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第一王子はモテない  作者: 東野 千介
城下町の賑わいは危険な香り
21/58

 近衛騎士団長ラングの執務室では怒号の嵐が吹き荒れていた。


 もっともこの執務室は完全に防音なので外にはもれていないが、その嵐に二人の男たちが身を小さくしている。


 「どーいうことですか!レスタークス殿下の護衛をクロエ様一人にしてたなんて!」


 「いや、それは・・・」


ラングが何か言いかけるが、嵐の主であるシーファにすぐに遮られる。


 「殿下の護衛は5人以上にしてそのうち一人はラング様自らが務めるって言ったから私は今回の作戦に賛成したんですよ。相手は殿下を暗殺しようとしているのに万が一の事があったらどう責任を取るつもりだったんですか!」


 今にも掴みかからんばかりのシーファを持て余したのか、助けを求めるようにジュリアスのほうをみる。

 ジュリアスはやれやれと肩をすくめるとラングに助け舟をだそうとするが・・・。


 「今回の作戦はラングが護衛を務めるつもりだったんだけど、それを・・・」


 「やっぱり、お前かー!このインケンチビのスケコマシー!」


 ジュリアスには皆まで言わせずにシーファはその胸倉をつかんで思いっきり上下左右に揺さぶっている。


 「ちょっ、やめ・・・。ぐえええ」


 顔色がみるみるヤバイ色になっていくジュリアス。


 「まあ、それくらいで・・・」


 「他人事みたいな言い方をするな!お前も同罪なんだよ!このウドのケンジュツバカが!」


 シーファの小さな身体のどこにそんな力があったのか止めに入ったラングに向かってジュリアスを投げ飛ばず。 


 「うおっ」さすがにラングはジュリアスを上手に受け止めるが、両手がふさがったところへシーファはすかさず蹴りをいれてくる。


 「ぎゃああああ!」


 ラングに盾にされたジュリアスが悲鳴を上げる。


 「やめとけって。お前がどんなに怒って本気になっても俺には勝てんよ」


 こんな時でもラングは強い。この状況に流されないところもラングの強さの一つなのだろう。


 「そうね。確かに私ではあなたに傷をつけることはできないわね・・・。っは!」


 「ぎえええええ!」


 あきらめたそぶりをみせながらシーファは再度蹴りを繰り出し、またも盾代わりにされたジュリアスが犠牲になっている。

 これにはジュリアスもたまらなくなったのか、


 「ま、まってくれって。今回の作戦はレックスの指示なんだよ。護衛をたくさんつけたら暗殺者が襲ってこないだろうから、護衛を一人にするってレックス自身が言ったんだって!」


 「殿下の命令・・・」


 レスタークスの命令と言われるとシーファは急におとなしくなる。


 ように見えたが・・・。


 「そうね。それなら仕方ないわね・・・。とでも言うと思ったかー!それでもし、殿下にかすり傷一つでもついたらどうしてくれるー!」


 そう言ってシーファはジュリアスをボコボコにしている。レスタークスはかすり傷一つでもダメらしいのにひどい差だ。


 「俺がかすり傷一つ負わせるものかよ」


 シーファの連打をジュリアスで受け止めながら、ヒヤリとするほど真剣な顔でラングが見据えてくる。

 その様子には威圧的なものもなく、そうかと言って、その言葉は軽くなく落ち着いた覚悟を感じさせる。

 だが、それを台無しにするように、


 「僕は今、死にそうなんだけど・・・」


 ジュリアスが息も絶え絶えと言った感じで答える。


 その二人の様子を見て少し頭が冷えたのかシーファは、


「そもそもお二人はどうしてそんなにも殿下に心酔されているのですか?」


 シーファはこの二人と同志になったものの、その理由は知らない。ただ、レスタークスの味方になってくれる人物を探していた時に同じようにレスタークスの味方を集めようとしていたラングとジュリアスに行きついたのだ。


 ラングはなにか考えるかのように「ふむ」と一息つく。


 「シーファは覚えているか?レスタークス殿下が国宝の宝玉を傷つけた時の事を」


 「ええ。あの時は大変な騒ぎでしたね」


 リサリア王国初代国王がこの地を治めるにあたり神から授かったと言い伝えられているいわばリサリア王国の象徴ともいえる宝玉が傷つけられたのだから無理もない。

 レスタークスの王位継承権が危うくなった事件の一つだ。


 「あれを傷つけたのは俺だ」


 「はあ・・・あれを傷つけたのはラング様ですか・・・ってえええええええ!」


 「うん。いろいろあって、あやまって傷をつけてしまった」


 「いや、いろいろあってって・・・その話本当なんですか?」


 「ああ。俺が傷つけた」


 あまり淡々と話すラングにシーファの頭の回転が追い付かないらしい。


 (ど、どういうこと?なんかラング様は冷静ですけど、かなりめちゃくちゃな事を告白してるじゃないですか)


 そんなシーファの様子を笑いをこらえきれないように見ながら今後はジュリアスが話し出す。


 「僕はもっとシンプルでね。ザガンからの留学生という名の人質だった僕を友人として認めてくれたからだよ」


 「・・・なんかジュリアス様は浅いですね」


 シーファはちょっとにあきれるが、ラングが口をはさんでくる。


 「シンプルに言いすぎだろ。本当はもっと・・・」


 「いいだろ!その話は!」


 ジュリアスは何かを言いかけたラングをにらんでいる。

 どうもこの話もそう単純ではなさそうだった。


 (このお二人も私と同じように殿下に救われていたのね。やはりレスタークス殿下は素晴らしい方です!) 


 シーファはすっかり嬉しくなってしまい自分の事も話しておこうと思った。

 「わたしは・・・」シーファはレスタークスによって救われた結婚式のマント事件を意気揚々と話すが・・・。


 「うわーひくわ。シーファのが一番ひどいね。あの事件はザガンでも語り草になっているからねえ。それが侍女の仕業だったなんてねえ」


 ジュリアスが目を見広げて大げさに言う。


 「さすがにこれはない。あの事件さえなければ殿下がここまでシャルル殿下に軽んじられることもなかったのだが・・・」


 いかにも残念そうにラングはため息をついている。


 「ええええ・・・」  


 せっかく話したシーファだったが同志の二人に全く共感されない可哀そうな結果になる。


 「と、とにかく。私たちは殿下のためなら命を投げ出せる。そういう集まりですよね」


 そこまでの覚悟を持った二人が認めてレスタークス自身が考えたことならシーファもこれ以上文句は言えないと思ったが、もう一つだけ確認しておかないといかない事があった。

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