アナザーストーリー:酒と笑い話と
時代背景とは投げ捨てる物である( ー`дー´)キリッ
椛は居酒屋で、1人静かに焼酎を呑んでいた。
「随分としけた顔してるわね。」
「…あぁ、文様。」
感傷に浸っていると、向かいの席に射命丸 文が座った。
正直なところ椛はそこまで文が好きなわけではない。
あちこちに引っ張り回されてはその後片付けをさせられるのは結局椛の仕事だからだ。
しかし、文の情報伝達班と椛の哨戒班の友好にと他の天狗たちもペアになっているので言い出すに言い出せない状況が生まれたのであった。
「しかし、椛。あんた焼酎なんて呑むのね。」
「…それが何か?」
「いや、らしくないな~と思って。」
「…そうですか。」
「なんか今日のあなたは素っ気無いね。」
「気のせいでしょう。」
文は何かを察していた。
「そうですか。まぁいいでしょう。すいませーん! 大雪渓くださーい!」
酒を頼んで椛の様子を観察する。
「…なんですか?」
「秘密にされたら知りたくなるのが私だからね~?」
文は笑いながらもその目は椛をつぶさに観察していた。
「…やめてください。」
「やめませんよ~。生地の題材がこんな身近にあるとは知らなかったな~。これが灯台下暗しって奴かな?」
椛はそんな文の様子に苛立ちを募らせていた。
「…次に私をいらいらさせたらその首が飛んでいくことを覚悟してください。」
「あやや? 私は幻想郷最速よ? 貴方の斬撃を躱すことぐらい訳がないわ。」
次の瞬間、椛は反射的に抜き身の刀を掴み文の首筋を狙う。
しかし、掴んだところで椛は動けなくなった。
「ぐっ…うぅ…」
柄を握った時、反射的に椛はそのまま固まってしまった。
思い出したかのようににとりの家でこらえていた大粒の涙をとめどなく零す。
そのまま柄から手を放すと机に突っ伏して嗚咽を漏らした。
さすがに尋常ではない内容に触れたことは誰の目から見ても明らかだった。
文も言葉を失って泣き続ける椛を見つめる。
「椛…何があったのか私に教えてれませんか。一体、何があなたにそこまで涙を流させるんですか。」
店員が置いていった大雪渓に目もくれずに文は真剣に訊ねる。
その証拠にため口だった文の口調は敬語に変わっていた。
普段はそこに茶化した調子を混ぜているのだが今の文にそれはない。
泣いたところで少し落ち着いたのか、はたまたそんな文の様子を信用したのか椛はぽつぽつと語り始める。
「…なるほど、そんなことが。」
文はメモも取らずに真摯にその話を聞いていた。
「……。」
文は遠い目をしていた。
「…文様?」
「実は私にも昔そんなことがありましてね…」
そう一息つくと文は話し始めた。
-----------------------------
いつの頃だったかな?
とりあえず時を忘れる程長い時間です。
私はある人間のことが好きだったんですよ。
いつも取材に行ってゆく先々であの人のことが知りたくて…
あるとき思い切ってその人に想いを伝えたんです。
いやぁ、今思い出すと赤面モノですね~。
彼は私の想いを受け取ってくれたんです。
でも、私の他にもう1人彼のことが好きな人間がいましてね~。
見事な三角関係が出来ちゃったわけなんですよ。
それで、私がいない隙を見計らってその子も彼に告白しちゃったんですよね~。
…彼の出した結果はその子と付き合うというものでした。
私もまだまだ若い天狗でしたからね~。
天狗の本気を出して、思わずその人間を呪っちゃったんですよ。
そして、あの人とその人間の間に生まれたのは満月の夜にだけ獣人になるという俗に半人半獣と呼ばれる種族です。
女の子自体はかわいらしい子でしたね~。
そして、天魔様がその半人半獣を見たとき一目で私がその母親を呪ったことを見抜いちゃったんですよ。
なので天魔様は大天狗以上の者は呪術を知ることを禁止して罰として私は一生出世無しになっちゃったんですよね~。
一応、私は謝罪の手紙を書いてその人の家の前に置いておきましたよ。
あの半人半獣の子はきっと今頃どこかで死んでるんじゃないですかね?
私の苦い思い出なので知りたくなくて、調べてませんがね。
------------------------------
そこまで語り終えると文は升に入っていた大雪渓を一息で呑み干した。
「っぷは~! 語った語った! いや~やっぱりこういった黒歴史は語るもんじゃないですね。」
文は酒の所為か過去の思い出を暴露した所為か顔を赤くしながら言う。
「まぁ、先輩風を吹かすなら三角関係になってしまってもきっちりとにとりさんと話し合ってバルトさんに選んでもらったのはいいと思いますよ。あの泥棒猫みたいに人の彼を勝手に奪うようなことがなくて何よりです。」
そういうと文は優しく椛に微笑んだ。
「文様…。」
「さぁ~湿っぽい話はここまで! ここからは呑んで騒いで悪酔いして今日のことを忘れてしまいましょう!」
そういうと文は更に酒を注文した。
「もう、文様ったらそんなに呑んだらお体に触りますよ?」
「知るもんですか! こんな風に生き物というのは知識を持ち、その生きざまを他人と重ね、それを共感するから美しいんですよ!」
文は新たに追加された酒を乾杯の要領でグイと天にあげる。
椛もちびちびと呑んでいた焼酎を上にあげると文の升に軽くぶつける。
「そうですね、悩み落ち込むから私たちは生命の流れを感じ取ることが出来る。」
「そうです! では酒でも呑んでその命のありがたさを全身で感じるとしましょう!」
2人は同時にそれぞれの杯を煽る。
『~~~っ! お~いし~!!』
2人は同時に声を上げて笑う。
文は笑った。
過去の自分を嗤う為に。
椛は笑った。
これからの2人の幸せを願って。
「笑う門には福来るって言いますよね?」
「そうですね! 呼び寄せちゃいますか!?」
「呼び寄せましょう!」
そういうと2人は酒を煽っては笑う。
後に2人の天狗はこの夜のことをこう唄に記した。
秋風の 笑う門には 福来る 時代を編んでは 過去を嗤って 射命丸文
紅葉に 散ってはひらりと 舞い上がり 月夜に鳴いては 今を笑って 犬走椛




