王国最強
仲間二人があっという間にやられて男たちは混乱する。ジュリアスは移動しながら弓を射ているので、男たちからはどこから狙われたかもわかっていなかった。
(どこから狙ったにしろ動いている人間の腕に当てるなど尋常の腕前ではない!)
襲撃者のリーダーの男は(ここは退くべきだ)と判断するが、それは一歩遅かった。
逃げようとした男たちの前に一人の大男が立ちはだかる。
近衛騎士団長、ラングだ。
ラングは無造作に持ったすりこぎの様な短い棒でバシバシといとも簡単に男たちを殴りつけていく。
もちろん男たちも武器をふるって抵抗しているのだが、まったく相手になっていない。
高速でフェイントを入れたり、熟練と言っていい剣技を使っているのだが、ラングにはまるで通用しない。
動かない案山子のように殴られて気絶させれていく。
男たちが急に弱くなったわけではない。ラングが桁違いに強すぎるためにそう見えるのだ。
(嘘でしょ・・・。本物の化け物だわ)
クロエは自分が『2人を同時に相手にするのが精一杯』と思った敵を剣すら使わず一瞬で打ちのめしたラングの強さに驚きを隠せない。
「クロエ、よくやった。えらいぞ」
全員を倒した後にラングが子供をほめるように言うが、実際にそれくらいの実力差があるので文句も言えずクロエは苦い顔をする。
「クロエ、助かったよ」
今度はレスタークスがお礼を言ってくるが、結局自分は役に立っていないのではないかと思う。
(敵を倒したのはジュリアスとラング。最初に敵の存在に気づいたの殿下。私は何もできていない)
とそこまで考えたところでクロエは疑問に思う。
(私ですら警戒していなければ気づかないほどのわずかな殺気に殿下はどうやって気づく事ができたの?)
「殿下、どうしてあの時彼らが敵だとわかったんですか?」
「ああ、彼らはさも顔見知りのように近づいてきたが、一度も町で会ったことがなかったからな。それが顔見知りのように話しかけてきたのはおかしいだろ」
「・・・殿下は城下で会った民の顔を全て覚えているんですか?」
「ああ。俺は昔は物覚えが悪くて全然人の顔が覚えれなかったのだが、ある人物にその事を怒られてな。それからは出会った者は誰であろうと覚えるようにしているのだ。それに国民の顔を覚えるのは王族として当たり前のことだろう?」
「そうですか・・・」
呆然とするクロエにラングが声をかけてくる。
「見直したか。殿下の事を」
「まあ、見方は変わったわね・・・」
「王とは民に慕われ、民を守る者だ。そして俺たちはその王を守る近衛騎士団だ。あの方を王にしたくないか?近衛騎士達はみんなそう思っているだがな」
ラングはレスタークスへの忠誠心を隠すことなくストレートにクロエを勧誘してくるが、クロエにはまだラングに聞きたいことがある。
「ところで私を今回殿下の護衛にしたのはあなたの差し金かしら?」
「なんだ?不服なのか?」
「そうじゃないけど、どうしてなのかと思って。どうも敵が襲ってくるのはわかっていたみたいだしね」
だしねに妙なアクセントをつけて言うクロエにラングは少し考えると、
「俺の差し金というのは半分正解だな。もともとクロエを今回の護衛にしようと言い出したのはジュリアスだが俺も賛成したからな。クロエなら適任だと思った」
「私、適任だったかしら?」
「ああ、クロエくらい強ければ、一人で王子の護衛につけても不安はなかった」
大真面目に言うラングだが、あれだけ非常識な強さを見せつけたラングにそう言われるのは馬鹿にされているように思える。
「私、強いかしら。あの程度の相手を倒せなかったのに」
「馬鹿言うなよ。あいつらはなかなか強かった。あの程度なんて相手じゃないぞ。それが五人もいたら倒せなくて当然だろう」
これまた大真面目な顔で言うラングだ。
「じゃあ、なんであなたは倒せたのよ!」
あまりにも平気な様子のラングにクロエはイライラしながらつっかかるが、
「どうして俺が倒せたのかわからないのか?」
真顔で聞き返すラングに、クロエは
(そりゃ、あなたがあんなやつらをものともしないくらい圧倒的に強いからでしょ!)
と心の中で悪態をつくしかない。
ラングは馬鹿ではないが、あまりにも物事を説明しなさすぎると思う。いや、馬鹿ではないから説明しなくてもわかることを説明しないだけなのか。
「わかったわ」
「そうか。わかってくれたか!じゃあ、殿下に忠誠を・・・」
「あなただけでは納得できない事がわかったから、ジュリアスにも聞いてくるわ」
クロエはそう言い捨てるとジュリアスのところへ向かう。




