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白玉楼の忘年会

令和初の年越しになりなす。

皆様良いお年になりますようお祈りしております。

白玉楼。

その居間には4つの人影が見える。

「今年も大変だったわね…」

柄にもなくしみじみと呟くのは西行寺 幽々子だ。

「ほんと、なんやかんやもう1年も俺はここに世話になっているんだからな。」

そういってからからと盃片手に笑うのは竜人のユイ。

「ユイさん! 箸を持つか盃を持つかどっちかにしてください!」

中尉をするのは半人半霊の庭師。

「いやいや、箸持って盃持って妖夢を抱える~」

そういってユイは隣に座っていた妖夢に腕を回す。

妖夢は真っ赤になって俯いてしまった。

ユイもほのかに紅くなっているがこれは照れではなく酒によるものだ。

「ユイ、やめなさい。妖夢が困っているでしょ?」

冷めた顔でユイを見るのは妖怪の賢者、八雲 紫だ。

幽々子は紫の隣で栗きんとんを食べている。

「しかし、妖夢の料理の腕は中々の物ねぇ~毎年感心しちゃうわ~」

「えぇ、おせち料理っていうのは元来正月の前に作るものなんです。

 保存が効いて見栄えもいい。そんな理由で作られているんですよ。」

得意げに語る妖夢。

しかしユイが煮干しをつまみながら呟く。

「まあ、一昨年まではそうだったのかもしれないが去年、今年と俺も手伝ってるんだぜ?」

「それもそうでしたね。いつもお世話になっています。来年も剣の修行をよろしくお願いします。」

妖夢は頭を下げる。

ユイはその様子に本気で引いている様だった。

「紫さん、妖夢がなんか変だ…」

「あなたがちょっかい出すからよ。」

「うぐっ…」

ユイはギクッとした顔をすると落ち着いた様子で座りなおした。

「おっ、やってますね。」

「お邪魔するぞ…」

 4人がワイワイと重箱をつついているとバルトとにとりが白玉楼の縁側に顔を出した。

「あら、珍しいお客さんが来たわね。竜人に河童なんて。」

「おう、バルトか!」

ユイは嬉しそうに盃をあげる。

「先輩も楽しそうで何よりです。」

バルトは苦笑しながら居間に上がり込む。

その手には風呂敷が握られていた。

「白玉楼の主様に幻想郷の賢者様、今年はお世話になりました。邪龍キトラも迷惑をかけた様でして…」

そういってバルトは深々と頭を下げる。

「こちらつまらないものですがおせちをお持ちしました、どうぞ。」

そういうとバルトは風呂敷を2人の前に差し出した。

「えぇ…ありがとう…」

異様に丁寧な物腰に2人は少し引いていたがバルトに悪意がないことが分かったのだろう。

風呂敷を解いて食卓に並べ始めた。

「ほい、座布団。」

いつの間にか座布団を片手で持ったユイがバルトに手渡す。

「ありがとうございます…ってこれなんですか?」

「ん? 長座布団。幻想郷では割と一般的って聞いたが…」

「うちでは見かけませんね…」

バルトが不思議そうな顔をして長座布団を見ていると後ろからにとりが顔を出した。

「うちの工房ではもっぱら椅子だからな。長座布団もあるにはあるが…どこかの押し入れにしまったのかもしれないな。」

「そういうことでしたか。」

バルトは食卓の一角に長座布団を敷くと重箱をつつき始めた。

「ところで先輩は今年はどんな年でした?」

「そうだなぁ…良くも悪くも決着のついた年かな。」

「決着のついた。キトラの事で?」

「まぁそれもあるが。妖夢との縁とかもな。」

そういって笑うユイにつられてバルトも笑う。

「まぁ、私も色々けじめの付いた年でしたね。にとりさんとお付き合いすることとなって竜人戦争のおかげで妖怪の山の一員に認められて…」

「その点ではあいつに感謝だな。」

「えぇ、集落の時ではあんなにも迷惑な竜人に感謝する日が来るとは思いませんでしたよ。」

「そうだな。」

ユイは盃を煽りながら少し隣でにとりを会話をしている妖夢に目をやった。

どうやら2人はユイとバルトの事を話しているらしく彼らのことを横目に見ては笑ったりしている。

「随分楽しそうだな、ん?」

ユイは妖夢に絡みだす。

「何ですかッ!?」

突然絡んできたユイに妖夢は驚いたようだったが状況がなんとなく掴めた様だった。

「えぇ…少しにとりさんとお話を…」

「何話してたんだ?」

ユイはにやにやと笑いながら追い立てる。

「それは…」

妖夢が真っ赤になって固まったところでにとりは笑い出した。

「あっはっはっはっはっ! 盟友は面白い竜人だな! お互いの生活で溜まった不満をぶち明けていただけさ!」

「おや、そうだったかい。そりゃ失礼したね。」

ユイはあっさりと退いた。

 6人に増えた白玉楼だがさらなる客が白玉楼にやってきた。

「おーっす! 弟はいるか?」

「お邪魔しま~す! おや師匠、もう宴会は始まってるみたいですよ。」

「宴会ではないだろう。忘年・新年会が何でも宴だとは思わん方が良い。」

ハルヴィア、創筆、万桜龍が幽々子の許可もなく居間に上がる。

しかし幽々子はそれを気にした様子もなく伊達巻を齧っている。

「幽々子、お客よ。」

「んん? あら、ユイのお客様ね。交友関係が多いようで羨ましいわ。」

幽々子は紫にたしなめられて初めて来客に気づいたようだった。

「邪魔してるよ、幽々子さん。」

ハルヴィアが持っていた鉄鍋を食卓の真ん中に設置する。

無論鍋敷きを忘れるようなへまはしない。

木製のふたを開けると中から白い湯気が現れた。

「ハル姐特製の雑煮だ! 存分に食ってってくれ!」

ハルヴィアはいつの間にか持っていたお玉で鍋を掻きまわしている。

「そういえばお雑煮に入っているお餅にはいくつか種類があるって知ってるかしら?」

紫が思い出したようにハルヴィアに話しかける。

ハルヴィアはニヤリを笑うと胸を張った。

「もちろん知ってるともさ。東は角餅、西は丸餅その境界は岐阜にあり! …こんな感じでどうだい?」

紫は驚いた様子もなく微笑むと解説を付け足した。

「中正解かしら。お雑煮の区分で見てみると東は角餅のすまし仕立て、丸餅でも北陸は赤みそ、近畿は白みそ、中国や九州ではすまし仕立てと多種多様ね。

 餅の方も様々で焼いたり煮たり。中にはあん餅を使う土地もあるみたいよ。」

「随分詳しいんだな…」

「ふふふ、『境界を操る程度の能力』は伊達じゃないってことよ。」

紫は楽しそうにほほ笑むとハルヴィアの雑煮に口を付けた。

創筆と万桜龍はユイ達と酒を呑んでいた。

「あら、これ獺祭?」

「正解だ! 酒の味はお前さんが一番よく知ってそうだな!」

ユイが感心したように呟く。

創筆は笑うと升を食卓に置いた。

「伊達に長生きはしてないわ。このお酒だって私が生きているころに作られたお酒だもの。」

「ほう、んじゃ俺からはこれを手土産にしようかね!」

そういって万桜龍は2つの一升瓶を取り出した。

「『砕月』と『鬼殺し』! 鬼の方は地底の怪力乱神の盃を通した極上ものだ!」

それを聞いたユイは舌なめずりした。

「師匠、砕月からくれよ!」

酒瓶に手を伸ばすユイの手を万桜龍はぴしゃりと叩く。

「バルトが先だ!」

「はぁ~?」

あからさまに不機嫌そうな顔をするユイに万桜龍は続ける。

「集落の時代、お前が暴れている間にバルトがどんだけ苦労したか分かって言ってんのか、あぁん?」

軽い威圧と共に万桜龍はユイを睨みつける。

ユイも負けじと睨んでいたが結局大人しくバルトに順番を譲った。

「じゃあ砕月で。」

バルトの注文に万桜龍は酒が溢れんばかりに並々と升に注ぐとバルトに手渡した。

「それイッキ! イッキ! イッキ! イッキ!」

酒を零さない様にするバルトを万桜龍がはやし立てる。

それに連呼する形で創筆も乗り出した。

ユイも負けじと声を張り上げてイッキを煽る。

バルトは慣れた調子で升の中身を呑み干す。

「おぉ~!!」

3人はやんややんやと歓声を上げる。

 人が集まればさらに人が集まるのが忘年会もとい宴会の常。

白玉楼の最後の客、猫辰がひょっこりと顔を出した。

「みんな元気してる?」

「元気だぞー!!」

ハルヴィアが真っ先に猫辰に呼応する。

「弟ーッ!!元気かーッ!!」

「元気だぞーッ!!」

ハルヴィアの悪乗りにユイも便乗する。

その手には鬼殺しが注がれた盃が危なっかし気に乗っている。

「久しぶりだな、猫辰!」

「ハル姐も変わってなくて何よりだよ。」

猫辰は笑いながら幽々子の隣の席に座る。

「はいこれお裾分け。」

そういって猫辰は何処からか土鍋を持ち出した。

鍋敷きの上に乗せて蓋を開けるとモツ煮の香りが白玉楼に充満した。

幽々子が目を輝かせる。

「あら美味しそうね! 本当に頂いてもいいの?」

「無論ですとも! 極上の酒を置かれて誰が手を出さずにいられましょう?」

猫辰の口上に幽々子はクスリと笑うと箸を伸ばした。

 不意に隙間が開き中から藍が顔を出す。

「紫様、新年が近づいてきました。」

「あらありがとう、藍。」

紫が宴会場と化した居間に声を掛ける。

「そろそろ年が明けるわ。どうせなら神社で年を越しましょ!」

紫の声に全員がガヤガヤと隙間に潜る。

隙間が閉じられると先ほどまでの喧騒が嘘のように静寂に包まれた白玉楼で霊達は静かに泳いでいた。

 霊夢は人の来ない博麗神社の社務所で炬燵にこもっていた。

ちゃぶ台には鍋が乗っている。

「霊夢、あなたはちゃんと人里まで言って呼び込みをしないと駄目よ。」

炬燵の中でミカンを頬張りながら説教をするという器用なことをしているのは片腕有角の仙人、茨木 華扇だ。

「え~、別にいいじゃない。どうせ呼び込んでもあの長い階段を上って参拝に来る客なんていないわよ。」

「分かっているならここの交通整備をもっとよくしておけよ…」

そう突っ込むのは魔理沙だ。

「お金がないのにどうやって整備をするのよ。」

鍋をつつきながら霊夢はぼやく。

「そうね、隙間で麓と神社をつなぐのはどうかしら?」

不意に後ろから声がかけられる。

「あ~?」

振り返る霊夢の顔は明らかにめんどくさそうな顔をしている。

「何だ、紫じゃないの。こんな縁もゆかりもないところに何しに来たの? もしかして冷やかし?」

とりあえずといった感じで大幣を持つ霊夢に紫は微笑んだ。

「神社なら除夜の鐘でもちゃんと鳴らしなさい。そうすれば少しは風情のある神社が出来ると思うのだけど?」

「そうねぇ…って何言ってるのよ。除夜の鐘はお寺にしかないじゃないの。」

「あら残念。じゃあここで静かに過ごさせてもらおうかしら。」

そういうと紫は隙間を開いて消えていった。

 博麗神社境内。

「ということらしいわ。」

紫の報告に一同はガクッとずっこけた。

「神仏習合があんたの頭にどれだけ染み込んでいるのかがよく分かった年になったな。最後の最後に…」

ユイが苦笑する。

「面倒くさがりながらもそこら辺がちゃんとわかっているのが流石巫女さんですね。」

妖夢も苦笑いで応じた。

「それでもここは幻想郷のすべての音が聞こえる。それを聞きながら新年を過ごそうじゃないか。」

万桜龍の提案にユイたちはあちこちで座り込みだした。

「しかし、何もせずにじっとここで音を聞いてるのも味気ない物じゃない? ここにとっておきのお酒があるんだけど…」

酒、という単語にユイ、万桜龍、創筆が反応する。

「どうせならチマチマと呑みながら年明けを待ってみるのも風情がありますね。」

バルトが言った言葉でそれぞれ酒瓶からお猪口に回して呑むこととなった。

「なぁ、それぞれ来年の抱負でも宣言しながら酒呑まねぇか?」

「それいいね。」

そういうとユイはお猪口を掲げて宣言した。

「来年はより一層幻想郷の警備を徹底し、侵入されるようなことが無い様訓練したいな。」

続いて創筆。

「来年…ねぇ。魔法の森で楽しく毎日を過ごせますように。」

万桜龍の番が来た。

「いつもの如く。」

バルトが苦笑する。

「それ願いですかね?…コホン、にとりさんとうまく行きますように。」

それを聞いたにとりが顔を真っ赤にしてバルトを睨みつける。

「全く、なんてことを言うんだ…私も…バルトといい一年を過ごせますように。」

それを聞いた妖夢がくすくすと笑う。

「ユイさんから一本取れるくらい上達できるよう精進します。」

ハルヴィアはそれを聞くと豪快に笑った。

「いいねぇ…弟がこの先も常にまっすぐな太刀筋と心意気を持つよう。」

幽々子が微笑む。

「そうねぇ…妖夢の成長をこの先も見たいわね。」

紫がそれを聞いてしかめっ面をする。

「…幻想郷に厄災がなく活気に満ちた世界になりますよう。」

最後に残ったのは猫辰だ。

「そうだねぇ…来年もぼちぼちと小説を投稿して充実した年を過ごせますように。それからすべてに感謝が出来る年になりますように。」

それを最後に全員が一斉に酒を煽る。

一番最初に言葉を発したのはユイだ。

「では来年もよろしく。」

「あぁ。」

年越しの子の刻は近い……

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