜けに見えてクロエは思わず笑みがこぼれそうになる。
(バカなのかしら。この人は。いや、この人だけでなく神聖近衛騎士団は全員こんな感じだったかしら。そういう事しか頭にない集まりだものね。近衛騎士団とは大違いだわ)
「人に聞かれてはまずい話ではないのでしょうか。そういう意味で申し上げたのです」
「ほう、俺が何を話したいのかわかっているのか?なら、話は早い。私が個人的に使える部屋があるからそこへ来てもらおう」
(神聖近衛騎士団長の執務室ではなくて個人的に使える部屋・・・ね。あまり気が進まないけど仕方ないわね)
エクセルが女の子といろいろいたすために城内に用意している部屋があるのは知っている。と言っても別に無理に連れ込んでいるわけでもなく、呼ばれる女の子も喜んで行っているらしいので問題にはなっていないが。
(まあ、その気もない女の子に力づくですることもないって言うし大丈夫かな)
そこいらの男なら腕づくで来られても負けることはないと思っているがエクセルに関してはラングから「クロエ、君は一対一なら神聖近衛騎士団の上位騎士にも引けを取らないだろう。だが、エクセルと戦うのはやめておけ。今の君ではやつには勝てない」と言われている。エクセルは人格は最低だったが剣の腕は確かなのだ。
部屋に入るとクロエはすぐに話を切り出す。余計な事を言ってエクセルに隙を与えたくなかった。
「グズ王子の事でしょう?私はあのグズ王子に仕える事になったものの実際はあきあきしているのです。聡明なシャルル様にご協力したいと思っているですが・・・」
そう言いながらクロエは我ながら白々しいと思う。クロエは今ではレスタークスの事をグズだとは思っていないがあえてそういう言い方をしてエクセルに合わせている。
(さすがにそう簡単には引っかからないかしら?我ながらへたくそな芝居だわ)
クロエは自分には演技の才能がないと感じるが、エクセルは喜色を隠さないで
「そうか!さすがはクロエだ。それなら話は早い。ぜひ、俺たちにの仲間になってくれ。やはり俺の目に狂いは無かったな!わはははは」
(チョロいわね。でも、これでいいのかしら)
あまりにも簡単に引っかかったエクセルにクロエは少し同情する。
「しかし、本当に私などでよろしいのでしょうか?」
「何を心配している。もともとクロエのように優れた騎士が落ちこぼれどもの集まりの近衛騎士団に所属させられた事自体が間違いだったのだ。君は実力あるエリートの集まる神聖近衛騎士団こそふさわしい。それに美しいしな!」
クロエは差し出してくる手を眺めながら、
(近衛騎士団が落ちこぼれねえ・・・。確かに一見パッとしない騎士が多いけど、戦士としてはやるべきことは着実にこなす人材がそろっていると思うけど)
そんなことを思いながら「よろしくお願いします」と握り返したのだった。
こうしてクロエはエクセルの手引きでシャルル派に潜入する事に成功する。
そこでの出来事はクロエの今後を決定的にするものだった。




