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第一王子はモテない  作者: 東野 千介
城下町の賑わいは危険な香り
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路地裏にて

 レスタークスの視察は続き、やがて祭りの区画から出てもまだ終わらないらしい。

 それどころか町はずれの人気のない路地に入っていく。


 (こんなところまで見て回っているのかしら。さすがに必要ないと思うけど)


 クロエがそんなことを考えていると、


 「いやあ、殿下お久しぶりです!今日はどうされたんすか?こんなきれいな人を連れて。殿下も隅に置けないっすね!」


 いかにも軽薄な感じの5人組の若者がレスタークスに話しかけてくる。

 みるからに街のチンピラといった連中だが、積極的に話しかけてくる民たちの中にはこういう連中がいる。


 (こんな連中とまで仲良くするなんて。帰ったら少し注意をしよう)


 今回の視察の中でレスタークスを見直しつつあったクロエはようやくレスタークスのダメな所を発見できたと鼻息荒く満足するが、


 「クロエ。敵だ」


 レスタークスの一言にクロエはすぐに警戒レベルを最大限に引き上げる。このあたりはクロエが騎士として優れている証拠だ。


 「で、殿下。ご冗談を・・・」


 チンピラの一人が愛想笑いを浮かべているが、警戒レベルを引き上げた今ならクロエにもはっきり分る。


 (こいつらは敵だ。気の抜けたような話し方をしているが、かすかに殺気がもれている。タダのチンピラではない)


 クロエはレスタークスをかばうように前に出る。


 「いやいや、そんな怖い顔・・・しないでくださいよ!」


 先頭の男はそう言いながら隠し持ったショートソードでするどく突いてくるがクロエはそれを抜き打ちで弾き返す。

 それを合図にその他の男達もいっせいに刃物を取り出してくる。


 (ショートソードが3人に、ナイフが2人か。路地奥に奥に引き込まれていたら不利になっていたわね)


 クロエは剣を構えたまま横目でレスタークスに気を配るが、その隙を見逃さずに男達は襲い掛かってくる。


 「くっ!殿下は逃げてください!」


 (こいつら、強い。ただのチンピラではありえない太刀筋をしている。それにあのナイフいやな色をしている。なにか塗っているわね)


 クロエはかなり剣に自信があるが、それでも目の前のショートソードの2人を同時に相手にするのが精一杯だ。

 右の男のショートソードを弾きながら、その勢いで左の男に斬りつけるが浅い攻撃になってしまう。追撃しようとするが、相手も黙ってはいない。二人同時に息を合わせて斬りつけてくるのを一方を剣で受け止め、もう一方をかわす。

 なんとか2人の攻撃をしのぎながら無理を承知で少し前に出る。そうする事で後ろの3人を前に通さないようにしているのだ。


 路地に引き込まれる前に対処できたことが幸いしたが、それでも数的不利な事には変わりない。


 (だから護衛一人で城下町に出るなんて反対だったのよ!)


 クロエはレスタークスにそう言ってやりたいと思いながら今は目の前の敵に集中する。


 騒ぎに気付いたのか町の者たちが出てくるが、遠巻きにして近づいてこない。

 気にはなっているが剣を持って暴れている者たちを相手にどうしたらいいのかわからないのだ。


 (彼らに殿下の保護を頼む?いや、それは無理か。ただの町の者にそんなことはできない。でも、どうすれば・・・)


 クロエは少し考えるが、


 (とにかく倒すことだ。それしかない)


 あれこれと考えるのをやめてすべての能力を相手を倒すことに集中させる。

 そういう鍛えられた戦士としての優秀さがクロエにはあった。

 しかし・・・


 (剣が重い・・・)


 クロエはそう思う。

 実戦はこれが初めてではないが、自分の命以外を守りながら戦うのは初めてだった。


 レスタークスが殺されてしまったら意味がないのでどうしてもそちらに思考を割かれることになる。守りながら戦うことの難しさをクロエは痛感する。

 このようにクロエ自身は思うように動けていないと思っているが、刺客から見たらかなり俊敏な動きをみせいたらしい。


 (これほどの護衛がついていたのは誤算だった)と彼らを驚かせていた。


 暗殺者としては正体が判明した以上長引かせるのは得策ではない。長引けば人が集まってくるので決着を早くつけたいだろう。

 しかし、不思議な事に彼らは無理には攻めてこない。

 むしろショートソードの二人はお互いを守るように戦っているために、クロエの方が時間稼ぎをされているようなかっこうだ。


 (殿下を殺すことが目的なのに前に出ずに守りに入っている?まさか・・・)


 「殿下!野次馬に気を付けて!」


 クロエがそう叫んだと同時に周りを囲んでいた町の者たちの中から一人の男がレスタークスに一直線に向かっていく。


 (やはり、伏兵がいた!だけど、この位置からでは・・・)


 今、レスタークスの方を向いてしまえばクロエは対峙している二人に背後から襲われるだろう。


 (迷っている場合じゃない!)


 クロエは意を決してレスタークスの方へ向かおうとするが、


 「があああっ!」


 悲鳴を上げたのはレスタークスに向かってきた男だ。その腕には矢が刺さっている。そそして足元にナイフが転がる。これもおそらく毒が塗ってあったのだろう。


 「遅いよ」


 レスタークスは聞こえるわけもないが、その矢を放った者につぶやく。


 「ごめん。遅くなっちゃった」


 向かい側の建物の屋根の上から弓を引いたジュリアスは聞こえても無いのにそれに答えながら次の矢をクロエの背後に迫っていた男の腕に命中させる。

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