御神体
クロエはその後もレスタークスに引きずられるよう秋祭りを堪能する。
そんな秋祭りの露店の中に妙に人だかりができている店がある。秋祭りの露店はどの店も繁盛しているが、その店の盛況ぶりは際立っていた。
(ここはなんの店なのかしら?なんかごちゃごちゃしてるけど。まあ、焼き魚ではないみたいだしどうでもいいわ)
クロエがそんな風に思って通り過ぎようとすると
「殿下!まいどどうも!」
やたら愛想のいい少女が店先から声をかけてくる。
「サミー、相変わらず商魂たくましいな。店で売っている分でも十分稼ぎがあるだろうに露天までだしているのか」
サミーと言われた少女は
「あったり前ですよ!店での儲けは店での儲け!こういうイベントでは普段来ない客層が来るし、売り上げが伸びるんだから当然参加しますよ!」
と鼻息荒く主張してくる。
「殿下ここはなんの店なんですか?やたら人物画が飾ってあるようですけど・・・」
クロエが指摘するようにこの店には人物画ばかりある。
普通、人物画は金持ちの依頼主を描くだけで描かれた絵は依頼主の家に飾られるだけだ。こんな風に他人の人物画を飾る者などクロエの常識ではいないはずなのだが・・・・。
(なんかこれ・・・。私に似てるような・・・)
飾ってある絵の中に黒髪の女騎士が真剣な表情で剣を構えている絵が妙に自分に似ている気がしてクロエがそう思って絵の下の方を見ると
『美しき雌豹、クロエ・ベクター』
と書いてある。
「雌豹~!どーいうことよ!」
「あっ、これ評判いいんですよね!女性画の中では二番目に売れてますからね!」
憤るクロエを気にしないでサミーは嬉々として答えている。
「なんで勝手にこんな物売ってるのよ!」
「え?だって殿下が売っていいって・・・」
「でんくわあああ!」
今にも斬りつけてきそうなクロエに、
「まあ、いいではないか。すごいぞ、クロエ。売れ行きいいみたいだぞ」
レスタークスはのん気に答えている。これまでのやり取りで任務に忠実なクロエがどんなに怒ったとしても自分に刃を向けないことをレスタークスはわかっているのだ。
「いいわけないですよ!」
「なぜだ?それだけ売れているということはクロエが皆に認められているということだろう?それが悪い事なのか?認められるのはいい事だろう?」
「それは・・・。っていやいや今回はおかしいですって!!」
レスタークスのさももっともらしい言い方にクロエはごまかされそうになるが、なんとか踏みとどまる。しかし、そんなクロエを無視してレスタークスはサミーに問いかける。
「ちなみに女性画で一番売れているのはどれだ?」
「それはもちろん『王宮の可憐な花、シーファ・フリージア』ですよ!女性画だけでなく総合一位です!」
サミーが指さす先にはメイド服のシーファが落ち着いたたたずまいで柔らかく微笑んでいる絵画がある。さすがに総合一位だけあってシーファの美少女っぷりを余すところなくあらわしていると言っていい。
「なんせ殿下の口添えでシーファちゃん本人にモデルをしてもらいましたからね!他の盗み見たり、想像で描いた人たちとはあたしも気合の入れようが違いますよ!」
確かに他の絵とは違って視線が完全に向けられており、書き込みもより細かい。
「良く描けているだろう?俺もそう思ったから購入して俺の部屋に飾ろうとおもったのだがシーファに『そんな事やめてください!そんなことされたら、私、死んじゃいます』とまで言われて拒否されたんだよなあ。シーファはわりと俺に好意を持っていると思っていたんだがやっぱり王子だからいろいろ遠慮してくれてただけなんだろうなあ」
残念そうに言うレスタークスに
「ねえ、これ本気で言ってるの?」
あきれたように尋ねるクロエに
「はい。困った事に本気なんです」
サミーも残念そうに答えている。
普段の接し方からシーファがレスタークスの事が好きなのは丸わかりで、気づいていないのはレスタークスと「レスタークスのようなグズを好きになるはずがない」と思い込んでいるエクセルなど一部の者を除いたら、ほとんどの者がそれを知っている。
(シーファちゃん、可哀そう・・・)
「そうだ!殿下、よかったらシーファちゃんにお土産を持って帰って下さいよ」
サミーの提案にレスタークスは飾ってある絵を見渡す。
クロエやシーファの絵以外にもどこかで見たような者たちの絵が、サミーが名付けたらしい二つ名付きで所狭しと飾ってある。
『王国最強、ラング・フランドル』、『ザガンの好色王子、ジュリアス・ザガン』
『乙女のあこがれエクセル・ボーディ』、『高貴な輝きシャルル・リサリア』など
「そうだな・・・。どれを買おうか・・・」
レスタークスが悩んでいると、サミーは一枚の絵を店の奥から出してくる。
「殿下、悩む必要はありませんよ!これに決まってます!」
サミーが持ち出してきたのはいつもの気の抜けたような顔ではなく、やたらとキリリとした表情で決めているレスタークスの絵だ。もともと美形ではあるのでキリリとしていたらかなりの男前に見える。
「これか?こんなのあげたらパワハラじゃないのか?」
渋るレスタークスだったが、「殿下、これにしておきなさい」とクロエに優しく諭されてしぶしぶ購入したのだった。
これがのちにシーファに『御神体』として崇められる物になろうとはこの時は誰も予想していなかった・・・。




