尋問②
鎖につながれた男たちの悔しそうな表情に一種の満足感を覚えながらジュリアスは語りかける。
「そう興奮しないでよ。君たちの言いたいことはわかるよ。僕が君たち、というかシャルル殿下を嵌めたって言いたいんだろう?
でも、それは逆恨みだよ。僕はシャルル殿下に頼まれた『レスタークス殿下の護衛が少なくなる時』の情報を提供しただけじゃないか。頼まれたことをしたんだから感謝こそされ、恨まれる覚えは全くないなあ」
バカにするように「なあ」の語尾を上げて言うジュリアス。男たちが怒りを抑えながら黙っているとさらに続ける。
「しかし、まさか僕の情報を利用して君たちの様な暗殺者を送り込むとは思わなかったなあ。僕も軍師として先が読めると思っていたけど、まだまだだなあ」
しゃあしゃあと言い放つジュリアスにさすがに男の一人が怒りの声を上げる。
「この嘘つきが!貴様がシャルル殿下をそそのかしたのは知っているのだぞ!」
「そそのかしたなんて~。人聞きの悪い。僕はただ『レックスがろくな護衛も連れずに城下の祭りに繰り出すらしいです。これはチャンスですよねえ』ってシャルル殿下に伝えただけだよ。そうしたら勝手にシャルル殿下が君たちを送り込んできただけじゃないか。僕は『チャンス』って言っただけで一言も『暗殺が成功しそうだから暗殺者を送り込め』なんて言ってないよ?」
ジュリアスは『自分は正論を言っている、なんの問題もないだろう』と男たちを諭すようにいうとさらに続ける。
「わかるかい?せっかくの『チャンス』にシャルル殿下が暗殺者を送り込むなんて言う卑劣で頭の悪い手段をとらなければこんな事にはならなかったんだよ。つまり悪いのはシャルル殿下ってことだね」
「減らず口をたたくな!」「おのれ!」「許さん!」男たちは感情的にシャルルを非難するがリーダー格の男がそれを制して、
「では、なんのつもりで『チャンス』だと言ったのだ?他に解釈があれば聞かせてもらいたいものだな」
意外と冷静な態度でジュリアスに問いかけると、
「え?そんな事もわからないの?レックスがこんな時期にろくな護衛も連れずに秋祭りに繰り出すような愚か者って噂を流せばいいじゃん。噂っていうか事実だし。そうすれば中立派の貴族たちも呆れてシャルル殿下のお味方になるっていう寸法さ。
まったく、情報の生かし方もわからないようなバカだとわかっていたらもう少し丁寧に教えてあげるんだったんだけどねえ」
挑発するジュリアスだが、リーダーはまだ落ち着いている。
「では、レスタークス殿下に隠れた護衛を多く配置していた事にはどう説明する?そして貴様自身が隠れた護衛の一員をしていたのではないのか?あれほどの弓の腕前を持つ者はこの国には貴様の他にはいまい。これは貴様が裏切者でなければ説明はつくまい」
「えー?急に弓の腕前を褒められてもなあ。照れちゃうよ~。でも、弓の腕前がすごいってだけで僕って決めつけられてもなあ・・・」
ジュリアスはもったいぶった言い方をしながら、
「まあ、ぶっちゃけ僕なんだけどね。それ痛い?ごめんね~。でも、ちゃんと後遺症が残らないように狙ったからきちんと治ると思うよ」
自分が弓で怪我をさせてた二人に話かけると傷跡が痛むのか、悔しさなのか包帯を押させている。
リーダーの男は全て諦めたようにため息をつく。
「やはり貴様の仕業か。貴様は信用ならないとお伝えしたのだがな。上の者に取り入るのはうまいようだが我らからしたら貴様は典型的な嘘つきだよ」
「そう、僕は先生と違って『嘘つくタイプ』の軍師だからねえ。さっきもホントはドSなのにドMって嘘ついちゃった。シャルルってすぐ騙されるから面白いんだよね!」
もう、シャルルへの敵意を隠す必要もないとばかりにジュリアスはシャルルを呼び捨てにしだす。
そしてジュリアスにはさらにもう一つ嘘がある。
さきほどこの部屋の防音は完璧だといったが、それは正確ではない。防音自体はかなりの物にしているがそれとは別にひそかに伝声管をつけており、その会話を別室でレスタークスとラングが聞いているのだ。
「では、今回の件を画策したのは全てお前なのだな?」
リーダーの男の質問にジュリアスは大きく首を振る。
「まさか。レックスをおとりにするなんて大それた作戦を僕が考えられるわけないだろう?万が一のことを考えたらそんな作戦を立案できるのは一人だよ。僕はレックスの作戦に従ってシャルルに情報を流しただけさ」
「・・・まさかレスタークス殿下が自ら考えられたのか?」
「そっ、この作戦はレックス発案だよ。自分を危険にさらしてもいいってところがレックスらしいけど、ちょっと危ないよね。僕ならもう少しうまくやるよ」
ジュリアスの自分ならもっとうまくやるという自慢を無視してリーダーの男は少し考えこむと、やがて口を開く。
「このような作戦を考える事ができるとは・・・。グズ殿は今までわざとクズを装っておられたのか」
「いやいや、レックスはそんなに器用な方ではないよ。あの感じがありのままだよ」
ジュリアスがおかしそうに言うのを伝声管でききながら「あいつ、俺が聞いているのを知っているはずだよね」とレスタークスは憮然として横に控えているラングに言う。
全てレスタークスの掌の上で転がされていた。そう考えると不思議なもので襲撃者たちはいつも気の抜けたような顔しているレスタークスが空恐ろしくなってくる。
「では、レスタークス殿下は我らの事を使ってシャルル殿下を糾弾されるつもりなのか?」
「それがそんなに簡単じゃなくてね。レックスはこの件を公にする気はないらしいよ。公にしたところでシャルル側は知らぬ存ぜぬで通すだろうってさ」
(甘いことだよ)ジュリアスは心の中でそう付け加える。
「まあ、これでレックスの決心もついただろうね。今までは『シャルルと争いたくない』なんて甘いことを言ってけど、暗殺者を送り込んでくるほど相手側が敵意を持っているのが証明されたんだからね」
ジュリアスは襲撃者たちにというよりは、伝声管を使って話を聞いているはずのレスタークスに向かって言ったのだった。




