アナザーストーリー:看病
みょんちゃんの回。
アナザーストーリーです。
私は白玉楼の庭師、魂魄 妖夢と言います。
私は最近白玉楼にやって来た新風でとても楽しい生活を送っています。
それがこの白玉楼の主である西行寺 幽々子様の命令で私の剣術指南をされているユイさんと言う方です。
ユイさんはかつて、あまりの強さに「鬼龍」とも呼ばれていてその力を恐れた偉い方々によって封印されたと聞いています。
それを解放した大妖怪、八雲 紫様によってユイさんは幻想郷の住人となり結界の警備を任されたそうです。
しかし、そのやり方が悪く私達に「異変」と判断されてしまい、それを償うべく私に剣術を教えています。
それからどうやら私はユイさんの事がその…なんと言うか…好きみたいです。
想いは…伝えられていませんが。
きっかけは修行の初日の夜で、私に弱みを打ち明けてくれたユイさんはとても儚く見えました。
しかし、忘れているかの様にユイさんは振る舞っています。
ユイさんにとって私との関係はただの師弟なのかも知れません。
そう思うと少し苦しい気持ちになります。
「おはようございます、ユイさん!」
「ん? おはようさん。」
この方が竜人のユイさんです。
朝は井戸の前で挨拶をするのが私達の日課です。
赤いくせっ毛が天衣無縫に遊んでいるのを直したい衝動を私は必死に押し殺しました。
以前は白い髪だったのに何故赤色になっているのかは私には分かりません。
慣れた様子でユイさんは井戸から水を汲み上げると顔を洗います。
「へックショイ!! あぁ、畜生。やたらと今日はくしゃみが多いな。」
そんな事を呟きながらユイさんは桶の底に残った水を捨てるとその場を去っていきました。
風邪でしょうか?
もしそうなら、あまり外を彷徨いて貰うのは困るんですが…
幽々子様に伝染ったら一大事です。
亡霊でも風邪を引くのかは分かりませんが。
ご飯を作る為に台所へ向かうとユイさんがお粥を作っていました。
ユイさん自身でも風邪気味である事は自覚しているみたいです。
お鍋を覗き込むと生姜を初めとして健康に良さそうな食材がたくさん入っていました。
「妖夢、今日はあまり修行の相手にはなれなさそうだ。風邪を伝染したらいけないからな。」
そういうとユイさんは手ばやくお粥を盛り付けると、台所から出ていってしまいました。
何処と無く避けられている様に思えて悲しくなります。
ユイさんなりの心遣いなのは承知していますがどうしてもユイさんに嫌われているのではという不安も拭いきれません。
そんな不安を抱えながら私と幽々子様の朝食を作ります。
ニジマスの西京焼きに挑戦してみました。
「うん、上手く焼きあがった。」
川魚でもうまく行くんですね。
私は朝食を2膳持って居間で待っている幽々子様の前に朝食を置くと私の分も同じように座卓に置いて食べ始めます。
「妖夢、ユイはどうしたのかしら?」
幽々子様が聞かれます。
「風邪気味だったので恐らく感染を避ける為に別の所で食べているのかと。」
「呼んで来なさい。彼もまた一時期とはいえ白玉楼の人間なのだから。」
幽々子様は有無を言わせない顔でこちらを見ています。
どうやら怒っている様です。
「…呼んで来ます。」
ユイさんの部屋に行くとそこでユイさんは剣の手入れをしていました。
「ん? どうした?」
「幽々子様がお呼びです。ご飯は全員で食べろって仰っていました。」
「そうか。まあ良いさ。少し待ってな。」
そう言ってユイさんは魔法陣に剣をしまうとゆっくりと立ち上がりました。
「行くか。新しく飯盛ってくるから先に戻ってて良いぞ。」
「分かりました。」
ユイさんは空になったお椀を持ってとても病人とは思えないしっかりとした足取りで居間に向かっています。
居間に戻ると幽々子様はまだご飯に手を付けずに待っていました。
意外と情に厚い人(亡霊)なのです。
席に着くと、少し遅れる事を報告します。
「そう、じゃあもう少し待ちましょう。」
そういって幽々子様はユイさんが戻ってくるまでいっさい手を付けずに待っていました。
戻ってくると、ユイさんが驚いた様に幽々子様を見ています。
「食ってりゃ良かったのに。」
「全員揃ったら食べるわ。」
「はいよ。悪かったな。」
そう言うとユイさんは私の向かいに用意されている席に座りました。
少し緊張するのが自分でも分かるくらい感じています。
幽々子様はユイさんをしばらく睨んでいましたが、やがて手を合わせていつもの様に挨拶をしました。
「頂きます。」
「「頂きます。」」
その後は少し気まずい空気の中でご飯を食べました。
こんな空気の中ではご飯の美味しいも何もあったものじゃありません。
味のしないご飯を食べた後は剣の修行ですが、今回は陰さんと陽さんが相手になってくれました。
私は本領の二刀流で相手をさせてもらいましたが、おふたりはユイさんに負けず劣らず強いです。
特に、ぴったりと息のあった攻撃には防戦一方です。
一方を攻撃しようとすると、もう一方がそれを防いで来ます。
普通の方には絶対に出来ない芸当でしょう。
「お前らもっと手加減してやれ。」
いつの間にか縁側に座っていたユイさんが陰さんと陽さんに言います。
「…はいよ。」
「承知した。」
陽さんは渋々と、陰さんは忠実に答えました。
「良いか妖夢。2人は一見隙がない様に見えるからまずは剣の軌道を見切ってみろ。意外とコイツらにも弱点はある。」
ユイさんは私にも言います。
「はい!」
そう言われて私はおふたりの剣の軌道を見るために避けることに専念します。
おふたりもそれに気付いてか少し笑顔を見せました。
笑顔を返しながらも軌道を読む事に集中します。
少しずつ避けていく内になんとなくおふたりの隙が見えて来ました。
「はっ!」
鋭い呼吸と共に陽さんに向かって一閃します。
ガツン!
そんな音がして手の中が軽くなります。
手元を見てみると折れた木刀が手の中にありました。
「痛ってえ…」
振り返ると陽さんがお腹を抑えてうずくまっています。
「大丈夫ですか!?」
「大方、本体を体の中にちゃんと隠さなかったんだろう。心配する必要は無い、自業自得だ。」
そういって陰さんは陽さんを見下ろします。
「お見事。ふたりの隙をよく見つけたな。」
ユイさんが私に笑顔を向けます。
顔が熱くなって私は俯いてしまいました。
「…? どうした? 顔赤いけど、風邪でも伝染ったか?」
「ユイ、部屋に戻っててください。それ以上は体が冷えます。」
陰さんが助け舟を出してくれました。
「…そうかい。んじゃ。頑張れよ。」
そんな事を言ってユイさんは部屋に戻って行きました。
陰さんが大きなため息を吐きました。
「…あの阿呆。鈍感過ぎる。」
陰さんは私の想いに気づいているみたいです。
その後、陰さんは陽さんも追い払うと私と1対1で修行する事になりました。
木刀で鎬を削り合いながら陰さんは話しかけてきます。
「男っていうのは残酷じゃないか? そう思った事はないか?」
状況からは想像もできない話題に私は剣の力を弱めてしまいました。
ぐいっと木刀が迫ります。
なんとか持ちこたえて陰さんを見てみるとその顔は悪戯した時の様に笑っていました。
意外とお茶目なところもあるみたいです。
「妖夢殿がアイツの寝間着の袖の裏に刺繍した花も知っているさ。『リナリア』だろ。」
そういうと陰さんは青い髪を揺らして楽しげに片目を瞑ります。
完全に手玉に取られています。
「『殿』は要りません。どうせユイさんにとっては私はただの弟子ですから。」
そう言って意図的に剣の重心をずらすと陰さんの剣先があらぬ方向を向きます。
「ほう…」
そんな声を上げながら陰さんはユイさんと同じ様に持ち直して攻撃を返して来ます。
そんな風にお話を混ぜながら私は陰さんと昼食を作る時間まで修業し続けました。
昼食を作りながらユイさんが朝作っていたお粥を温め直しておきます。
その途中にいたずら心を起こした私は梅干しを少し、お粥に加えました。
以前、ユイさんに梅干しを食べさせた時に酸っぱくて顔を歪めた事があったのでささやかなお返しです。
「ふふふっ」
自然と笑い声が口から出て来ます。
「随分と楽しそうだな。」
「〜〜〜〜〜!!!!」
いつの間にか隣に来ていたユイさんから私は素早く距離を取ります。
「い、いつの『みゃ』にそこに…」
あぁ、穴があったら入りたいとはこういう事を言うんですね…
見事に噛んで思わず赤面します。
「落ち着けって。邪魔ならどっか行くから。」
「いいえ! 大丈夫ですから! 全然、大丈夫ですから! 失礼します!」
そう言うと私は作ってあった昼食をお盆に乗せると、逃げる様にその場を後にしました。
情けない…
いつまでも半人前なのも頷けます。
肩を落としながら居間に昼食を運びます。
幽々子様のいつも座る定位置に昼食を並べて私も定位置に付きます。
「ふふっ、妖夢もお年頃なのね。」
急に幽々子様がそんな事を言います。
「えっ!?なっ何を言っているんですか!?」
慌てる私に幽々子様はただ笑うだけでそれ以上は何も言いませんでした。
「ん? なに話してるんだ?」
「ひゃあ!!!!」
いつの間にかユイさんが居間に戻ってきていました。
その手にはお粥が盛られたお椀が乗っていました。
「なんでもないです!」
「そうよ、ユイ。あなたには関係ないわ。」
珍しく幽々子様に助けて頂きました。
「いや、絶対何かある時の常套句だろ、それ。」
「本当に、なんでもありませんから! 幽々子様! 食べましょう!」
「私が食いしん坊みたいに言うのね。」
「そんな事ないのは私が一番知っていますから!」
ユイさんは楽しそうに笑って自分の定位置に腰を降ろします。
「楽しそうだな。」
「〜〜〜〜〜!!!!」
私はため息を吐くとその場に大人しく座っている事にしました。
こうして今度は、私だけ味のしない昼食を食べる事になりました。
梅干しの罠?
もちろん成功しましたよ。
「酸っぱ! 梅干しか!? 水!」
ユイさんが顔をしかめます。
私も幽々子様も知らんぷりです。
ユイさんに睨まれているけど日頃のお返しです。
昼食が少し美味しくなりました。
午後は基本的に自由時間です。
「人里にでも行ってみようか…」
そういうと、長い階段を飛んで近くの人里まで来ました。
最近はユイさんも来て食料の減りが少し早いので高めの頻度でここを訪れる必要がありそうです。
肉屋さんや八百屋さんでいろんな野菜を買い込みます。
しかし、生物は保存を利かせずらいのであまり買いません。
「さて、帰りますか。」
その時後ろから大声が聞こえました。
「化け物がいるぞ! 出て行け!」
振り返ると何人の大人が私を指差して叫んでいます。
仕方のない事でしょう。
人間はそれ以外のものとは群れようとはしません。
拒絶するか、服従させるかです。
私は急いで人里から出ようと足を速くします。
しかし、先に囲まれてしまいました。
「人間の里で買い物なんてしやがって!」
「人間の恐ろしさを見せてやる!」
そういうと飛びかかって来ます。
しかし、その攻撃が私に届く事はありませんでした。
一斉に私を囲んでいた人たちが飛ばされます。
私の仕業ではありません。
それでも状況が理解できない人からしたら私が悪者の様になるでしょう。
ユイさんが私の前に立つまでは自分でもそう思っていました。
「やめろ。せっかく飲みに来た珈琲が不味くなる。」
静かに人を威圧する声でユイさんは言葉を紡ぎます。
「何だてめえ!」
「こいつの男か!?」
「こいつ使って遊んでやろうぜ!」
彼らはそんな事を言いながら気色の悪い笑みを浮かべて私に近寄って来ます。
今度は暴力のためではなく、自分の欲の為です。
ユイさんの前までくると彼らは立ち止まりました。
「痛い目に遭いたくなかったらさっさと逃げな。その女だけで勘弁してやる。」
ガンを飛ばしながらユイさんに言います。
対するユイさんは顔こそ見えないものの呆れているのが肌で分かります。
「その言葉、そのままお返しするよ。」
次の瞬間、彼らが一斉にユイさんに殴りかかります。
ガツン! ポキ!
そんな音が響き渡ります。
「いだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「骨! 骨が!」
見ると殴りかかった人達全員の手がありえない方向に曲がっています。
ユイさんはため息を吐くと彼らに向かって説明を始めます。
「お前さん方は『人間こそ至上』って考えを持っているんじゃなかったか? だったら、人ならざる者の連れが人ならざる者であることぐらいは察しが付くと思うんだがな。まあ、今回は絡んだ相手が悪かったな。戦闘のみに体を特化させた竜人には勝てまい。」
そういうと私の方を振り返ります。
「怪我はない? とは言っても無いと思うけど。」
「はい。ユイさんのお陰です。」
「俺は私利私欲の為に動いただけさ。目の前で暴力沙汰が起きていて珈琲なんてゆっくり飲めるかよ。怒鳴り声がうるさい事うるさい事。」
そういうとユイさんは人里では場違いな洋風の建物まで歩いて行きました。
扉に手を掛けた時、何かに気付いたのか私の方を見ます。
「時にお前さん、外の世界で珈琲なる物があるんだが飲んでみない?」
唐突なお茶のお誘いでした…
ここは喫茶店の中。
向かいの席にはユイさんが珈琲を手にしています。
その時、店員さんが珈琲を運んで来ました。
不思議な格好をしていて、革製の服を元とした服装をしています。
「どうぞ。」
「ありがとうございます。」
店員さんは珈琲を置くとそのまま立ち去っていきました。
白い陶磁の湯のみの中には黒い液体が入っていて、そこからは何とも言えない良い香りが漂っています。
恐る恐る一口飲んでみました。
「苦いです…」
ユイさんはカラカラと笑っています。
「梅干しの仕返しだ。」
その笑顔に中身をかけたくなるのを必死で抑えます。
その後、長い時間をかけてゆっくりと中身を嚥下して行きます。
ただ、慣れてしまうと意外と美味しかったので中身を撒かなくて良かったです。
半分ほど飲んだところで私はユイさんに聞きました。
「そういえばユイさん。あの骨を折るのはどうやったんですか?」
「ん? あぁ、簡単な事さ。殴りかかる寸前で鱗を出して硬化させて防いだんだ。殴りかかったあいつらの力がそのまま返ってきて全員骨折って訳。お前さんの剣もあれで防いだろ。」
私は異変を起こしたユイさんに斬りかかった時、片手で防がれたのを思い出しました。
今の状態を考えると…少し気まずい思い出です。
「じゃあ、風邪は大丈夫なんですか?」
「まあね。風邪ぐらいで動かなくなる様な体はしてないさ。」
「それでもお体に触るんですから気を付けてくださいよ。」
「はいよ。」
のんびりと返事をしてユイさんは珈琲を口に含みます。
穏やかな午後が過ぎていきました。
ユイさんは2人分のお金を机に置くと立ち上がりました。
「おし、帰るか。」
「店員さんに声はかけなくて良いんですか?」
「一応、知り合いがやってる喫茶店だから黙って出て行っても文句は言われんよ。」
そういうと慣れた様子でユイさんはお店を出て行きました。
白玉楼に帰ると夕食の準備です。
「ユイさん、うどんを作りましょう。」
「うどん? なんだそれ?」
その言葉に私は絶句してしまいました。
「…悪かったな、時代遅れで。」
ユイさんは不貞腐れてしまいました。
「ごめんなさい! そういうことじゃなくて!」
私はなんとかユイさんにうどんの事を説明します。
「…なるほど。病人にも優しく病気じゃなくても食う美味い物って言うことだな?」
「そう言うことですね。」
「おし、じゃあ作り方を教えて。」
こうして、2人でうどんの生地を作り始めます。
「面白い作り方するんだな。」
「生地を練る為とはいえ、踏むって言うのは普通はしませんからね。」
そんな風に会話を挟みながら第一段階を終わらせたらしばらく寝かせます。
「寝かせるとどうなるんだ?」
「生地が柔らかくなって美味しくなるんですよ。」
うどんを寝かせる時間は長いので、その間の半刻(1時間)は仕事の時間です。
その間に私はつゆを作ります。
とは言ってもすぐに終わる作業なのでその後に茹でる為の大釜を用意して水を入れていきます。
ユイさんは風呂場を洗いに行きました。
そんな風に仕事をしていたらあっという間に半刻が経ちました。
また生地を適度に練ったら今度は10分ほどまた寝かせます。
仕事を済ませてしまったので今度はその間、暇な時間を過ごします。
「…こうして何も話すことがないと10分ってのは案外長いものなんだな。」
「そうですね。楽しい事をやっている時や忙しい時はあっという間に時間が過ぎていくんですけどね。」
「お前さんの成長を見るのはあっという間なんだがなぁ。」
そういってユイさんは陽気な笑い声を響かせました。
ただ、無理に笑っている感じが少し、私を不安にさせました。
そんな風にたわいもない会話をしていると10分が過ぎていきました。
打ち粉を振るって、麺棒で生地を引き伸ばしていきます。
「面白いぐらいに伸びるんだな。」
「そうですね。十分に伸ばしたらこれで打ち粉を振るってびょうぶだたみにして、包丁で細く切って茹でたら完成ですよ。他にも、いろんな行程はありますけどね。」
そう言いながら、細く切っていく為に生地をびょうぶだたみにしていきます。
「手際がいいな。どこに嫁に行っても恥ずかしくなさそうだ。」
それを聞いた途端、心臓が跳ね上がって手元が狂ってしまいそうになりました。
「危ない!」
ユイさんが手首を掴んでくれなれば手を切ってしまっていたでしょう。
「あ…ありがとうございます。」
心臓が痛いくらいに脈打っています…
これ以上何かされたら気絶するんじゃないでしょうか…
自分でも顔が赤くなっていくのを感じられます。
「すまん。」
そんなそっけない声でユイさんは私の手を離しました。
「…いえ! 助かりました。」
少しホッとする気持ちもありますが、何と無く残念な気持ちもあります。
小さくため息を吐くと、うどんを切っていきます。
「ユイさん。うどんの茹でる大釜を沸騰させておいてくれませんか?」
「はいよ。」
そういってユイさんは大釜を熱するために私から離れました。
やっぱり私はユイさんに女として見てはくれないんでしょうか…
あくまで弟子としてしてこれからも接していくんでしょうか…
切り終えた麺を1人分づつに分けていき、打ち粉を払い落としていきます。
打ち粉がゆっくりとまな板に落ちていきました。
「お湯沸騰しているけどこれでいいか?」
「はいっ!」
ユイさんに声をかけられて私は切ったうどんを大釜に入れていきます。
10分程茹でると、大釜から笊に移して冷たい水で洗います。
簡単に洗ったら完成です。
「なるほど。生地からこんなに白い麺が生まれんだな。」
「つまみ食いしないでくださいよ。」
「そんなことはせんよ。」
ユイさんが必死になって否定していますが、口がモグモグと動いています。
絶対つまみ食いしている気がします…
「なっ…なんだよ?」
「いえ、なんでもありません。それより早く居間に行きましょう。」
そういうと私はユイさんにうどんの笊を渡すとつゆを持って居間に向かいます。
居間では幽々子様がいつもの様に定位置に座って待っていました。
「あら、今日はうどんなのね。」
そういうと手を合わせます。
「頂きます。」
「「頂きます。」」
食前の挨拶を済ますと、うどんをつゆにつけて啜ります。
「うん、美味い。」
いい具合に仕上がって美味しく出来上がっていました。
「ごちそうさん。」
1番に席を立ったのはユイさんでした。
若干顔を青くして部屋へ戻って行きます。
「妖夢、手が止まってるわよ。心配なら全部食べてから行きなさい。」
その言葉に私は急いでうどんを掻き込みます。
「ごちそうさまでした!」
「ふふ、初々しいわね。」
今回ばかりは幽々子様の言葉を流して私は素早く食器を片付けるとユイさんの部屋に向かいます。
「…ユイさん? 大丈夫ですか?」
部屋からは返事がありません。
「ユイさん?」
私は思い切って障子を開けました。
部屋にユイさんがいないようです。
恐る恐る足を踏み入れます。
中は雑然としていて、あちこちに本が積み重ねられています。
「部屋で待ちましょうか…」
「俺の部屋まで来て何か用か?」
「ひゃあ!!!!?」
「落ち着けって。」
振り向くとユイさんが後ろに立っていました。
「…どこに行っていたんですか?」
「厠で吐いてた。で、なんでここにいるの?」
「それは…その…あなたの事が心配で…」
それを聞くとユイさんはにっと笑うと言葉を継ぎました。
「看病にでも来たってか?」
「えっと…その…はい…それで、『吐いてた』って大丈夫なんですか?」
「いや。大丈夫とは言えないかな?」
そういってユイさんは既に敷いてあった布団にごろりと横たわって布団を掛けます。
「ほれ、看病してくれるなら遠慮なく甘えようかな?」
ユイさんは悪戯っ子の様に笑います。
「しょうがないですね…それでは精一杯看病させて頂きます。」
そういうと私はユイさんの枕元に座ると口元を綻ばせました。
「迷惑かけるね。」
そういうとユイさんは目を閉じました。
弟子でもいいのかもしれません。
それなら、師匠を支えていくだけですから。
愛する方の側にいる。
それが大切な事ですから。
ガチの現実逃避。
文字数は8500文字です。
どんだけガチなんだよ…